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『バナナムーン』はいつまでやるのか。空気階段ラジオのかが屋ドキュメント

先週のTBSラジオ『空気階段の踊り場』(2020.2.28放送)が久しぶりの神回だった。

奥さんと新居を構えた水川かたまりに、夫婦で風呂に入る音声を録音してこいと要求した鈴木もぐらは、願いを拒否するかたまりの自宅へ突撃すべくラジオスタッフと共に相方の尾行を試みる。
が、かたまりに気付かれてもないくせに、三度も撒かれてしまうポンコツチームは、失敗終わりにかが屋の加賀翔と偶然出くわした。急遽「泊まりもぐら」企画へと舵を切ったチームは加賀の家でロケを強行するのだが、かつてのかたまり同様、加賀もラジオでの公開プロポーズ決行した不安定な時期だった。迷惑なもぐらが押しかける、いつものドタバタコメディーになるところが、事態は10年付き合ったカップルの別れを取材するドキュメンタリーへと転じていく。
詳しくは、先月放送された『かが屋のオールナイトニッポン0』(2/15)→『空気階段の踊り場』(2/28)→『かが屋の鶴の間』(2/28)を聴いて欲しいのだが、『踊り場』の方は、加賀とAちゃん(加賀の現・同居人)へのインタビュー、思い出の曲を流すスタジオ、加賀と同郷のかたまりが再び号泣するなど、これまでの『踊り場』必殺パターンが融合したような、ハートフルな奇跡が生まれた放送だった。

さて、『踊り場』では放送の最後にいつももぐらの一言があるのだが、今回は、加賀の家に泊まることになったもぐらと加賀が寝る直前に交わした言葉がオチになっている。

もぐら「Aちゃん、ちょっと電気消してもらっていですか?・・・・あー・・・加賀ぁ」
加賀「はい」
もぐら「今年も一緒に決勝以降な」
加賀「ぜっったい行きましょうね!(笑)」
かたまり(スタジオ)「ハッハッハッハッハッハ」

なんてことないシメの会話なのだけど、昨年のキングオブコントで決勝進出した空気階段とかが屋の人間性やプライベート、公私で戦う姿を聴いてきたリスナーからしたら、激アツ放送の胸アツエンディングである。

最高の回だ、いつかこの二組がバナナマンとおぎやはぎがかつて結成した『epoch TV sqcuare』のようなコント番組をやれたらいいなあ、なんてじんわりしていたとき、似たような情景を思い出した。

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ファンには有名な、バナナマン結成秘話がある。
社会人生活を切り上げて芸人になる設楽に対し、高校卒業後すぐに舞台に立っていた日村。友達期間なくしてバナナマンが結成された日、電車を逃した日村は設楽の家に泊まることになる。
寝る直前、電気の紐を引こうと立ち上がった日村は、設楽に突然こう言った。

「俺たちこれからすごいことになるから」

当時ギンギンに冷えていた(本人談)設楽は、「こいつ恥ずかしいこと言うなあ」と思ったらしいが、バナナマンが「すごいことになった」いま、日村のクサい台詞は、こうして話すに相応しいエピソードである。
とはいえ、この言葉が引っ張り出されることに対して、すでに設楽はこう分析している。

設楽「過去の偉人の人たちが残した名言とかも、他のものは全部なくなってそこだけ残るんだよね。となると、これもし、俺らが本当に何かをやったときに、「コンビを組んだ当初、日村は設楽に『俺たちこれからすごいことになるぜ』と言ったらしい」ていうのが残るじゃん。とすると、蓄積したモノすべてが、日村は予感してたみたいにはなるわけだ。これはもう、変えられない事実なんだ、言ったということは。スタートの時点で。ここの間は何も関係なく、今日の俺ら、十年後の俺ら、二十年後の俺らが何かした場合に、その言葉引っ張り出せば、もう日村さんは全部に対して勝ったことになるんだよね。何かをやったことが……勝ち負けじゃないんだけど。要は『日村は見えてた、日村は分かってた』になるから。これはでも変えられない事実として残るから、俺ズリいと思うんだよ(笑)」
日村「ズルいったてしょうがないよ(笑)」
設楽「もうしょうがないんだよ、俺はもう言えないから。(中略)すごいことになるってフワっとした言い方が、すべてに対して当てはまるから」
2011年11月26日放送『バナナムーンGOLD』より

実際、このエピソードは様々な番組や媒体で語られてきたわけだが、2019年4月26日放送の『バナナマンのバナナムーンGOLD』に漫画家・浦沢直樹がゲスト出演したとき、「あの夜」を二人の視点から描いた色紙がそれぞれにプレセントされた。

