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メンタリストDaiGoと松丸亮吾、ブラックカーテンと抹察官

 メンタリストDaiGo氏が「生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」、「ホームレスの命はどうでもいい」、「邪魔だし」、「臭い」などといった差別的な発言をしたことがわかり、炎上した騒動は記憶に新しいが、記事にするには今更な感は否めないだろう。

 しかし、どうしても書いておこうと思って書かせて頂いた。

 メンタリストDaiGoは筆者と同い年である。
 パフォーマーとしてテレビで活躍していた頃は、同い年で大活躍している彼を見て、単純に素敵だなぁと思ったし、ニコニコ動画やYoutubeで情報を発信している姿を見ても(頑張っているなぁ)と一目置いた存在であった。
 だから彼についての思い入れが、筆者は他の人より少し強いのである。

<松丸亮吾君が『抹察官』のモデルだった、が…>

 彼について語る前に、DaiGoの弟・松丸亮吾君についても語らなければいけない。
 っと言うのは、Amazon-kindleで出版している『抹察官』。

 その主人公で抹察官である真山一(まやま・はじめ)は、実は松丸亮吾君をモデルにして生まれたと言っても過言ではないからだ。

 そして主人公のライバル、国家転覆を図るテロリスト、真山霊(まやま・れい)、通称ブラックカーテンのモデルはメンタリストDaiGoである。

 Amazon-Kindleで『抹察官』が多く読まれて、印税が振り込まれたのは、皮肉にもメンタリストDaigoのホームレス差別騒動で炎上した時期である。普段はアクセス数0なのに、この時だけ限定で多く読まれた。
 理由は、noteに無料サンプルとして公開した第1話を読めば判る。

 第1話で、大学を卒業したが新卒で就職の内定を貰えなかった愛川翔は、ヒロインの実谷唯にフラれてしまい、公園で不貞腐れていた。
 そこへメンタリストDaiGoがモデルのブラックカーテンが現れて、愛川を誘惑し、「リベリオン」と呼ばれる特殊能力を愛川に与える。
 そして愛川は、公園にいたホームレス達を「リベリオン」の力で殺害していくのである。この時に愛川が言う科白はこれだ。

愛川「おいっ、公園は納税者のモノだ!」

『抹察官』を出版したのは2021年4月2日。
 一方、メンタリストDaiGoが炎上騒動を起こしたのは2021年の8月7日。
 筆者はメンタリストDaiGoの本音と炎上騒動を予言していたわけだ。
 勿論、彼の未来を予言するつもりは執筆していた時には全く無かったが。

<『抹察官』の設定は司法と医療の組み合わせ>

 しかし、メンタリストDaiGoと松丸亮吾、この二人が『抹察官』のキャラクターのモデルになった経緯はかなり複雑である。
 ここでは順に説明していこうと思う。

『抹察官』の設定を考えた時期は、皆さんが想像している以上に古い。
 実際に『抹察官』を出版したのは2021年4月2日であるが、『抹察官』の設定を思い付いたのは筆者が20歳の時だから2005~2006年くらいの時期で、既に15年以上が経過している。この時期の筆者は、プロにはとても及ばないまだ拙い小説しか書けなかったが、高校時代の担任や一部の友人に読ませたことがあるので、知っている人は何人か居る。

 この設定を思い付くのは、筆者が健康診断のアルバイトをしていた時だ。当時、筆者は知人の紹介で、健康診断専門の医療機関でヘルパー(助手)として働いていた。
 まず、外部から派遣された『医者』が現場の管理監督を行う。
 次にレントゲン車を運転する大型免許を取得した『ドライバー』が居る。
 彼が実際に現場で働く『看護師』『検査技師』『レントゲン技師』を乗せていき、会場を設営して運営するわけだ。筆者は専らパシリである。
 医者は全ての医療行為を行えるが、彼一人ではとても現場は回らない。
 こうして、全国の病院や健康診断の会場は運営されているわけである。
 筆者は、この仕組みを現場で知ったのである。

 筆者は奨学金の借金を背負うのを嫌ったので最終学歴は高卒に過ぎない。だが、中学時代までは絶対に大学に進学すると思っていた。
 興味があったのは法学部で、司法の仕組みには大変興味があった。

