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【年間ベスト・アルバム】ジャンルとかスタイルとか「新しい価値観で壊していこう」なアルバムたち。

テレビでは未だに「令和最初の」なんて言葉が並ぶのだけれども、今年は2010年代の終わり、という意識の方が強かった気がする。特にいま大学4年生である僕らにとっての2010年代は、中学時代から大学時代までのことを指す。いわば人格形成に影響を及ぼしやすい期間を、2010年代という時代と共に過ごしたのである。

iPodからiPhoneへ、TSUTAYAからSpotifyとNetflixへ、ブックオフからメルカリへ。自分たちを取り巻く環境も大きく変わったし、この10年間で趣味嗜好も大きく変わった。そんな2010年代最後に聴いてきて気に入った音楽たちは、驚くほどにジャンルもスタイルも美学も異なるし、それと同時に自由でエネルギーに満ちた音楽が多かった。もはや住んでる場所も、生まれも、世代も、ジャンルも関係ない。

PUNPEEは「おげんさんといっしょ」で「新しい価値観でぶっ壊してこう」とラップしていたけど、もうあらゆるものが新しい価値観でぶっ壊されている。そんな、すべての垣根をぶっ壊している音楽たちを選んだ。

2019 Best Albums

10.『Who Wants to Be A Millionaire?』Chinatown Slalom

サンプリングビートのザラついた音像が心地いいのだけれども、突然サイケデリックな音が突然入ってくる瞬間が何度もあった。アヴァランチーズを彷彿とさせるマニアックさがあるが、音はあくまでも現代的。トラックメイカー・DJとしてのセンスを感じるアーティストだなぁ、と思ったらまだ10代・20代前半のメンバーによる「バンド」だということに驚いた。サウンドだけでは判断できないのも、いい。

9.『Piercing』小袋成彬

先週のnoteでも言及したのだけれども、あらゆる現行のポップミュージックの要素を一つのトラックに緻密に配置して、そこに寂寥感のあるメロディと言葉が乗ることによって、オリジナリティが溢れたアルバムになっている。これが2020年代以降の日本語ポップスのスタンダードになって欲しい。

8.『Detox』Mom

USのヒップホップ由来の自由なグルーヴ感と、日本語フォーク由来のメロディ、そして乾いたビートと冷たいボイスエフェクトが生み出す不気味さが渾然一体となった「恐ろしい」アルバム。歌われている言葉も過去の内省と未来への諦念であることが、今の自分が感じていることと世の中の空気感にピタリとはまった。年末のライブのMCで「一緒に新しい時代を作っていこうね」とMomは言っていたけれども、彼の音楽が新しい時代のJ-POPになるとしたら、2020年代はきっといい時代になる、はず。

7.『Sinner:KDJ-47』Moodymann

恥ずかしながら今年知ったデトロイトテクノの重鎮の新作。テクノビートの中にソウルミュージックの意匠を込めたトラックからは新しさを感じたのだけれども、90年代から活躍する大ベテランであることに驚いた。ループする機械的なビートの中に、突然人間くさいフレーズが入ってくる感覚が心地いい。アナログ盤と配信盤で収録曲が異なるらしいので、いつかアナログでじっくり聴きたい。

6.『Only Diamond Cut Diamonds』Vegyn

Frank Oceanの『Blonde』に参加していたトラックメイカーVegyn(ビーガン)のソロ作品。浮遊感の中に感じる刺激的なビートと、音と音の隙間から滲み出る心地よさ。そしてなによりあらゆる「声」を一つの音の要素として組み込んでいるのが面白い。無機質なサウンドの中に、加工された生々しい声が入ってくることで新しい響きがもたらされている。

5.『Jesus Is King』Kanye West

今年、個人的に最もアルバムのリリースを待ち望んでいたアーティストの一人。そしてようやく出た作品は、ゴスペルとヒップホップの融合をあらゆるアプローチで試みた、怪しげな荘厳さに溢れたものであった。

キリスト教の解釈やゴスペルとしての精度は、かなり賛否はあるようだが、何度も何度も聴きたくなるような異様な魅力がこのアルバムにあることは確かである。

4.『AllMyHeroesAreCornballs』JPEGMAFIA

いきなり暴力的なビートから始まったと思えば、次の瞬間にはメロウなピアノが鳴り始める。そんな調子で、心地よさと刺激が交互にやってくる、アンビバレンスな魅力を持った曲たちが収録されたアルバム。一体いくつの音が入っているのか、いまだに分解できないほどのアイデアとサウンドが詰め込まれているが、カラッと乾いたラップが中心にあることで、しっかりポップな作品になっている。あらゆる形で相反する音の要素たちを配置していくこと、というのが現代のポップミュージックの大原則になりつつあることを実感した。

3.『Pony』Rex Orange County

ロンドンの21歳のシンガー・トラックメイカーの作品。どの曲も大上段に構えた超王道のポップソング、でありながらしっかりとヒップホップやR&B、インディロックの要素を噛み砕いたアレンジメントが施されている。やや大味という批判も多くあるようだけれども、いまの時代に強度のあるメロディをしっかり鳴らして、しかもそれが世界中の人に共有されているということが素晴らしい。ポップミュージックの伝統を受け継いで正統にアップデートすることをしっかり背負っている数少ないミュージシャンだと思う。

