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卒業生の1割は京都に残ってほしい!~ウスビ・サコ × 鹿島 茂、ウスビ・サコ『アフリカ人学長、京都修行中』を読む~


月刊ALL REVIEWS、2021年3月のゲストは京都精華大学学長のウスビ・サコさん。サコさんの『アフリカ人学長、京都修行中』を中心に、鹿島さんと井上章一さんとの対談本『京都、パリ ―この美しくもイケズな街』なども参考にしながら、話はマリ、日本、京都と飛んでいきます。
対談は2021年3月20日に行われました。

テレビの仕事は短く話す!でも本当は長く話したい!

鹿島さんはサコさんの大ファン。対談はサコさんの著書『アフリカ人学長、京都修行中』、『アフリカ出身 サコ学長、日本を語る』、そして、鹿島さんと井上章一さんの対談『京都、パリ ―この美しくもイケズな街』を参照しながら進んでいきます。

まずは、テレビのコメンテーターとして活躍するサコさんがテレビの仕事について語ります。テレビの仕事は短く話すことが大事。大学教員のサコさんは自ずと話が長くなりがちですが、テレビは「短く」話すことを要求されます。日頃、短く話すことに腐心しているサコさん。今日は長く話していただけます。

京都に残る古いコミュニティ

本題に入り、まずは、サコさんから母国マリの紹介。マリ王国の話は日本の歴史の教科書にも載っています。昔のガーナ王国は現在のマリ共和国というややこしい話や、黄金郷として知られるトンブクトゥの話もご紹介いただきました。現在のマリ共和国は、複数の言語が存在し、国民全体の公用語は旧宗主国のフランス語。だが、そのフランス語の識字率は約3割。なかなか厳しい現実です。

それでも、サコさんが考えるマリ人の特徴は「おおらか」。鹿島さんは、あるときフランス人の友達を訪ねたところ、その友達はバカンスに行き、留守を守っていたのが友達の友達のマリ人。そのマリ人もおおらかだったそうです。

サコさんはマリ人として、大家族の中で育ちました。子どもの頃は、家族の大人たちがそれぞれ違うことを指導するので、誰のいうことをきけばよいのか瞬時に判断しなくてはならず、そのおかげ判断力がついたそうです。

横浜出身の鹿島さんも実は大家族で育っています。子どもの時、家族の絵として、大人が12人食卓を囲む絵を描き先生にびっくりされたそうです。鹿島さんの子どもの頃の悩みは「誰が自分の親なのか」。そして、鹿島さんの住む地域もコミュニティが発達していました。マッサージ屋のおばさんが各家庭に出入りし、情報収集している社会です。効果を発するのがお見合い。あそこの家の独身の息子とこちらの家の独身の娘をくっつける。ただ、核家族化が進み、そのようなコミュニティは徐々に消えて行っています。

サコさんは京都では、床屋と家具屋がいまだにコミュニティの情報流通を担っているといいます。小規模の家具屋は家具を家に運ぶので情報通。

京都人は新しく引っ越してきた人について詳しく知りたい人たちなので、このような情報の結節点はとても重要です。サコさんも友達がくると、その人がどんな人なのか周りに聞かれます。マリ人として、古いコミュニティに慣れているサコさんだからこそ、京都に馴染めたのかもしれません。

小規模小売店が息づく京都とパリ

話は鹿島さんとサコさんの両方に縁のあるパリの話に移ります。サコさんがパリを気に入っている理由の一つは、肉屋(boucherie)のような小売店がしっかりと町に息づいていること。京都にも麩の専門店など、他の地域では成り立たないような専門店があります。

一方、鹿島さんはパリでは町ごとに「におい」があること指摘。蚤の市の近く、アフリカ出身の方が多く集う地域では、メルゲーズのにおいがします。鹿島さんはメルゲーズが大好きになった一方、アラン・コルバンの「においの歴史」を引き合いに「におい」というのはセンシブルな問題を孕んでいることを指摘します。

卒業生の1割は地元に残ってほしい

京都のよそ者の代表は大学生。よそ者に厳しい京都でも大学生には優しい。これは世界共通の出来事で、東京の大学が郊外に移転すると都心の活気がなくなるし、一極集中の解消として大学が地方に移転したパリも同じ問題を抱えています。

サコさんは卒業生の1割は卒業した大学のある地元に残ってほしいといいます。大学から継続してその町に残ることで、その町の活気が保たれていくことを期待します。

サコさんからは、鹿島さんに、「京都とパリの比較対談」を提案します。鹿島さんと井上さんの対談は「京都とパリ」に特化したものですが、サコさんとの対談にはそれにアフリカ、マリのバックグランドを付け加えることができるとのこと。コロナ禍が終わったら、対面の対談が実現するといいですね。

※対談アーカイブ動画は購入可能です。


【記事をかいた人】くるくる

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2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されました。

本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。

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