 まず犯罪者が事件を起こす。
 この時点では推定無罪の法則で、厳密に云えばまだ「被疑者(容疑者)」であって「犯罪者」ではないのだが、説明が長くなるので省く。
 それを『警察』が逮捕する。彼らは『司法警察職員』である。
 犯罪者は逮捕されると、拘置所に送られる。拘置所の職員は『刑務官』であり、『刑務官』は刑務所や少年刑務所でも働く。
 やがて犯罪者は送検され、『検察官(検事)』が彼を起訴するか決める。
 犯罪者は起訴されると裁判が開かれ、『裁判官(判事)』が彼を裁く。
 さて、犯罪者は重い罪を働いて、死刑判決が下されたとしよう。
 この時点で、初めて有罪とされて『犯罪者』となるわけだ。
 長い裁判を経て、死刑が確定すると犯罪者は拘置所に逆戻りである。あくまで死ぬことだけが刑罰なので、刑務所と違ってこき使われることは無い。
 その間、判決が確定した裁判所に該当する地方検察庁や高等検察庁では、法務大臣に提出する上申書を作成する。
 上申書は、法務省刑事局⇒矯正局⇒保護局⇒再び刑事局という長い経緯で数多くの『官僚』達のチェックされて、法務大臣官房に送られ、『法務省事務次官(官僚のトップ)』の承認と『法務大臣』がサインをして、遂に死刑執行命令書が作成される。
 死刑執行命令によって、関係者達が動き、遂に死刑が執行される。 

 死刑は判決後、6か月以内に執行義務が課されているが、あくまでも努力目標であって、どんなに迅速に行っても実際には達成不可能だ。
 附属池田小事件を起こした宅間守は、この規定を楯に6か月以内に死刑が執行されなかった場合「精神的に苦痛を受けた」として国家賠償請求訴訟を起こす準備も行っていたと聞くが、控訴を取り下げて刑が確定した2003年9月26日から1年後、2004年(平成16年)9月14日に死刑が執行されている。
 死刑確定から執行まで1年弱と云うのは極めて異例で、戦後史上最速と云われているが、これが現実的に出来る最速の死刑執行ではないだろうか。

<『抹察官』と『抹消』の誕生>

 現実の司法でこのような長い時間を掛けて適切に処理するのは結構だが、フィクションとして考えるとあまりに遅過ぎる。尺の制約が無い小説や漫画なら可能だが、時間表現である映画やテレビドラマ、アニメなどにはかなり不向きな題材と言わざるを得ないだろう。

 そこで、現実の司法が「警察官」「検察官」「裁判官」「官僚」「刑務官」「法務大臣」と数多くの縦割りと横割りが為されていることに注目し、医療の現場では、「医者」が「看護師」「検査技師」「レントゲン技師」「運転手」「助手」を、全ての医療行為が行える法的根拠から一括で管理している構造を当てはめて、『抹察官』の制度を構築した。
『抹察官』は「警察官」「検察官」「裁判官」「刑務官」「官僚」「法務大臣」が担っていた数多くの権限を全て保有し、逮捕⇒起訴⇒判決⇒準備⇒執行の全てを一度に行えるから、迅速に犯人を処刑出来ると云う理屈(あくまでフィクションの上だけで通用する)を考え付いた。 

 しかし、これだけでは不十分である。何故、基本的人権を持っている人をこれほど早く処刑出来るのだろうか。これでは法治国家ではない。
 なら「人権が無ければ可能である」と云う結論に達した。
 それで『抹消』という判決、「死刑を超える判決」を思い付くに至った。
 死刑囚にも人権がある。では、人権が無いとはどういうことだろうか? 人権が無いとされることこそ「究極の刑罰」ではないかと筆者は思った。
 この世から『抹消』された者は人権が無いので、生前の名前を失い、国民番号だけで呼ばれる。いくら殺しても構わないし、誹謗中傷もし放題。
 そんな刑罰が誕生すれば、迅速に犯人を処刑することが可能だ。
 これは現実の司法では不可能だ。この文章を読んだ弁護士ユーチューバーあたりが、「こんなことは不可能だ」と伝える様子が目に浮かぶ。

