東京芸術劇場プレイハウス 東京芸術劇場Presents木ノ下歌舞伎 『三人吉三廓初買』

 武骨でシャープな黒い鉄骨造りの舞台の中央に、これもシャープな赤い鳥居が組まれている。舞台の前方中央に立札があり、「TOKYO」とかかれている。最初、なかなか始まらない。照明が落ちない。客席が照らされ、(ここ、TOKYOだよ)と観客に言うのだ。大事じゃないかここ?
 5時間半の芝居のうち、半分以上を使って、「積もっていく因果」が語られる。お坊吉三(須賀健太)は、名刀庚申丸を紛失して家を潰された安森家の息子で、和尚吉三(田中俊介)は庚申丸を奪った伝吉(川平慈英)の息子だ。お嬢吉三(坂口涼太郎)はもとは八百屋の息子だが、さらわれて女姿になっている。この三人の盗賊が義兄弟の契りを結ぶ。庚申丸の代金「百両」が物語の中を転々と転がっていき、三人吉三をのっぴきならないところまで追いつめる。
 この、TOKYOの三人吉三廓初買では、たとえばお嬢吉三はレザーのような光る黒い着物を着て、白黒のストライプの帯を背中に垂らし、チークの紅が鋭く濃くはいり、点綴される赤(襟、袖)の色が目を搏(う)つ。三人吉三は、ほんとうにがんばった。しかし、因果が積もる間が、とてもまだるい。八百屋九兵衛(武谷公雄)が息子を語って素晴らしい芝居をするが、そのほかのゆくたて、いろいろは飽く。川平慈英の洋の違和感がとてもTOKYOぽい。藤野涼子、力を入れてぴんと開いた手のひらの上に水をためているような奥行きのない芝居。余裕がないよ。躰の力抜かないと。うちかけがなぜ布団なのかよく考えて。
 こうしてアンニュイな感じで芝居は進むのかなあと思っていると、突如すべては引き締まり、弾んで、しかも上昇する。三幕、三人吉三が逃げ場をなくしてからだ。
 散々に切り立てる三人、三人の上に因果は音もなく降り、私はどこにいるのかわからなくなる。ここはTOKYOではない。EDOでもない。はっ。
 (江戸の終り)
 息づく同時代の「芝居」(しべぇ、と木ノ下は黙阿弥の台詞として特記する)の上に雪が降り、動かない三人吉三の上に雪が降り、貧しくなった通人文里(眞島秀和)一家(武居卓、緒川たまき)の上に雪が降る。黙阿弥は降り積もる雪をずっと見ている。斃れた人の上に降る雪が、だんだんに柔らかに曲線を描いていく様を、黙ってみているのだ。

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