ホテルとオックスファムと百貨店


ロンドン近郊にあるガトウィック空港の南ターミナルから、快速急行に乗ると、30分で終点のヴィクトリア駅に着く。ガイドブックの著者、リックのおすすめのホテルが、たくさんある地区である。

筆者が1998年、初めてロンドン旅行を楽しんだとき、泊まったのは、この駅から徒歩10分の小さなホテルであった。名をエリザベス・ハウスといって、たしか、1泊朝食つき15ポンド、当時のレートで、3000円ほどと記憶する。

ここで、受付の女性2人と口論になった思い出は、甘いセピア色に包まれている。ある日、オールブラックスのラグビーの試合をテレビで見ようと思って、ラウンジに入っていくと、なんと、この2人が再放送のメロドラマに見入っているではないか、勤務中にもかかわらず。

客と従業員のうち、どちらにテレビのチャンネルの優先権があるか口論になって、最後は、上司に告げ口して、クビにしてやると脅し文句を使った。こうして、筆者は所期の目的を果たしたのである。

数時間後、ラグビーの試合を見終わって、散歩に出かけた。帰りは、受付で部屋の鍵を受け取るとき、気まづい思いをするかと心配しながら。これはしかし、杞憂に終わった。2人は、口論したことなど忘れたふりをして、満面の笑みを浮べて筆者に大人の応対をしたのである。

聞くところによると、イギリスでは口論になっても、翌日まで持ち越さないことが、暗黙の了解になっているという。素晴らしい習慣だと感じ入った。まだまだ、英国から学べることは、たくさんあるのではないか。

「トリップアドバイザー」に載ったこのホテルに対する評価を見ると、これほど不衛生なところは、初めてなどと、罵詈雑言がならんでいる。筆者が泊まったときは、どこもかしこも清潔であったものだが。経営者が変わってしまったのか。

このホテルは、ウォリック・ウェイ118番地にあり、ここを出て右にまっすぐ5分ほど歩くと、左手に、ウォリック・ウェイ15番地のオックスファムの店がある。ここでは、洋服から書物、アクセサリー、小物まで、市民から寄附されたものを安価で売って資金を作り、途上国の人々の自立を支援している。

ときどき、掘り出し物が手頃な値段で売られているので、ロンドンを訪れるときは、オックスファムへ寄ってみるのもいいだろう。ひょっとしたら、日本人がボランティアとして働いているかもしれない。英国全体で約700店舗を構えていると耳にしたが、現在は、オンラインでも、格安中古品を手に入れられる。

リックのガイドブックに戻ると、買物の箇所で、ハロッズ百貨店を取り上げている。ショッピングの好きな人なら、1日中ここにいても飽きないだろうという。

また、大きなリュックサックを背負っている人は、入口で3ポンド払って預ける必要があること、半ズボンの人と草履の人は中に入れないという。この草履というのは、ビーチサンダルのことか。着物姿の日本人女性まで、草履のせいで、まさか入店を断られることはないだろう。

ほかにも、小さなリュックサックは、背中ではなくて、胸の前に抱えるか手に持つ必要があること、宝石売り場その他では、写真撮影は禁止、ケータイも使えない。また、14歳未満の子供は、年上の連れがいない限り、入店できないこと判明した。入口で、制服姿の係員が見張っている。

以上の注意点は、リックのロンドンガイド2011年版には、記されているのだが、最新版には見当たらない。そこで、この百貨店のウェブサイトを訪れると、次のことが分かった。

半ズボンと草履、またスマートフォンについては、注記事項に何の言及もない。夏の暑い時期に半ズボンとビーチサンダル姿で買い物に来ているアメリカ人観光客から、苦情が出たのに違いない。

買い物客に不快感を与えない服装が求められる。これは、店側が判断するので、誰であれ、入店を断られることがある。また安全上の点から、入店時と退店時に身体検査をされることもありうる。

写真撮影については、宝石売り場その他を別にすれば、訪問の記念に許される。日曜日の開店時間は、午前11時半から午後6時までだが、正午までは、買い物はできない。ただ見るだけ。安息日には仕事をしてはならないという宗教上の名残であろうか。

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