2.『When We All Fall Asleep,Where Do We Go』Billie Eirish

言わずと知れた今年の顔。あらゆるジャンルの要素を折衷したトラックと、圧倒的にキャッチーで強度のあるメロディとフレーズ、そして繊細に囁くような声が生み出す刺激。それらがすべて、新しい。世界中のティーンを巻き込んだムーブメントと、ライブでの熱狂、そして本人のカリスマ性も込みで、すごくワクワクしたアルバムだった。間違いなくいまのポップミュージックの中心であるし、今後も語り継がれていく一作になる気がする。

1.『IGOR』Tyler,The Creater

オーセンティックなポップスの王道を、ヒップホップというフォーマットでやってのけてしまった名作。メロディもハーモニーも、音の重なりから生まれるメロウさも、オルタナティヴロック的な刺激も、サンプリングの妙味も、アルバムを通したストーリーテリングも、そして人間くさい切なさも、全部ここにある。自分が素敵だと思う音楽の要素が全部詰まった作品なので、一位。

Best 11〜50

11.『1000gecs』100 gecs
12.『Schlajenheim』black midi
13.『ApolloⅩⅩⅠ』Steve Lacy
14.『Father of the Bride』Vampire Weekend
15.『MAGDALENE』FKA Twings
16.『thank u, next』Ariana Grande
17.『Ventura』Anderson.Paak
18.『No Home Record』Kim Gordon
19.『ANGELS』THE NOVEMBES
20.『Giant Swan』Giant Swan
21.『LEGACY!LEGACY!』Jamila Woods
22.『Assume Form』James Blake
23.『When I Get Home』Solange
24.『NormanFuckingRockwell!』LanaDelRey
25.『THE ANIMALS』Suchmos
26.『The Big Day』Chance The Rapper
27.『Hyperspace』Beck
28.『Epilogue』Aaron Abernathy
29.『House of Sugar』(Sundy)Alex G
30.『KIRT』Da Baby
31.『I Am Easy to Find』The National
32.『No Waving,But Drawing』Loyre Carner
33.『angel』Tohji
34.『けものたちの名前』ROTH BART BARON
35.『BUBBA』KAYTRANADA
36.『FEET OF CLAY』Earl Sweetshirt
37.『A Different Kind Of Human Vol.2』AURORA
38.『834.194』サカナクション
39.『Princess Catgirl』Cashmere Cat
40.『Arthur Moon』Arthur Moon
41.『Green Balloon』Tank and The Bangas
42.『new breed』Dawn Richard
43.『Diaspora』Gold Link
44.『NoWorldAsGoodAsMine』Kai Whinston
45.『Fear Inoculum』TOOL
46.『ANIMA』Thom Yorke
47.『光の中を泳ぐ』内田珠鈴
48.『Tomb』Angelo De Augustine
49.『We Are Not Your Kind』Slipknot
50.『エアにに』長谷川白紙

2019年 Best Albums 【国内編】

1.『Detox』Mom

2.『Piercing』小袋成彬

3.『ANGELS』THE NOVEMBERS

4.『THE ANIMALS』Suchmos

5.『angel』Tohji

6.『けものたちの名前』ROTH BART BARON

7.『834.194』サカナクション

8.『光の中を泳ぐ』内田珠鈴

9.『エアにに』長谷川白紙

10.『So Kakkoii 宇宙』小沢健二

11.『m.p』MON/KU

12.『New Luk Thug』Juu feat.G.Jee

13.『午後の反射光』君島大空

14.『JUST SAYING HI』Kuro

15.『cherish』KIRINJI

16.『BE KIND REWIND』lyrical school

17.『KAWAII BUBLLY LOVELY Ⅱ』Elle Teresa

18.『mint exorcist』FINAL SPANK HAPPY

19.『kawaiiresist』田島ハルコ

20.『Attitude』Mrs.GREEN APPLE

国内のものもいい作品がかなり溢れていて、選びきれなかったのだけれども、20位まで紹介。日本にもジャンルレス化の波はしっかり訪れていて、そのことを受け入れた上でどうアプローチするか、というのがポップミュージックの大前提になっている気がする。ここで紹介した作品はそうした前提を受け入れた上で「自分のスタイルの中でどのように現代的な音を日本語で解釈するか」(THE NOVEMBERS、ROTH BART BARON)、あるいは「自分が掘り下げるべきサウンドとストイック向き合う」(Suchmos、サカナクション)、そして「あらゆるジャンルの要素を折衷して新しいポップミュージックのスタイルを打ち立てる」(Tohji、長谷川白紙、内田珠鈴)ということを成し遂げているように思える。

(小沢健二だけは、全く別のことをやっている気がするけど。)

ともあれ、「日本のポップミュージックがみんな同じようなものばかり」というのはすでに昔の話で、いま売れていてここで紹介できなかった、あいみょんも、Official 髭男 dismも、King Gnuも、ずっと真夜中でいいのに。も、J-POPのフォーマットの中で新しい要素を取り込むことへの挑戦を繰り返している。そうした試みは多分来年以降、より表面化されてくるはず。

2020年の音楽たちに期待を込めて、よいお年を。

(ボブ)

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