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「アサクリ ヴァルハラ」予告動画のアルフレッド王の書簡についてのメモ

聖地巡礼マンガにちらっと描いた、「アサシンクリード ヴァルハラ」の予告動画に見えてるアルフレッド王のお手紙のネタ元について、つらつら書きました。

!注意!予告(トレイラー)内の画像のネタ元の話です。ゲーム本篇の内容やクエストのヒントとは、多分関係ありません

問題の動画

ゲーム「アサシンクリード ヴァルハラ」 Assassin's Creed Valhalla のシネマティック・トレイラーにアルフレッド王が出てきて普通に叫んだのですが

(映像は 1:00くらいから。ナレーションがアルフレッド王のモノローグ(!))

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衣装や道具などの時代考証はよく判らないのでさておき、アルフレッド王が書いている書簡についての(多分もう誰かがとっくにやってると思うけれども)自分用メモ。

とりあえず映像から読み取れること

アルフレッドが書いているおてがみですが、
古英語(当時の標準語)で書かれたらしき羊皮紙の1番下に、

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現代英語"There will be WAR"と書き足してあり、右に「AElfred rex」(ラテン語で「アルフレッド王」)のサインがあります。
(アルフレッドコイン風の封蝋スタンプについてはまたいつか)

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引用元は「Pastoral Care」

で、やはり気になるのがこのお手紙のネタ元。何だろう...と文字検索していたものの、古英語の知識がないので上手く見つけられずにいたのですが、アルフレッド王聖地巡礼の時の写真を見ていて、あっさり見つかりました。

教皇大グレゴリウス(1世)の「牧会規定」(「Liber Regulae Pastoralis」または「Regula Pastoralis」、現代英語では「Pastoral Care」「The Book of the Pastoral Rule」等)を、アルフレッド自身がラテン語から翻訳したと言われる古英語訳...の、前文の部分でした。

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▲オクスフォードのアシュモリアン博物館の展示パネルより。

上の写真の最後の4行くらいが特によく読み取れると思いますが、まるまる使用してあるっぽいですね。
最初に「ÆLFred」と書いてあるように、アルフレッド王を主語とした序文というか、翻訳本の受け取り手 (各教会の司教) に宛てたお手紙みたいなものなので、アサクリの動画で手紙?として扱われているのは、まぁ外れていない気も。

この写真のバージョンの「Pastoral Care」は、オックスフォード大学内のアシュモリアン博物館の展示パネル(印刷)にあったもので、現物は同じくオックスフォード大学の、ボードリアン図書館に収蔵されておりますです。
(他のバージョン、写本などが、ケンブリッジ他にあるっぽい。)

ボードリアン図書館のデジタルビューワ
https://iiif.bodleian.ox.ac.uk/iiif/viewer/47cd3bda-cd9f-43bb-87cc-4876eec3c67a#

該当の部分は、大英図書館のこれの方が見やすいかも:
https://www.bl.uk/collection-items/king-alfred-translation-of-the-pastoral-care

翻訳部分ではなく、アルフレッド自身が考えた文章かと思うと、心の底から滾りますね!!
(この翻訳書は複写して各地の教会に送っているので、筆跡は書記のものでしょうが、元の文章はアルフレッドが自分で書いてそう。内容がアルフレッドっぽい。以下説明)

書かれていること

内容です。
該当部分の古英語書き下し文は、下記リンク先を参考にしました。
(ボードリアン版とはバージョン違いなので、一部の文章が異なりますが、大体同じです。)
このサイト (Old English Aerobics/古英語エアロビクス (笑)) 、語彙をクリックすると意味や品詞などが出てくる上に、音声読み上げもあるので、古英語の勉強にも大変参考になります。

King Alfred’s Preface to Gregory’s Pastoral Care

[参考] 上のページのホームとディレクトリ:
HOME "Old English Aerobic ">Anthology> King Alfred’s Preface
to Gregory’s Pastoral Care:

