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戦略の均衡と脅威の最適化:ジョン・ナッシュ
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戦略の均衡と脅威の最適化:ジョン・ナッシュ

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※この記事は2022年3月11日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。

今日も数学史の解説していこう。
理論とさや定理がよく分からなくても、どんな経緯でそれらが発見、完成されていったのか、その歴史だけでも知ると、数学への理解はもちろん、他の科学とのつながりもよく理解できる。実際、数学史は、科学の発展と密接な関係にある。
その世界観を少しでも知ってもらうためにも、この解説が役にたれば嬉しい。

今回紹介するのは、20〜21世紀かけてに活躍したアメリカの数学者ジョン・ナッシュについてだ。
ゲーム理論の功績でよく知られている人物で、彼の戦略の考え方は経済学や生物学、政治学などあらゆる分野で応用されている。

幼少の頃から人付き合いが苦手だった彼は、運動や社交的な場はあまり参加せず、本を読んだり、科学実験をするのが好きだったようだ。ただその一方で、長い間精神病にも悩まされており、数学者として活動する中で統合失調症とおよそ30年もの期間闘い続けていた。結婚した奥さんとも、それが原因で一度離婚してしまう。

ところが、精神病院に通いながら数学者として少しずつを成果を上げていった彼は、1994年、ゲーム理論の功績を評価されてノーベル経済学賞を受賞する。2001年には離婚した奥さんとも再婚し、精神病の症状も徐々に回復していったという。彼の生涯を綴ったである『ビューティフル・マインド』という著作は大きな人気を呼んで、映画化もされた。

ナッシュが残した功績の中で有名なのはゲーム理論に関するものだが、具体的に言うと、「戦略の均衡」と「脅威の最適化」だ。どういうことか順に説明しよう。

まず「戦略の均衡」について。
1950年、ナッシュはゲーム理論に関する最初の論文を発表する。どんな内容かというと、不特定多数のプレーヤーが他のプレーヤーに相談することなく、自分の有利になる結果を得るために、限られた戦略の中から一つを選んで進行するゲームを考える。例えば、チェスや将棋のようなものだ。ナッシュはそのようなゲームに対して「プレーヤー全員がある戦略に従っていれば、一人のプレーヤーがそれ以外の戦略を取っても結果を良くすることにはならない性質を持った戦略が存在する」ということを数学的に証明したのだ。これは「ナッシュ均衡」と呼ばれていて、ゲーム理論で最も広く使われている考え方になっている。

例えばチェスでは、棋譜解析というのをすると最善手が先手と後手にそれぞれ表示される。この最善手を互いに打ち続けている限り、両者の評価値、つまりどちらが今有利かと言う値は互いに変わらない。逆に言えば、最善手から外れるような指し回しをしていると、値は必ずどちらかに傾くということだ。これが「ナッシュ均衡」と呼ばれる戦略の均衡状態だ。

次に「脅威の最適化」についてだが、これはまず、二人のプレーヤーが前もって互いの利益になるような行動をとるという「協調」。そして、そこから外れた行動に対しては特定の罰を受ける「脅威」というものをお互いに了解しあっているようなゲームについて考える。

例えば、ある場所で2人が宝探しをしていたとしよう。1人は体力はあるが手がかりを全く掴めていない人、もう1人は体力はないが、手がかりは掴んでいる人だ。この場合、宝を見つけるには2人が協力した方が見つかりやすいのは分かるだろう。そこで2人は協力関係を結び、どちらかが宝を見つけたら、その宝を2人で分け合う約束をする。もし、どちらかが約束を反故にして宝を独り占めしようとしたら、それ相応の罰を受ける。そんな状況をイメージしてもらえればいい。

ここで、もしどちらかのプレーヤーが裏切る行動をとったときに、受ける罰を複数の選択肢の中から選べるようなゲームだった場合は、各々がその罰を最適化する戦略を採用することで、本来罰が変動するゲームを、罰が固定的なゲームとして扱うことができる。つまり仮に裏切ったとしても、自分にとって一番被害の少ない罰を選べるのなら、それは罰が一つしかないのと同じだということだ。これが「脅威の最適化」と呼ばれる。

この考え方の一番のメリットは、プレーヤーの交渉能力に関係なく合理的な選択ができることだ。さっきの宝探しの例でいえば、相手を裏切って罰を受けるリスクと、宝を独り占めできるメリットを天秤にかけたとき、罰を選択肢の中から自分で選べるのなら、罰の程度によっては思い切って裏切るのもひとつの手ということだ。大抵、こういう協力と裏切りに関する話には、自分の立場をより有利にするための交渉力が必要になるが、罰を自分で選べるようなゲームであればその力は必要ない。言ってみれば、言葉選びが苦手な人でも戦えるという、ある種公平なゲームとも言えるだろう。

ゲームで大事なのは自分が得できるかどうかなので、それに従って考えれば、一見悪者に見える事でも躊躇なくやり切った方がいい。その手段の一つとして、「ナッシュ均衡」や「脅威の最適化」は使えるということだ。

数学にもこうした歴史があると分かると、今まで見てきた理論や定理、数学での考え方にも親しんでもらえると思う。
ナッシュの功績や生涯については伝えきれてないことがたくさんあるので、興味があったら調べてみてほしい。

数学最前線をになう挑戦者たち―難問の解決、ゲーム理論の展開 (数学を切りひらいた人びと)

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