 だが、ポリティカルフィクション(空想政治)では可能である。

<ポリティカルフィクションの魅力>


 皆さんは「政治」と聞くと、選挙や国会議員、政党の話をしていることのように考える人が多いだろうが、厳密に云えば「政治」とは「司法・立法・行政」の三権である。
 つまり、架空の立法によって、架空の司法と行政とが為され、物語の中で登場人物達が振り回されていく。これが「ポリティカルフィクション」だ。
 あまり有名な言葉ではないが、ポリティカルフィクションの物語は多い。 
 例えば筆者が高校生の頃に流行っていた『バトルロワイアル』は、日本ではなく、大東亜共栄国と呼ばれる架空の国が中学生同士を殺し合わせる設定だ。ジャンルは一般に「ホラー」とされているが、国家体制が現実と違っている話の技法は「ポリティカルフィクション」である。
 またミュージシャンのGacktさんが小説を書き、映画としても撮った「MOON CHILD」は、アジアに架空の移民都市マレッパが出来ていて、経済崩壊した日本から多くの日本人が移民してきている設定であった。L'Arc-en-Cielのhydeさんがヴァンパイアと云う設定はSFだが、政治体制が変化していると云った手法は、まさに「ポリティカルフィクション」であった。
「サイエンスフィクション」=SFは科学で不可能を可能にするが、「ポリティカルフィクション」の場合は、架空の司法・立法・行政、国家の体制、政治の変化・変更で不可能を可能とする。

 こういったわけで「抹察官」の設定はかなり強い自信があったわけだが、筆者はこの設定を途中で放棄し、タイトルも「ライトニングヴァンパイア」に変更し、2018年10月8日に初版を出版した。
 何故「抹察官」の設定を放棄したか。それは「抹察官」の設定によって、キャラクター構築に大きな制約を与えてしまったからだ。

<『抹察官』に必要な学歴の問題>

「警察官」「検察官」「裁判官」「官僚」「刑務官」「法務大臣」の全ての権限、さらに『抹消』なんて究極の刑罰を下せる権限まで持った『抹察官』なんて、現実にあったら非常に高学歴でなければ就くことは不可能だろう。司法試験をトップでクリアするような物凄い知能を持った者達でなければ、とても任官出来るものではない。

 しかし、筆者は主人公を孤独な人物として描きたかった。死刑執行を担う刑務官が本当の職業を言えなかったり、人々から忌み嫌われる職業に就いて不当な誹謗中傷を受けながらも戦う……といった孤独感を描きたかった。

 ところが、これほどの権限を持っていては、どう考えても孤独になりようがない。東大や京大を卒業するような高学歴の持ち主で、強大な権限を持つためその俸給もその他の公務員を凌駕していなければ設定として不自然だ。その上、芝居の都合上やはり主人公は美男子にしておきたい。

「イケメン」「高学歴」「公務員(しかも高給取り)」

 これでは、いくら人を殺める「抹察官」と云えども、この不況のご時世、高給取りの公務員と結婚したがる女性からモテまくるのではないだろうか。筆者が『抹察官』から孤独な主人公設定を排して、ヒロインとの恋愛物語に変更したのは、そちらの方が遥かに合理的と判断したからである。
 大体、イケメンで高学歴で公務員なんて男、世の男性達はそんなキャラに感情移入出来るだろうか。「俺の方がつらいよ!」と嘆くのではないか。

 そういった判断から『抹察官』の設定は15年以上封印していたわけだが、再び筆者に筆を執らせたのは、松丸亮吾君の存在を知ったからである。

<負けず嫌いな松丸亮吾君の魅力>

 2019年5月23日にTBSテレビで放送された「ニンゲン観察バラエティ モニタリング 3時間SP」を筆者はたまたま見ていて、自分でなぞなぞを創って、テレビで注目されていた松丸亮吾君が特集されていた。
 番組にはメンタリストDaiGoも出演していて、最終学歴が慶応大学卒業のメンタリストDaiGoに対して、負けず嫌いの弟は兄に勝ちたくて東京大学に入ったことが紹介されていた。メンタリストDaiGoがパフォーマーとして、ゲームの相手を弟にさせていた時、弟の亮吾君は兄貴にどうしても勝てず、この兄貴に勝てないと云ったコンプレックスが彼の心に火を点け、猛勉強の末に東大に入れたといった紹介が番組ではされていたと記憶している。
 東大に入った弟の方が学歴的には兄を超えているのだが、それでも兄貴に勝てないという劣等感を持っている。

