見出し画像

xLOVE HOLICx 蓄積された愛x

愛は言葉を選ばない
その瞬間に落ちるものだから...

瞳の温度が合わさったその瞬間に
落ちてゆく

そしてその先にあるのは、蓄積された愛、そこに空気を含むかのような孤独な感情
恋をしたら人は無口になる
そして誰もがイマジネーションの中でこそ生きる

もっと近づきたいから感じたいから愛したいから狂いたいから抱き合いたいから

自分の感情を誰かに表現したら、きっと愛はつまらないものになる
どこか遠くへ逃げていきそう。だから蓄積された愛の密度をオブラートに包み、心の中で優美に閉じ込めるんだ


TOKYO 9月

里紗:「手に入らないから執着するのよ... ねえ准一その年上の素敵な彼女が簡単に術中に落ちた
なら、あんた興味が失せるでしょ。そんなの誰にだってわかる。ねえ、結婚したいってそこまで思える?もし結婚したってあんた達一緒に年取れないんだよ。
私だって准一の事が好き。半端じゃないよこの気持ち。
だから私は所詮あんたのはけ口でも何でもいいよ。
ねえ、わかる?女のこういう気持ち...これでも私、准一が好きなんだよ」

准一:「うん....」

里紗:「何よそれ、「うん」だけじゃなくて、何か言ってよ」

准一:「今夜雨降るかな?」

里紗:「もう嫌だ。全く答えにもなっていない」

僕はずっとあの日の事ばかり考えていた
里紗の話なんかも上の空
それよりも無性に恋しかった
男のくせに何も出来ないじゃないか?

僕は忘れられない
ウオーターフロントで出逢ったあの夜の彼女の事を...
ずっと考え過ぎて、脳裏から簡単に追い払う事が出来ないあの人の事を...

突然雨が降り出して

運河沿いのパティオがクローズダウンされて

僕達は慌ててレストランに駆け込んだ

彼女の持っていたシャンパングラスが音を立ててガラスの破片となり

悲しげなオペラが反響していた

里紗:「ねえ、准一、准一ったら...やっぱあんたってこの頃変だよ。自分の世界の中だけで生きてるし、なんか化石のオブジェみたいに思えるよ」

ANOKORO NO BOKU MO IMA NO BOKU MO BOKU WA KAWARANAI
あの頃の僕も今の僕も僕は変わらない

ただ変わった事といえば、過去は降り返らなくなったという事

あの雨の夜 彼女の瞳は幾分濡れていた
泣いていたようにさえ感じる
そんな事、僕には実際どうでも良かったんだ

だけどあの瞬間から彼女は僕の心の中で生きている


加奈子:「鈴木さん? 鈴木准一さんですか?この間ウオーターフロントのレストランでお会いした加奈子です。井上加奈子です 覚えてくださっていますか?
あの日、あの雨の日の夜はごめんなさい。
ちょっと滑ってしまい...シャンパンの雫がかかってしまい...」

准一:「あっ、いや、そんな事どうでもいいんです。それより加奈子さんは大丈夫でしたか?」

加奈子:「脚をちょっと怪我しただけだから。でも、もう大丈夫です。あのレストランにはよく行かれるんですね」

准一:「近所に住んでいて、週末の午後はカフェで過ごす時間が好きで。
そういえば僕の携帯番号どうしてわかったんですか?」

加奈子:「あら、ごめんなさい。レストランのオーナーが知り合いで、あなたの事をよく知っているからって電話番号を聞き出したの。ごめんなさい。だってあなたのタキシードがシャンパンの雫でシミにでもなったら申し訳ないからクリーニングに出した方がいいと思ったのよ。あの日、お詫びすら出来なかったから。本当に勝手に電話なんかしてごめんなさいね」

准一:「全然問題ないですよ。それにただのタキシードだから...気にしないでください。」

加奈子:でも、そのお詫びにと言ったらなんですが、明日時間あるかしら?
あなたをディナーに誘いたくて...今度はシャンパンじゃなくて、ディナー付きのワインはどうかしら?」

