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【インタビュー 後編】株式会社スピカワークス 鈴木重毅さん  「漫画家さんが何かを望んだらできるだけすべての望みに協力していく」

女性漫画家さんのマネジメント会社・株式会社スピカワークスを立ち上げられた鈴木重毅さんのインタビュー後編です。講談社在籍時代に『デザート』の編集長も務められた鈴木さんが株式会社スピカワークスを立ち上げられたきっかけ、またこれから挑戦したい事業についてお話をお伺いました。漫画はもちろん、あらゆるエンターテインメント作品の制作を志されている方々にぜひ読んでいただきたいインタビューです。(前編はこちらから)

ーーそんな鈴木さんが、独立して漫画家さんのマネジメント会社であるスピカワークスを立ち上げようとなっていったのはどうしてでしょう。 

鈴木 基本、漫画家さんと話すのが大好きなんです。今でも「絵も物語も描ける」漫画家さんには憧れと尊敬があるので、どうやって描いてるのか聞いたり見たり出来るだけでもすごく楽しいです。それ以外にも、漫画家さんからの質問に一つ一つ答えるのが勉強になるし、それぞれの漫画家さんの価値観が知れるのはとても面白いです。だから、僕はずっと漫画家さんと一緒に仕事をしていたかったんですよね。

ーーそしてスピカワークスを立ち上げられるわけですが、具体的なきっかけを教えていただきたいです。

鈴木 編集長を6年やって年齢が上がるにつれどんどん管理職っぽい仕事が増えてきたんですよ。そのときに自分がなにをやりたいんだろうと改めて考えた結果「ずっと作品をつくる側にいたいな」と思ったのが一番です。あと、ITのおかげで様々な方法で漫画に関わる人や漫画で表現する人が増えてきたのも大きかった。もともと新しいものが好きなのでそういう事情も知りたくて。新しく出てきた人たちとたくさん喋ったり、講演を聞きに行ったり、仲良くなったりするなかでもっと広くいろんなところで仕事したくなってきたんです。

 あと僕の流儀として「漫画家さんが何かを望んだらできるだけすべての望みに協力していく」という想いがずっとあって。でも、出版社の特定の雑誌に所属しているとどうしてもその雑誌の利益を最優先に考えざるを得ない。そうすると「絶対にうちで連載して欲しい」「他で連載してこっちが休みがちになると困る」みたいな理屈になるんですけど、それが漫画家さんにとってベストな状況だとは言い切れないですよね。例えば漫画家さんに「いろんな場所で活躍したい」と言われても、特定の媒体の編集長・編集者のままでいるとその望みに答えられない。僕は編集者として、漫画家さんを無理やり縛り付けたり、仕事させたりというのはあんまり好きではないんですよ。むしろそれによって増えていくストレスを除いて、作者が持っているすべての望みに協力していくスタンスでやってきました。なので、こういう時代に漫画家さんが特定の雑誌だけに所属することに違和感を感じていましたし、なにを望まれてもそれに応えられるような立場に自分がなりたいなと考えた結果、自然と生まれたのが漫画家さんのマネジメント会社である「スピカワークス」でした。

ーー漫画家さんの挑戦の仕方も変わってきたのでしょうか。
 
鈴木 変わってきましたね。連載先を掛け持ちしたい人とかもどんどん出てきました。媒体も例えばスマホで読まれる縦スクロール漫画が出てきて、「今までの見開きの漫画も描きながら、縦スクロール漫画にも挑戦してみたい」とか「WEBの4コマに挑戦してみたい」とか。

ーー電子媒体で漫画が読まれるようになることで物語のつくり方は変わってくると思いますか。

鈴木 幅が広がると思います。見開きの一色の漫画と縦スクロールフルカラーのWEBTOONって僕にとっては全然違う表現なんですよね。WEBTOONは漫画とアニメの中間って感じがするんですよ。Twitterでよくバズっている4枚のツリー形式の漫画もあれもまたあれで違う表現のものだと思うし。だけどそれはすごく面白い状況で、才能っていうのがいろんな形で現れてきているのかなと思います。やはり、紙で1話40ページという作品と、「4ページ×12ツリー」だとか、「10ページ×4回」のアプリ漫画だと表現がまた全然違ってくるんですよね。読者の使う時間が全然違うので。それに40ページの作品だと長い人たちにとっては「1話10ページ」の表現が新しくできたことはよかったと思います。1話を4枚で表現するのが好きな人もいるだろうし、色ぬりが好きという人もいると思います。他にも、お話を考えるのが好きという人もいれば、とにかく絵を描いているのが好きという人もいるし、いろんな人がいるので。これまでだと週刊連載や月刊連載の形式に合わなかったらもう同人作家になるしかなかったのが、もっと自由に自分に向いた表現形態、表現媒体を選べるようになったんです。だから、新しい媒体に向かった人たちが新しい手法で斬新な作品を発表したりすると面白いなと思います。

ーー今後、スピカワークスさんが挑戦したい事業などありましたら教えていただきたいです。

鈴木 やはり一番は漫画家さんの才能をフルで届けたい、活かしたいと思っています。なので、まずはより良い形で漫画に向き合ってもらうこと、より良い形で出来上がった作品を沢山の人に届けることが一番だとは思っています。でも、さらに広げて漫画家さんにアニメや映画やドラマ、ゲームなどの世界観を考えてもらうのも面白いなと思っています。プロジェクトのトップに漫画家さんを据えた上で映像制作の側と一緒に協力しながらプロジェクト全体も漫画もつくる、という形がいつか実現できたらなと思います。
 僕の原風景はみんなが一冊の「少年ジャンプ」に群がった小学生の時の光景。どんな形であれ、いつか自分の携わった作品でそんな光景が見られたら最高に幸せですね。

【鈴木重毅さんプロフィールと作品のご紹介】

鈴木重毅さん:講談社の少女漫画誌「デザート」で『好きっていいなよ。』『となりの怪物くん』『たいようのいえ』などを担当。2013年から「デザート」編集長を務め、以後も『僕と君の大切な話』『春待つ僕ら』を担当。2019年5月末に講談社を退社し、女性クリエイターのマネジメント会社・株式会社スピカワークスを設立。

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森下suu『ゆびさきと恋々』(講談社月刊デザートにて連載中)
独立後初めて立ち上げた連載作品。聴覚障がいのある女の子・雪と、彼女の世界を変えてくれた先輩・逸臣が少しずつ惹かれ合うピュアラブストーリー。ツイッターでも大反響になり、続々重版中です。

*この記事は取材をもとに再構成させていただきました。
 構成:ヨネザワ(アララ)

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