スパイラルホール モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』

窪塚愛流、19歳。初舞台だ。上手からのライトを浴び、カーキ色のつなぎを着て、舞台奥から怖そうに、小さく一歩ずつ歩いてくる姿を見て、(おっ)と思う。場の空気が躰に通っている。最初からこんなことできる人珍しい。稀。「そこに居る」。これまでの映像での体験か、それとも初舞台がそれほど怖かったのか。いいよ。でも残念、台詞をしゃべりだすとしゃがれていて不明瞭だ。こんなことは後からいくらでも取り返しがつく。だが、チケット6500円のたった今、今日はだめだ。
 痩せて胸の薄いこの兵隊は、たった一人穴の中で敵を待っている。命は一人にひとつだけだと託(かこ)ち、次の瞬間、「えええ!いっこだけ?」とすごく驚くところで、ひ弱そうな「ボクA」が好きになってしまう。これから舞台をやるつもりがあるかどうか知らないが、習練が必要な場所以外には見込みがある。習練できるかどうか、すべてそこにかかっている。
 「ボクの穴」のほかに、ここにはもう一つ穴がある。それは敵の「彼の穴」だ。「ボクB」を演じるのは篠原悠伸である。台詞に詰まっても慌てず乗り切り、それがオレンジ色のつなぎを着た兵隊(ボクB)のお人柄にも見える。一か所、漫才のノリ突っ込みのようなことをするシーンがあり、がっかりだ。それってパッケージになっててちっともオリジナルでない。ボクAとボクBは互いに近づき、ほとんど同じ穴で会話しているように思えるほど相寄る。吊り下げられた穴は国旗のように怖く、鮫の口のように獰猛だ。投げられる瓶はユーモラスですこしジーンとする。
 18時から同じ演目を上川周作(ボクA)と井之脇海(ボクB)で観る。台詞のひとつひとつが粒だって聞こえ、荒野、あるいは砂漠がくっきりする。目に見える。「戦争だ。」はちょっと味がなかった。窪塚が耳を開けて気配を調べつつ、半歩ずつ歩いてくるシーンに比べると、完成度は高いが、まあちょっと「芝居過ぎる」。芝居慣れしてる。井之脇は俊敏な兵隊らしくてよいのだが、自分の中で流れる芝居に気を取られすぎて、耳が閉じ、台詞が「おはなし」っぽくなっている。上川も井之脇も、「その場に居る」ができたら無敵だよ。芝居の景色、面白さ、ストーリーのやさしさはよく伝わったが、「しょせん芝居にすぎない」と言われちゃう場所を克服してほしい。予定調和はだめ。上川の銃さばきは、あれ、儀仗兵のでしょ、やるなら完璧にやる。

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