准一:「明日?明日ですか?」

加奈子:「ええ。明日。何かご予定でも入ってるかしら?そうよね、突然だからきっとデートの予約で埋まっていますよね?」

准一:「大丈夫です。明日、大丈夫です。」

加奈子:「わあっ...よかった!じゃ、19:00にこの間のレストランに来て下さるかしら?もし私が遅れても先に入っていてね。井上の名前でレストランを予約しておきますから。」


そうして二人は電話口で微笑んだ

僕は、僕は、マジに僕は、10万年の記憶が蘇った時の嬉しさのような...どうやってこの嬉しさと感激を言葉に言い表せばいいんだろう?あまりにの嬉しさで胸が張り裂けそうになった。


敦:「よう!准一、久々じゃん!JUNの声聞いたのって何ヶ月ぶりかな?何か大人っぽい話し方になったじゃん。変わった事でもあったのかよ?」

准一:「恋に落ちた」
敦:「里紗ちゃんに?」
准一:「違う」
敦:「なんだよそれ、里紗ちゃんにだろ?」

准一:「年上の女性に」

敦:「はっ?またかよ。7年前もそうだったじゃないか...結局さ、JUNはいつだってそうなんだよ。可愛い里紗ちゃんがいると言うのに...心は別の所にあるってね。またそのパターンかよ。止めとけよ!いい加減今度だけは止めとけよ!また後悔するだけだよ。その年上の女って独身じゃないだろう?」

准一:「さあ...」

敦:「ほらみろ!止めるのに越した事ないさ。結婚してる女にだけは手を出すな!
今ならまだ間に合うよ。俺の忠告だ!あの日、7年前のあの日も俺はJUNに同じ事を言ったと思う。けど、「東京タワーが崩れ落ちる前に逢いに来て」だって。今度は何かよ。「レインボーブリッジが崩れ落ちる前に逢いに来て」かよ。なんかさ、女のゲームに巻き込まれてる愚か者の痩せ犬って感じだよ。」

でも僕は後悔してない
敦がたとえどう言おうとも...
僕に忠告しようとも...
僕は後悔はしない

あの最後の夜の出来事だって、僕にとっては人生の一番幸せな部分だったから

僕はそれ以上に敦には話せなかった

話せなかったと言うよりも、誰がなんと言おうとも、ただ僕はそれでも彼女と会うべき場所へ向かった。

加奈子:「こんばんは。准一さんですよね?」
准一:「はい」

加奈子:「この間は本当にごめんなさい。突然雨が降り出して、海外から来てくださったクライアントさん達に少しでも雨に濡れないようにって、私は慌ててシャンパングラスを持ったまま滑ってしまい、怪我はそんなに酷くなかったけどあなたに申し訳なくて。
オーナーに聞いたら、あなたの事は良く知っていますと言うから...」

准一:「僕は大丈夫でした。それより加奈子さんの脚の怪我は大丈夫ですか?」

加奈子:「ありがとう!もうすっかり良くなっちゃった。1週間前の事ですからね
准一さんはこの近くに住んでいらっしゃるのですね」

准一:「レインボーブリッジが見渡せるデザイナーズマンション」

加奈子:「わあっ 素敵!」

准一:「加奈子さんは?」

加奈子:「私、白金6丁目」

その時風が吹いて、彼女が髪に手をかざした瞬間、薬指にキラッとダイヤの指輪が光った

何気にその指輪に意識を向けるかのように、もう片方の手でその指輪に触れた

その瞬間x僕はx彼女を奪いたいxとさえ思ってしまったんだ

加奈子:「准一さん、何を考えているの?」

准一:「あの夜の日の事さ」

加奈子:「夜って?」

准一:「僕と君が出逢ったあの雨の日の夜」

二人はこれ以上言葉もなく、今にも雨が降り出しそうな運河を眺めていた
こんな大切な瞬間はもう二度と来ないだろう

そんな気がしてならない

二人には言葉がない
傘を買う以外は何もない
お互いの事はまだ何も知らない

どんなふうに愛し合い、語り合い、朝を迎えるんだろうか?
ただ知っている事は”恋に落ちた”と言う事実

加奈子:「准一さん、何がいいかしら?ここはイタリアンだけど、私はフレンチとイタリアンが混じりあったような、無国籍料理が好きなの。オペラが雑踏と反響し合い、グラスの音が響き合うような空間で語り合うのが好き。ねえ、ワインだけど、どこの国のワインが好きかしら?」

