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【幽霊男子】永遠の王子さまを失った日

真っ白な王子さまの、その後の物語。

真夏のその日、私は久しぶりに王子に会った。
大学卒業後もたまに会っていたけれど、気付けば王子は本当にお医者さんになっていて、想像を絶する激務の医療業界で働く別世界の人間になっていた。

それでもやっぱり王子はカッコよくて輝きがあって、採血の仕草を真似て血管を触られると魔力に掛かったようにドキッとしてしまうけれど、今となっては良い友達だと思っていた。

だけど。

その日、友達を交えて飲んだあと、二人で飲み直して。

気付いたら私は王子の家にいて、王子に借りたパジャマを着て、違和感なくそこに流れる波に飲まれるように、抱きしめられてキスされて、王子と繋がっていた。

その時の私には王子を拒む選択肢なんか無くて、王子が作る流れに身を任せて、全てを受け入れるしかなくて。あれよあれよと進んでいく見えない波に、理解が追いつかないまま流される。

それでも、王子がお風呂に入っている束の間に、ベッド脇に置いてあった彼女からのお誕生日カードと2年記念の手作りアルバムをしっかり読むしたたかなズルさは持ち合わせている。そんな自分にもはや感心してしまう。

事が進むにつれて、頭の中で自分に問いかけて何度も確認する。
「わたし、ついに王子とセックスするの?」
「世界で唯一告白した相手で、私を女として見てないはずだった王子と、まさかまさかこんなことになるなんて、誰が想像した?」と。
大学生の私が知ったら、死ぬほど喜ぶんだろうな、だから今の私も喜ぶべき展開なんだよね?と変に自分に言い聞かせたりして。


きっと王子は一緒に気持ちよくなれるように頑張ってくれていて。
そして、ついに果てたとき。

そこには6年前に未遂に終わったあのときのようなとろけるような甘い感覚はなくて、子供の頃にいたずらをしてしまったあとの気恥ずかしさに似た、照れくささが残った。


朝目覚めて、当たり前のように隣で眠る美しい王子を見つめながら、おとぎの国の不思議な光景を眺めている気分に浸った。そしてやっぱり、私は王子が好きなのだなと再確認した。
この美しい寝顔の主の魔力には、どうしたって逆らえないのだ。私は。

でもその"好き"は、いつかのピュアで甘くて恐れを知らない真っ直ぐな好きではなくて、安定感を兼ね備えた包み込む穏やかな好きに変わっていた。

そして王子の家からの帰り道。
朝の満員電車に揺られながら私は気付いてしまった。
王子が永遠の王子ではなくなってしまったことを。

永遠に手の届かない場所にいると思っていた王子さまは、一瞬ではあったけど案外あっさり私に触れてきて、でもそこにはずっと幻想していた夢に落ちるような極上の甘さはなくて、残ったのは現実味のある柔らかい温かさだった。

実はこの夜には、大きな後悔がある。
それは、途中で部屋の電気をつけようとした王子を、恥ずかしいと言って止めてしまったこと。

だってね、世界でいちばんタイプの男が、私と繋がって感じてる姿を惜しみなく見つめられる機会なんて、きっとまたと無いのだから。精いっぱい全身全霊をかけて、王子の顔を目に焼き付けとくべきだったと激しく後悔。

そんなことを思いながら、わたしはこの日の出来事を何度も思い出すのだろう。なんてね。

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