 このキャラクターを、筆者は気に入った。
 実を言うと、同い年のメンタリストDaiGoより弟の松丸亮吾君の方が筆者は好きである。

 メンタリストDaiGoのYoutubeを見てみると良い。彼の話は〇〇大学で行われた実験とか、所詮他人が行った研究結果を紹介しているに過ぎない。
 慶応大学を卒業し、テレビにも出ていたタレントがYoutubeに進出すると何故かこの傾向が多いのだが、例えばオリエンタルラジオの中田敦彦さんも所詮は専門外の人間が他人の文献や研究を横流しで伝えているだけで、そのことにもっと詳しい人物や業界関係者からは間違いを数多く指摘されるし、明治天皇の玄孫で「ラーメン屋」を妙に強調する竹田恒泰さんも専門である皇室や皇統については非常に高度な情報を提供してくれるが、専門外と思われるその他の政治分析や政策批判については首を傾げてしまうことが多い。
彼らの大先輩、池上彰さんもテレビ番組ではお山の大将だが、Twitterでは #池上彰のニュースうそだったのか と揶揄されている始末である。
 彼らの共通点は、①慶応大学を卒業し、②専門性が不明瞭であり、③既出の情報を横流しで披露しているに過ぎない、三点である。
 しかし、これらは仕方がないことでもあって、①慶応義塾大学を設立した福沢諭吉が「学問ノススメ」を書いたように、非常に学問の大切さを説いていた教育者であったし、②の専門性が不明瞭と云うのも彼らのタレント業やジャーナリスト業がそもそも専門的に何かを研究したり分析したりする仕事ではないことを考えれば無理強いである。③にしても知識とはそもそもほとんどが既出の情報であるから、これらを紹介したからと云って批判されては彼らもたまったものではないだろう。

 そういうわけで、メンタリストDaiGoへの批判は慶大出身者の数多くのタレント達にも当てはまってしまうのだが、松丸亮吾君の方が好きなのは何も東大を出たからって理由ではなく、「自分でオリジナルのなぞなぞ」を制作している点が気に入ったのである。学歴ではなくオリジナリティー、自分の好きなものを提供しようとする弟の方が、僕には好感が持てた。

 こうして「兄にコンプレックスを抱く負けず嫌いな東大出身の弟」というヒントを貰って『抹察官』を完成させたわけだが、あの炎上騒動が起きる。

<小物と化したブラックカーテンDaiGo>

「ウルトラマンオーブ」には、主人公のライバルにジャグラスジャグラーという悪役が出て来る。青柳尊哉のヴィジュアルと怪演も相まって人気キャラクターになったが、筆者は主人公への嫉妬から悪に落ちたジャグラスジャグラーの動機があまりに浅薄に見えて好きになれなかった。
 悪役は小物ではなく、大物でなければならない。
 フィクションには色々な悪役があって良いと思うが、理想的な悪役とは、やはり主人公や観客をも魅了して、説得されてしまうほどの圧倒的な魅力を放っているべきだと考えている。勿論、テレビの刑事物で逮捕される殺人犯や仮面ライダーやスーパー戦隊に1回こっきりで倒される怪人ならば浅薄な奴でも構わないが、物語のラスボスや主人公の終生のライバルと設定されるような重要なキャラクターならば、やはり大物の悪役でなければならない。

 そういうわけで、人々を誑かして、次々とテロリストに誘惑するブラックカーテンは、人間の心理を読めて自由に操ってしまう、そんなメンタリストDaiGoのような奴を意識して設定したのだが、あの炎上騒動で彼を買い被っていたことが発覚してガッカリしてしまったのは言うまでもない。
 テレビで紹介されていたのとは異なり、学歴コンプレックスを持っていたのはDaiGoの方だったと云う報道を見たのも残念だった。
『抹察官』のブラックカーテンはテロリストに学歴は不要と考える悪党で、自分がこの世界で一番強いからコンプレックスなど抱きようもないのだが、現実のメンタリストDaiGoは、自分をいじめた同級生への復讐や東大を卒業した連中よりもっと多い収入を得ようと頑張ってきたと云った、どちらかと云うと「ウルトラマンオーブ」のジャグラスジャグラー的な人物だと知り、

「なんだ、ブラックカーテンじゃなかったのか……」

 こうしてモデルを失ったことで筆者はガッカリしてしまった。
 そんなメンタリストDaiGoに希むのは、「少しでも良いから、ブラックカーテンのような大物の悪役に近付いて欲しい」と云った切なる願いである。

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