准一:「加奈子さんにお任せします」

僕達はフレンチとイタリアンが混じりあったような、絶品のシェフお勧めパスタを食べた。彼女が好きだと言うこの運河沿いのこの席で...加奈子さんは必ず隅の席を予約する。僕もそうだ。もし満席だったりしても、それでも妥協しないで30分だろうが1時間だろうが待つ。

加奈子:「わっ もうすぐ帰る時間だわ。 どうしよう?TAXIゲット出来るかしら?」

准一:「まだこの時間なら大丈夫だと思いますが...」

加奈子:「今日はうちの主人、遅くなるって言ってたから後30分位は大丈夫よ」

准一:「加奈子さん、結婚しているんですか?」

加奈子:「そうよ!そう見えない?」

准一:「加奈子さんお綺麗で可愛いから、まさか結婚しているなんてそんなふうに見えない。僕と同い年くらいだと思った」

加奈子:「あら、嬉しい褒め言葉!私こう見えてもアラフォーよ。アラウンド40ってやつ。あなたは?」

准一:「僕は29歳」

加奈子:「でしょ、あなたは若いわよ。まだまだこれからたくさんの恋をするわ」

准一:「hmmご主人様、おいくつなんですか?」

加奈子:「私と同い年よ。どこで出逢ったか聞きたい? TOKYO TOWER!
さっき別れたばかりの男と女、彼は彼女に振られて、私はイタリア人のフィアンセに裏切られた。そんな二人が同じ瞬間にTOKYO TOWERの最上階で出逢い恋に落ちた。笑っちゃうでしょ。お互い別れたばかりの二人が出逢った日に恋に落ちるなんてね。でもね。私思ったの。きっと別れた日にお互いがね。感情や愛情なんてスレスレで不安定だし、ありえないでしょ。でもね。きっと人間は男と女なんてさ、不安定な精神状態の時こそ、人を思いっきり愛せるのかも知れないってね。」

准一:「加奈子さん、僕、なんかわかるような気がする。うん。なんか理解できる」

僕は心の中で叫んだ

雨が、今、雨が突然降り出しちゃえばいいのに............

加奈子:「准一君、私そろそろ帰らなきゃ。今日は本当に来てくれてありがとう。そして楽しかったわ。そしてこの間はごめんなさい」

准一:「加奈子さん、又会えますか?」

加奈子:「今日はありがとう」

彼女は口元で微笑みながらそう言った

それから僕達が又出逢ったのは、週末の雨の降る土曜日の午後だった

彼女からの電話に呼び出され、僕は銀座にあるギャラリーに出かけた


加奈子:「准一君、紹介するわ。私の伯父に当たる山岸俊平。彼は彫刻家なの。
今回の個展は、彼が半生かけて築き上げたブロンズ像。最もそれは誇張した言い方かも知れないけど、それ程にまで彼にとっては思い入れが深い作品達よ。」

山岸俊平:「はじめまして。山岸です。准一さんとおっしゃるのですね。
加奈子からあなたの事は聞いております。」

僕は軽く会釈して中に通された

この人の心や体の中には、何十年と蓄積された化石が眠ってる
彼のすべての思いは作品の中でこそ生きる

山岸俊平:「加奈子さん、さっき健司さんから連絡があって、後で顔を出すからって。そう言ってましたよ。


加奈子:「そう、健ちゃんが?」

山岸俊平:「銀座6丁目に新しいオフィスビルが施行されるとかで、下見に来るんだって。多分その帰りにでもここに来るんじゃないかな?」

加奈子:「そう...」

准一:「加奈子さんのご主人様?」

加奈子:「ええ、彼は建築家なの。そして私は伯父のギャラリーの雇われオーナー兼バイヤー。彼の作品をはじめとする、世界からのアーティスト達の個展のコーディネートしたり、主にイタリアとパリが取引先なんだけどね。
イタリアの気候は温暖で、四季の区別がはっきりしていて、日本の気候ととても似ているわ。フランスも日本の気候に似ているんだけど、梅雨がなくて乾燥しているので、夏は過ごしやすいわよ。だけど、秋が訪れるのは日本よりも早く雨が比較的多くなるの。曇りがちの日が多くなり、気持ちもどんよりするわ。でもね、フランスは国土が広いので、地方によって気候はかなり異なるんだけどね。あら、こんな話あなたには退屈でしょ?話題を変えましょう。」

