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スノー・ザ・プリンセス

 コココグァイ……コココグァイ……コココグァイ……

 金属の光沢を帯びた緑色羽毛と黄色い冠羽が生えた一羽のコキキジは森を用心深く歩きながら、声の源を探している。あれは間違いなくオスのコキキジが縄張りを宣告する時の鳴き声だ。自分の縄張りにオスの侵入者がいるとは、許せん。

 コココグァイ……源は確定できた。しかしどう見ても周囲は苔がかかった樹木にしか見えない。小さな脳が困惑した。その時は、木に付いていた苔が動き出した。

 苔の塊から手が生え、弓に矢がすでにつかえている。ビュン。「ゴッ」と短い悲鳴、コキキジは身体が貫かれて絶命。苔を模したローブを着た狩人はそれを拾い、担いあげた。

 ガギィー、古びたドアを押して、小屋に入った黒髪ショートの少女は苔ローブを解き、フックにかけた。ベッドに臥している老人は目を開き、苦し気に唸って上半身を起こした。

「ただいま父さん。今日は鳥が取れたよ。コキキジ、ちょっと万霊祭気分になっちゃう」

 ナイフを握り、少女は手際よく鳥を捌き始めた。

「丸焼きにしたいけど、冬はすぐだし貯蔵しないと。腿と胸どっちがいい?」

「スノ、儂のことはもういい。どうせこの冬を越せない」

 ナイフを握ってる手が止まった。

「弓術、鳥語、野伏……儂が教えたこと全部見事にこなしてくれた。この地に留まる理由はもうない。血縁もない儂はお前の荷物になるだけ」

「父さん」ナイフをまな板に突き立て、スノは手に血が付いたまま老人を抱擁した。「ちゃんと考えているよ。私のしたいこと、それは父さんと一緒に居ることです」

「このっ……!」かつて「七本腕の狩猟男爵ノラン」と呼ばれた男は目から涙があふれ、娘を抱きしめた。「ばか娘か……!」

 12年前、白き王国に第二王妃による叛乱が起きた。君命に従い、彼は幼い第一王女であるスノー姫を連れて北の僻地へ逃げた。

 時が過ぎ、春。

 簡素な墓の前に、旅装束のスノが立っていた。

(続く)

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