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放送を聴いていた僕は、違和感を感じた。

『バナナムーン』がいつからか神田伯山が言うところの「ダラダラしたJUNK」になった感覚は僕の中にもあり、テレビを中心とした芸能界の「勝者」となったバナナマンのサクセスストーリーは、天井に達している。彼らのラジオリスナーである浦沢直樹が2人の物語1ページ目を作品にし、本人たちも喜んで受け取る姿はその証明に思えた。

『バナナムーン』はたけし・伊集院と距離の空いた世代にとって「ラジオの成功例」だ。しかし、話やたたずまいへの想いこそあれど、それ以上の刺激を感じない。何を楽しみにこれからの二人の会話を聴けばいいか分からない。「勝者」は言い換えれば人生のベテランだ。変なことでは悩まないし、口走らないし、金も余裕もある。感情を揺さぶるエピソードよりも、毎年恒例企画の数々の方を期待してしまう。

ラジオに進行形のストーリー性を求めるのは野暮だろうか。
ストーリー関係なく面白いものを楽しめよ、とも思うけど、深夜ラジオの最大の魅力はパーソナリティの人間性のはずで、人間性とは設楽が言う"蓄積"で測れるのではないか。
浦沢直樹からの色紙授与によって、バナナマンは蓄積をパッケージに収めてしまったのではないかと僕は思う。

Tシャツプレゼント企画を連発しだした『バナナムーン』のストーリーが、ついに終了を迎えたと強く意識したのは去年の日村バースデー回。
バナナマンが成り上がる道のりを並走したポップスター・星野源は、10年間にわたって日村の誕生日にゲスト出演し、バースデーソングを歌い続けた。そして、今年で一区切りにしようと宣言された昨年のバースデーソングの歌い出しがこれだ。

あっという間だ
10年も経ったな
今じゃ僕らど真ん中に立った
消費されても消えぬ炎
胸に宿しながら笑い声と歌声

「真面目にふざける」を体現する星野源と、多忙を極めながらも毎年の単独ライブを欠かさないバナナマンが、ブレずに10年やってきて、「ど真ん中」に立った。
戦友であり親友である2組がそれを確かめる様子に温かくなった夜であることは間違いないが、感動と同時に「おめでとうございます。もういいんじゃあいですか」という気持ちにもなってしまった。

お笑い芸人のラジオ的なサクセスストーリー展開を、バナナマンはとうの昔に完結させたはずだ。これ以上のバナナマンの進化は、わざわざ深夜のラジオを聴かなくても分かる。
バナナムーンファミリーである星野源、乃木坂46、東京03や、若手時代から交流のある芸人もみんな売れた。佐久間さんまで表で売れた。ADドロボーもchelmicoのラジオでディレクターをしている。チームバナナマンはみんな成功したのだ。
ベテランのおじさんが楽しそうにしている様を心強く感じることもあるけれど、podcastが終わり、恒例行事を開催し続けるベテランが、その枠に座り続けなくてもいいのではないか。
ラジオ的な自由性を残しつつ、バナナマンが様々なジャンルの人に愛され、交流する姿を両立する『ドライブスリー』の方が今のバナナマンらしい番組に見える。

無名の存在や、賞レースにかける若手、若手とベテランに挟まれた芸人(0時代三兄弟など)の本音や人間味を聴きたいし、チャンスに恵まれてほしい。

『バナナムーン』には、ハロウィーン、節分、クリスマス、年末歌地獄などの季節を感じる恒例行事がたくさんある分、番組がなくなればリスナーには大きな喪失になるだろう。でも、感情や葛藤、ギラギラした部分を吐き出したいパーソナリティが狙えるであろう深夜ラジオの大きな枠を、いつまでも勝者が独占し続けなくてもいいんじゃないか……とも思うのだ。

「いつかバナナさんに追いつきたいです、って言ってくれる後輩もいるけどさ、そのたびに『いや、俺らも進むからね』と思う」
数年前に設楽が話していたことを覚えている。それは正しかった。芸能界の「ど真ん中」にバナナマンは立ったのだ。

旬の人間を積極的に交換することで若い血液を流し続けるオールナイトニッポンのような編成が絶対とは思わないが、溢れる感情や人間味をさらけ出す覚悟と面白さが備わっている下の世代が、大看板の下で生放送なり長尺の番組をやれますように。

【第48週のテーマは「お家芸」でした】

(オケタニ)
https://note.com/laundryland

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