准一:「そんな事ないです。加奈子さん、ヨーロッパが長いのですね?」

加奈子:「そうね。イタリアとフランスを行ったり来たりしていたわ。あっ、フランスでは幼児洗礼を受けた子供達が分別のつく年頃になると、もう一度信仰を新たに誓うと言うセレモニーがあるの。大体12歳位の年齢なんだけどね。女の子は白いドレスで、男の子はタキシード姿。私、あなたと出逢ったあの夜、あなたはタキシードを着ていた。なんだかわからないけど、そんなあなたが懐かしく感じた。タキシード姿のあなたを大昔から知っているような気がして、そう思えてならなかったの。私が12歳の頃、両親がフランスに住んでいたから、私の懐かしい記憶」

僕はそう言って笑う彼女の横顔が妙に色っぽいと思った。

”Lover”というタイトルのブロンズ像は男女二人が絡まり合っているものだった
手も足も指先までもが絡み合う離れられない二人

僕はそのARTの前に立ち、今暫くは身動き出来ず、ただひたすらその作品に見入っていた。

加奈子:「このモデルは伯父の恋人だった女性。フランス時代、彼等は禁断の関係だった。彼女は人妻で子供もいた。だけど伯父は彼女と駆け落ちして、イタリアに渡った。子供は彼女の旦那さんだった人が育てた。彼女は駆け落ちするまでにも伯父の事を愛してた。随分昔の事よ。」

准一:「でも彼にとっては今もその女性は生きているんだと思う。想い出の中でこそ人は生きられる。そして抹消出来ない。記憶は記憶でしかない。その想い出は消す事が出来ないんだ。」

加奈子:「あなたって妙にフランス文学めいた表現をするのね。好きだわ。そういう人。私好きだわ」

僕は窓の外に意識を放った

7年前、あの雨の降る夜の事を。僕は今でも鮮明に覚えている。
彼女は死んでしまったけど、僕の心の中に刻まれている彼女の全ては今も僕と共に生きている。

もう僕は悲しいだなんて思わなくなった
人は想い出の中でこそ生きられる

そして

強くなれる

ギャラリーを出た後、僕達はカフェに立ち寄りTOKYO TOWERに登った

彼女が探している、ハートの景色が見える窓がどこかにある事を。
昼間は何の変哲もない普通の窓が、日が暮れて高層ビルや街灯の光が輝きだすと、
そのガラス窓を通してハートの形をした光を受け取れるらしい。

僕達は大展望大をぐるりと回り、日が暮れるまで其処にいた。

加奈子:「私、悲しい事があると、いつもエッフェルタワーまで来ていたわ。そして暫くはそのタワーの下にいるの。そうすると母が迎えに来てくれてね。私を近くのカフェまで連れて行ってくれる。アーモンド付きのクロワッサンをカフェオレに浸して食べるの。そんなエッフェルタワーが大好きだった。ソ連館とドイツ館に挟まれたエッフェルタワー、最近はね、2003年に施されたライトアップの装飾のせいで、ますますTOKYO TOWERみたいになっちゃった。何だかTWIN SOULみたいな気がする。

