新宿ピカデリー 『ポライト・ソサエティ』

I am the Fury!(私は怒りの権化)

と叫んでカンフーの練習をする高校生の少女リア(プリヤ・カンサラ)を見ていると、赤がFury、怒りの色であることにすぐ気づく。制服のシャツの赤(ポピーレッド)、リュックサックの赤。絵を描くことに挫折したリアの姉リーナ(リトゥ・アリヤ)は、鬱っぽく、自暴自棄で無気力で、なかなか起き上がれない。冒頭のリーナの黒い服に入るラインは水色で、姉妹二人合わせてこれが少女の両面であることがわかる。赤と水色、リアは世界への反発心でいっぱいだが、リーナの火は消えている。条件のいい結婚に傾く。リアは姉を――あるいは自分の魂を――救うため、そうならないようあらゆる方策をとる。この、「けっこんさせまい」が、リア自身の予感もなく、少し無理で、結末まで長い。

 リーナは人生をあきらめ、富豪の息子で医師のサリム(アクシャイ・カンナ)と結婚しようとしている。しかも、ここでびっくりなのは、「ラスボス」サリムの母ラヒーラ(ニムラ・ブチャ)が、真っ赤なワンピースを着て現れることだ。ラヒーラも怒りを持ち続けているのだ。学校を出たらすぐに結婚させられた、選択肢など一つもなかった、自分の優位性を家で爆発させる女。リアの怒りは、ラヒーラと通底している。リアが父権制の社会を越えて地平を切り開こうとしているのに対し、ラヒーラは機会を与えられなかったものの怒りを子を操作して晴らそうとするのだ。少女に与えられる突然の枷、それはマニキュア(甘皮を押し下げる)かもしれないし、ムダ毛処理のワックス(溶けた蝋を塗る)かもしれない。その枷を運んでくるのはラヒーラだ。枷は誘惑であり、拷問だ。

 一番怖いのは、自分の中から聞こえてくる「あたしは役に立たない普通の子」というささやきだけど、540キックのカンフーやダンスが、そのささやき、呪いをすべて吹っ飛ばしていく。擬闘が痛くて、痛すぎない。学校の図書館での決闘、姉妹の喧嘩、最後の戦いなど、どれも爽快だ。リアの女友達は皆きっちりキャラが立っている。Furyを持ち続けている全少女に自信を持ってお勧めできる。
#映画

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