第百八十七回 Vo 将|将さんの言葉紡ぎinterview「アートワークから見るアリス九號.ヒストリー②」

アリス九號.のバンド結成から現在に至るまでを、デザイン的な側面、アートワーク全般から振り返っていくことで、バンドの歴史を紐解いていくこのインタビュー。
2回目となる今回は、徳間ジャパンにレーベル移籍して以降の作品の中から、ターニングポイントとなったものをピックアップ。
将の言葉を通して、アリス九號.のヒストリーを紡いでいく。


ーー今回は、キングレコードから徳間ジャパンにレーベル移籍したところからお話を伺いたいと思います。徳間時代、アートディレクターはどなたがやられていたのですか?

将:当時の日本を代表するデザイナーだった針谷健次郎さんに担当していただいてたんです。その頃はアートディレクターとして9mm Parabellum Bulletを始め、School Food Punishment、THE BACK HORN…色々なアーティストをやられていた時代だったんですよね。その針谷さんと僕らが一緒に創った最高傑作は、シングル「Stargazer:」ですね。

16th SINGLE「Stargazer:」【初回限定盤A】
16th SINGLE「Stargazer:」【初回限定盤B】
16th SINGLE「Stargazer:」【通常盤】

ーー岡野ハジメさんプロデュースによるシングルですね。

将:そうです。日本武道館ワンマン(TOUR 2010 “FLASH LIGHT from the past” FINAL「TOKYO GALAXY」)をやる前に出したシングルなんですが、このアートワークがすごかったんです。歪んでるところがありますけど、これ、加工ではないんですよ。歪んでる鏡を用意して、それを配置して撮ってるんです。メンバーのメインヴィジュアルも、その歪んだ鏡越しにメンバーが立っていて。そのメンバーの姿が見えなくなるぐらいスモークを焚いて、それを逆光で照らして撮影するという。もはやヴィジュアル系でもなんでもないんですよ(笑)。その針谷さんのキレっぷりで、「Stargazer:」はかなり前衛的な作品に仕上がっていまして。CDにDVDがついた初回限定盤A、初回限定盤B共に、素晴らしい芸術的作品になっています。

ーーこのアートワークで重要なアイテムとなっている「歪んだ鏡」というのは、将さんのアイデアから生まれたものなんですか?

将:デザイナーの針谷さんですね。針谷さんは僕の話や僕らの音楽を聴いて、「こういうことなんだね」と翻訳してくれるようなタイプのデザイナーさんだったんですが、他の方とやるようになったら、そのやり方がまったく機能しなくなったんです。武道館の後に僕らは「BLUE FLAME」というシングルを作ったんですけど。

17th SINGLE「BLUE FLAME」【初回限定盤A】
17th SINGLE「BLUE FLAME」【初回限定盤B】
17th SINGLE「BLUE FLAME」【通常盤】

ーー名プロデューサーの西平彰さんを迎えて制作したものですね。

将:そうです。それで、このデザイナーさんも超有名な大御所の方にオファーして作ることになったんですね。でもこれがですね、まあ今だから話せることなんですが、俺がやりたいこととデザイナーさんがやりたいことがバチバチにぶつかっちゃいまして(苦笑)。「ここはこうしたいんで」「いや、これは違います」と言っていたら、最終的にデザイナーさんに「ちょっと来てもらってもいいですか?」と言われたので、自分がデザイナーさんの事務所に直接出向きまして。パソコンの前にデザイナーさんと二人で座って、マウスをカチカチカチ動かしながら「じゃあここはこうですね」「ここのフォントはこれですね」と遣り取りをして。例えば、ジャケットの中の青い炎がどこにあるのか、その一つ一つの配置も、デザイナーさんとマウスをクリックしながら決めていってこのジャケットは作ったんですよ。

ーー「BLUE FLAME」のジャケットにそんな裏話があったとは

将:そうなんです。「こちらの意図、やりたいことを翻訳してイタコのように汲み取ってくれる訳ではないんだ」「世の中の名だたるデザイナーさんはアーティストなんだ」というのがこの時よく分かりました(微笑)。

ーーとはいえ、デザイナーさんの事務所までアーティスト自らが出向いてジャケットを制作したというのはあまり聞いたことが無いです。

将:ですよね?僕もこの一回だけです(微笑)。なので、デザイナーさんの事務所でデザインの形がどんどん見えてきて、自分の気持ちも落ち着いてきたら、デザイナーさんに申し訳なくなってきちゃって。最後はひたすら「生意気言って申し訳ありませんでした」と謝ったんです。そうしたらデザイナーさんも分かってくれて。最後は、ご自身が手がけてきた作品を色々見せてくれたんですね。それを見ていたら、大好きなゲームのジャケットを見つけちゃいまして。そうしたらさらに申し訳なくなっちゃいました。

ーーそれは切ないですね。ですが、どんなに大御所で有名なデザイナーさんだからといって、将さんは自分達のアートワークを全任せにはできない訳ですよね。

将:うーん…。本気になるきっかけを作れる人だったらお任せしてもいいと思うんですよ。僕はデザインに関しての熱量が狂っているんで。「こいつやべぇ」「誤魔化しがきかねぇ」というのがちゃんと先方に伝えられて、しっかり段取りが組める人だったら任せられると思うんですけど。