准一:「加奈子さん、窓の外が見渡せるカフェでお茶しませんか?」

僕達は暮れていく、今にも崩れ落ちそうな夜景に包まれて、何も話せず、只、時間だけが過ぎていく。

准一:「送っていくよ...今にも雨が振り出しそうだしさ」

僕は助手席のドアを開けた

”ポルシェ911 カレラ4カブリオレ” 僕の就職が決まった時、父が買ってくれた。
ソフトトップはキャビンへの風の巻き込みを抑える電動エアディフレクターの装備で、なんてSEXYなんだろう。普遍的なデザイン性。ずっといつか素敵な大人になったなら、ポルシェに乗りたいと思っていた。そろそろ買い替えたいが、このバルブターボのエンジン音が好きすぎて、メンテナンスを繰り返しながらいまだに乗っている

白金6丁目に向かい、白金トンネルを抜けた時、雨が降り出した

僕はその瞬間、即座にUターンした

運河が見渡せるあの場所へと向かった

これもきっと雨のせいだろう

そして

僕はそう思った

雨は次第に強くなり、窓越しに彼女が小さくみえた

加奈子:「私、9月の雨って嫌いよ。肌寒くて何だか悲しくさせる。准一さん、私ここで降りるわ。」

准一:「加奈子さん、ここでって、雨が強く振り出しそうだし、あなたをここで放っておけないよ」

加奈子さんはそれ以上は何も話さなかった
ずっと降り続く雨を見ていた

そして

信号で止まった瞬間、僕から彼女にKISSをした

キスの温度って計り知れるものなんだ

ふと、僕はそんな風に思った

なぜならば..外側が固くて中身が柔らかいマシュマロのような感触
お互いの皮膚の温度と密着していく情熱
全てはこの雨の中での出来事

准一:「僕の両親は僕が4歳の誕生日を迎える前に離婚した。僕は母の元で育てられ、父とは内緒で会っていた。今、父は再婚して僕には義理の妹がいる。僕が15歳の時、そんな父を酷く憎んだ。あっという間に家族が崩れ落ちていった。その先にある物は、母の虚栄心とそれでも満たされない欲望。僕はそんな母を放っておけなかったんだ。あの人、一人ぼっちなんだよ。勿論、父と母のお互いの言い訳はあるだろうけどね。大人になるのって、心に傷を蓄積していく事なんだと。
そしてその想い出は抹消する事すら出来なくて、また歳月と共にどんどん蓄積され膨らんでいく。」

加奈子はそんな准一を助手席から抱きしめた


加奈子:「准一君、私、あなたを守らなきゃって思える。人間は一人じゃないわ。例え、孤独な光の中でこそ信じ合える希望がある。やがて光は加速して、真実の愛に変わる。ほら、雨よ。この降り出した雨の中にこうしてあなたと一緒にいるわ。こうしてずっとあなたと雨を見ているわ。」

TOKYO 10月

敦:「JUN...ソレは彼女が大人の知性を持ち合わせた、自立した女性だからだよ。自分の欲望でさえコントロール出来るし、JUNには輝いて写るんだよ。何もかもがね。彼女の知性と教養。経済力、年齢差。そしてSEX...」

准一:「どうかなぁ...大人の女性は包容力もソレなりにあるけど、可愛い部分がもっとそれ以上にある。色々経験豊富だし、傷つき、許し合い、認め合い、彼女達にはそう言う憂いがある。」

敦:「JUNよっぽどその女に入れ込んでしまってるね。里紗ちゃんどうするんだよ?」

准一:「彼女は彼女でいい子だとは思うけど、加奈子さんを超えられないよ。」

敦:「よくさ、年上の女の体は愛おしいという、肉汁のようなイヤラシイ感情の情熱が流れているっていうけどね。わからなくもないよ。」

僕はその女の体だけではなく、心が欲しいとさえ思った。
加奈子さんの心が欲しいと思ったんだ。

もう10日が過ぎた。
あれから彼女と最後に逢った日から、既に10日が過ぎていたんだ。

里紗:「ねえ准一、明日、西麻布のクラブでストックカンパニーのいつものメンバーで集まるんだけど行かない?」

准一:「明日の夜か...特に予定はないけど、確約は出来ないよ。」

里紗:「行こうよ。レイナも久々に来るからさ。」

准一:「hmm...」

里紗:「マジに最近の准一ったらやってられないよね。孤独の中で生きてるみたいなんだもの。何かといえばhmm...」

准一:「hmm...」

里紗:「ほらねっ。私、准一が行かないのなら敦誘うからね。その年上の女のせいで頭がいかれちゃったんじゃないの?ね..なんかさ、そんな准一好きじゃない。気持ち悪いよ。旦那にも相手にされない女が准一の所有物扱いみたいになるのって私、許せない。絶対そういうの無理。」