古英語のアルファベットは、こちらのリンク先などを参考にしました。
(スクロールして「Old English alphabet」の画像参照)

ただ、このアルファベットの説明を見ても p/r/s/w の小文字が似たような形で、クセ字とのコンボで大変わかりづらいので、上記の書き下し文のサイトが大変助かりました。

アサクリの画像に戻ると、god sealde が見えるので、上記の書き下し文の内、この部分に該当します。

[13] Ond for ðon iċ ðē bebīode ðæt ðū dō swǣ iċ ġelīefe ðæt ðū wille, ðæt ðū ðē ðissa woruldðinga tō ðǣm ġeǣmetiġe swǣ ðū oftost mæġe, ðæt ðū ðone wīsdōm ðe ðē God sealde, ðǣr ðǣr ðū hiene befæstan mæġe, befæste.

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現代英語訳は、いつもお世話になっている この本から。
(Simon Keynes & Michael Lapidge による翻訳)

該当部分と思われる所の抜粋:

Therefore I beseech you to do as I believe you are willing to do: as often as you can,
free yourself from worldly affairs so that you may apply
that wisdom which God gave you wherever you can.

で、背景として、
◆この「前文」は、教会関係者、つまり文章が読める人達に宛てていること。
また、上記の前の文章では、
◆「イングランドでは(デイン人の侵攻により)長らく(学習)文化が衰退しており、私が王位を継いだ時には、テムズ川の南には 1単語のラテン語を英語に翻訳できる者さえ 1人もいなかった。が、今は多くの教師(となる、読み書きができる神父など)が居て、有難いことです...全能の神を讃えよ...✨✨」(意訳)
と書いてあることを踏まえて、

該当部分に書いてある内容は:

「従って(司祭である)あなたには、出来る範囲で日々の雑事から離れ、神が与えたもうたその知識を、出来る限り多くの機会に、有効に使っていただきたい。(もちろんそうしたいと思ってますよね...?)」(意訳)

みたいな感じでしょうか。
文字文化の復興と、読み書きできる人を増やすのが(キリスト教の教えを正しくあまねく広めるために)必要、という教育熱、圧を感じます。
文書主義だいじ。

なお、この教育の衰退に関する恨みつらみは、アッサー (Asser) によるアルフレッド王の伝記 「Vita Alfredi (Life of King Alfred)」にも見られ、アルフレッド王がよく愚痴っていたことが書かれています。
ので、このPastral Care の前文も、アルフレッド自身が文章を考えたんだろーなー、と推察されます。

ご参考:
あまり綺麗な画像ではありませんが、書き下し文と訳文を元の画像に貼りつけた画像を(自分用に作ったので)、ここにも貼っておきます。ざっくりした貼りつけで、色々とズレてますので、あくまでご参考程度に。

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感想

という訳で、上の文章(「知識を広めてネ!」)の下に
「戦争ダァァァ~~!!! by アルフレッド王」
と書いてしまっているのは、(異教徒との戦い的に)前後関係が合っているような、ないような、という感想ですが、ネタ元がわかってスッキリしました。

ともあれ、アルフレッド王がキリっと描かれているのは大変よいです。
ゲームの主人公はデイン人なので、アルフレッド王は敵になるんですが...。またかいな...。(ここのところヴァイキングものが多いので、敵側や嫌な奴として描かれがちで、ゲップの出ているアルフレッド王信者。← 出てくるだけで嬉しいくせにヤレヤレしてみせる、面倒臭い信者)

というか肝心のゲームシリーズはどれも未プレイ(ウォークスルー動画や映画しか見たことない)なニワカですが、アルフレッド王のために頑張りたいところです。

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発売は2020年末の予定。[修正: 2020年11月10日に無事発売されました]

UBISOFT の販売ページ

(ユビソフトだと思ってました...。ユービーアイだったんですね、すみません)

おわり

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