ーーなかなかそこまでの人と出会うというのが難しいところですよね。しかも将さんは自分でもできてしまうので。

将:何度も遣り取りする時間を考えると、「自分で全部やった方が手っ取り早いな」ってなっちゃうんですよ。そんな話をこの間[ kei ]ちゃんのライブを観に行った時にしたんですよね。だから、[ kei ]ちゃんとか僕のように作品に対して狂った熱量を持っていて、自分でもある程度までできる場合は、「この部分だけお願いします」と言えた方がクリエイティヴとして健全なんじゃないかなとも思いました。

ーーこのような将さんとデザイナーさんの様々な関わりについて、他のメンバーのみなさんはご存知なのでしょうか?

将:「BLUE FLAME」の話は知らないです。デザインに関しては、他のメンバーが僕を信じて尊重し、リスペクトしてくれているなって感じるので任せられています。

ーー将さんが決めたのならこれで間違いないと、みなさん思っていらっしゃると。

将:ですね。陰口でも絶対に否定的なことは言っていないんじゃないかなって思うぐらいの信頼を、僕は感じています。だから、歌とかステージングがどうだとかはメンバーに言われることはありますけど、デザインに関しては無いんですよ。

ーー過去に一度も?

将:ええ。「この間のあれは微妙だったからもっとこうしたい」とか言われたことは無いです。写真について、「たまには別のカメラマンとも撮りたい」とかは言われたりしますけど。デザインという観点では、本当に信頼されているなと思います。

ーーでは、この後のターニングポイントとなった作品はなんでしょうか。

将:次はユニバーサルミュージック時代になるのですが、この時、NAYUTAWAVE RECORDSで僕らをやろうと言ってくれた超敏腕で優秀な古賀さんという方がユニバーサルにはいらっしゃいまして。僕らを世の中に向けてどうアピールして売っていくのか、それをメンバー以上に真剣に考えてくれたすごい方だったんですけど。それでまず音楽の方はUVERworldやONE OK ROCKのプロデュースをやっていた平出悟さんを連れて来てくださって。デザインは「UNITED LOUNGE TOKYO」というところでやってもらってたんです。ここの鈴木さんという方が当時、少女時代をやってたんですよ。少女時代はユニバーサルだったので、古賀さんにご紹介いただいてお願いしたんですが、もうね、化け物でした!

ーー化け物?

将:ええ。「俺はもう一回人生をやり直して美大に行ってこの会社に就職したい」ってすっごい思いましたから。

ーー将さんをそこまで揺るがすほど衝撃的な出会いだった訳ですね。

将:そうですね。本当にすごい人でした。ユニバーサルに入って、「シングル3枚連続リリース」というのをやったんですけど。最初の「Daybreak」は別のデザイナーさんで、次の「SHADOWPLAY」はこれ、今だから言えることなんですけど、レーベルからのオファーを装って、こっそり相川さんにお願いしたんですよね(微笑)。

20th SINGLE「Daybreak」【初回限定盤】
20th SINGLE「Daybreak」-SHOU ver.- <メンバーソロジャケット限定盤>
20th SINGLE「Daybreak」 -HIROTO ver.- <メンバーソロジャケット限定盤>
20th SINGLE「Daybreak」-TORA ver.- <メンバーソロジャケット限定盤>
20th SINGLE「Daybreak」-SAGA ver.- <メンバーソロジャケット限定盤>
20th SINGLE「Daybreak」-NAO ver.- <メンバーソロジャケット限定盤>
20th SINGLE「Daybreak」【通常盤】
21th SINGLE「SHADOWPLAY」【初回限定盤】
21th SINGLE「SHADOWPLAY」【通常盤】

それで、次の「Shooting Star」と「Supernova」というアルバム、アジアツアーのライブDVD「Resolution -ALICE IN ASIA-」のデザインを「UNITED LOUNGE TOKYO」にお願いしたんです。

22th SINGLE「Shooting Star」【初回限定盤A】
https://alicenine.jp/d22th SINGLE「Shooting Star」【初回限定盤B】
22th SINGLE「Shooting Star」【通常盤】
6th ALBUM「Supernova」【初回限定盤】
6th ALBUM「Supernova」【通常盤】
DVD「Resolution -ALICE IN ASIA-」【タワーレコード限定/完全生産限定版】

これがめちゃくちゃすごかったんですよね。まず最初に「キーワードだけください」って言われるんですよ。

ーーデザイナーさんの方から?

将:はい。「Shooting Star」だったら「星」「夜更けの切なさ」とか、たった3、4ワードを送っただけだったんですけど。そうしたら、それだけで30〜40種類のデザイン案が出て来るんですよ!今思うと、きっと社内コンペみたいな感じで、スタッフ総出で出したものの中からよかったものを選んでプレゼンしてくれてたんだと思うんですけど。そうして、僕がユニバーサルの会議室に行くと、30〜40種類のデザイン案全部をCDのジャケットサイズで印刷したものが、テーブルの上に綺麗に並べてあるんですよ。カルタみたいに(微笑)。それで「どれがいいですか?」って言われるんです。

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限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…

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