僕は悲しくなった。
里紗に言われた言葉が、無性に僕を悲しくさせたんだ。
そして僕は最低の男のようにさえ感じる。

孤独の中でこそ、僕は僕らしくいられるような気がする。
彼女の匂い 僕はふと誰かとすれ違った時に、いつもそう思う。
彼女のパフュームすら知らないのに、どうしてそう思うんだろう?

僕は一人勝手に彼女のイマジネーションと生きる事を覚えた。

そうする事で心の安堵感を見出し、彼女を愛していると確信出来る。

僕はずっとあの日から彼女のパフュームの事ばかり考えている。

雨の降る午後...

加奈子:「准一さん、加奈子です。」

僕は驚きの余り、嬉しい言葉が出なかった。

加奈子:「加奈子です。」

准一:「あっはい。は...い...加奈子さん?」

加奈子:「この間は送って下さってありがとう。今晩お時間ありますか?私、一人なんです。今日から主人が海外出張なので、2週間程一人の時間を満喫出来るんです。」

准一:「2週間も?又ヨーロッパに行かれたんですか?」

加奈子:「そうなの。毎回ヨーロッパが多いかしらね。今晩時間があればだけど、いつもの場所に来られないかしら?」

僕達はいつもの場所で21:00に会う約束をした。

敦とも里紗とも連絡は取らずに、僕はいつもの場所へ向かった。

彼女の匂い...今晩こそ独り占めしてやる。僕はそう思いながらニヤけていた。

准一さん、そう言って彼女が後ろから現れた。
僕は振り返りながら、その一瞬にして彼女の匂い...僕の好きな匂いを感じる事が出来た。


僕達は長年寄り添う恋人達のように、ハグをして抱きしめあった。
次の瞬間、彼女が僕の頬にKISSをした。

加奈子:「ありがとう。来てくれてありがとう」

彼女は微笑んだ

准一:「素敵な香りだね」

加奈子:「この香り好き?」

准一:「なんていう香り?」

加奈子:「ひ.み.つ.......」

准一:「素敵だね」

加奈子:「そうね、あなたの香りってhmm純粋なシトラス系の香りかな」

僕はパフュームはつけなくなったんだ。7年前、彼女が死んだ。それからの僕は、ずっと彼女のパフュームの香りと共に生きている。だから今でも彼女は僕の隣にいる。心の中に移行するまでの時間って、そう簡単には過ぎ去らない。何年も何年も蓄積されていく

”香りの記憶”

香りが記憶している。僕の人生の片隅のスペースにすっかりと収まっている

僕は新しい恋が出来なくなった
加奈子さんと出会うまでは...

加奈子「准一さん、あなたの部屋に行ってみたいわ」

降り出した雨
7年前の記憶と同じ光景がある

27階のフロアーまでたどり着くまでの間、僕達はエレベーターの中で何度もKISSをした。イヤラシさなんかとっくに通り越して、僕の股間は膨張してもう我慢出来なくなっていた。加奈子さんは年上の品格で、それでも恥じらい心なんかも通り越していて、エレベーターの中で喘ぎ声を上げた。まるでこれが盛りのついた雌猫。いつも敦が言ってるやつさ。やがて彼女は自分の指先を僕の股間に当てて、何度も何度ももういいというくらいにまで何度も何度もしつこくさすってきた。彼女はそんな僕を見て何度もイッテしまった。

僕はドアを背中で開け、彼女を抱き抱えながらソファーに二人は滑り落ちて行った。加奈子さんは僕の髪の毛をこうやってグチャグチャにしながら僕は何度も高く突き上げながら、その度に彼女は涙を流し、僕に支配された雌猫。

Mrsの女性はKISSに飢えている
なぜならば、結婚するまでの恋愛期間には沢山KISSの喜びは与えてもらえるが、妻となってからは恋愛というよりも生活を共にする運命共同体となり、愛の形が変化する。特に男はね。ロマンチックが欠ける。女はKISSがしたい。出会った頃のように沢山のKISSでトキメキタイ

Mrs(ミセス)と不倫するならば、KISSで勝負みたいな法則が必要。

僕はどこかの雑誌で読んだ事を思い出した。そしてニヤけた。

だから、加奈子さんには沢山の長いイヤラシイKISSをいっぱい与える
ご主人から与えてもらえないKISSの代わりに、僕が代償になる

僕は100万回のKISSをした

そんな気分さ。彼女はその度に喘ぎ声を出す

そしてその度僕は...

年上の女性との愛の結晶を

僕はとても愛おしく感じてしまう。

許された二人の時間
僕達は2週間もの間、ほとんど毎日一緒に過ごしていた。

目覚めた朝、僕はイタリアンローストのコーヒーを煎れた。
エスプレッソが好きで、強い苦味と香ばしさがあり、濃厚な味わいが好き
加奈子さんもイタリアに行く機会が多く、僕達のコーヒーの趣味はとてもよく似ている。

GUATEMALAのフレッシュな酸味やKONA COFFEEの強い酸味と甘い香りが混じったようなテイストも僕は好きで、休日の朝よく煎れる。一般的にコーヒー豆はサイズが大きければ大きい程完熟度が高く味がいいらしい。僕の煎れるKONA COFFEEはエクストラファンシーの最高の等級はついていないが、HAWAIIに住む友人から毎月帰国の度に大量にもらう。

雨が降り出した夜

窓からは運河の流れが見える 
僕はこの部屋が好きで、黒い窓枠、コンクリートに囲まれた空間
無機質で、必要な所有物しか置かないMINIMALな生活

お気に入りのバスタブは真っ四角で真っ白

休日の朝は必ずOPERAが流れてる

マスカーニの歌劇:カヴァレリア.ルスティカーナが死ぬ程好き
優雅で心穏やかになれる妙に切ないメロディーライン

キャンドルが運河の流れと調和してブルーパープルの色彩へと変化し
バスタブにいる彼女の爪先から僕は少しずつ上の方へと意識を強めた

涙が溢れ出す....僕はこれ以上彼女を愛せない

7年前の記憶が蘇る

イタリアへ戻るという彼女との最後の夜

たった2時間しか一緒にいられない2時間しか許されないそんな履かない時間を彼女と一緒に過ごした。次の朝、彼女はイタリアへ飛び立つ。

だけど僕が知らされたのは、彼女が死んだという事実

それ以上もう僕は人を愛せなくなった


愛の温度って

計り知れるものなんだろうか?

愛の密度って

どうやって

どんなふうに

感じ取れるものなんだろうか?

僕は知らない

それ以上もう僕は人を愛せなくなった


加奈子さんを愛し始めたという事実
今感じ取れるのはそれだけ

僕は彼女の為にシャンパンを開けた
そして運河の見えるこの窓から乾杯をした

やがて雨が強くなり

運河の流れの波紋が僕の心の涙と変わる

加奈子:「愛しているわ...とてもあなたを愛している」

僕は彼女を抱きしめた
それ以外僕に出来る事は思い浮かばなかった

思い出すのは7年前の記憶

僕はこれ以上、記憶を塗りつぶす事がで出来ない

もし、彼女が生きていたら...

記憶なんて忘れ去る事が出来るのかも知れない

僕は記憶の中の彼女を愛してる

彼女の呼吸、仕草、語り合う笑い声

今でもここにいる
彼女はここで息づいている

僕の涙はそんな代賞でしか過ぎなくても
それでも加奈子さんは知らない
僕を愛してくれる

僕達の結末は....何もない
わかっているのは、加奈子さんはご主人の元へ戻るという事それ以外は何もない
それでいい いいんだ 僕はこれ以引き止められない

そして

僕は愛と言う名の記憶の上で生きる

蓄積された愛の記憶


To be continued...
XALEX

©️XALEX


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?