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とあるコミュニケーションアプリを運営してクローズするまでの青春を今さら振り返る

大型連休を前に、キャリアを棚卸しすることにしました。

6年前、超アナログ人間だった私が勢いでIT業界に転職し、最初にJOINしたのは、とあるコミュニケーションアプリの運営チームでした。

何度かpivot(方向転換)をし、それでも思うような成長曲線には乗らず、最終的には私がプロダクトオーナーという立場でクローズ判断をした、とても思い出深く、貴重な経験をさせてもらったプロダクトです。このまま記憶が薄れていくにはあまりにもったいないと、この機会に振り返ります。

ちなみにどんなアプリかというと、洒落たUIの匿名twitterみたいなもの。「いや、twitterも匿名!」って思われるかもしれませんが、このアプリには「アカウント」という概念が存在しません。投稿もコメントも、全てその場限りのアイコンが割り振られ、SNS上での「固有の人格」が生まれ得ない。正真正銘の匿名投稿アプリでした。数度のpivotで具体的なユーザー体験はやや変遷するのですが、「匿名性」に関しては、リリースからクローズまで一貫してこのアプリのコアバリューでした。

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↑匿名だからこそできる本音投稿がわんさかありました。

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↑コメント欄はこんな感じ。主アイコン以外は、ランダムにアイコンが振り分けられます。アイコンの趣味はデザイナーさん独自の感性で作られます。

最初に任されたマーケ。教科書がないことに戸惑う

前職ベネッセではマーケティング職だったことから、リリース直後のアプリマーケが最初の私の仕事でした。

ベネッセでは、ダイレクトメール(DM)マーケティングという鉄板のマーケティング手法があり、おそらく日本で一番その手法を洗練させていました。部長は「DMの神様」と呼ばれる伝説的なDMer(ディーエマー、とベネッセでは呼びます)で、社内はノウハウの宝庫。そんな恵まれた環境で諸先輩方に懇切丁寧にDMのいろはを教わっていた私は、転職してしょっぱなから絶望しました。

「アプリのマーケティングってどうやるのか、どこにも書いてないし誰も教えてくれない・・・!」

予算も決まっていないし、どのチャネルを選んでいいのかもわからない。誰をターゲットとして大事にすべきかも、どのサービスをベンチマークにしていいのかもわからない。ネットにはいろんな事例が転がっているけど、体系立てて教えてくれるものはない。

2014年の当時は、「バズる」という言葉がまだ生々しい熱を持っていたこともあり、わかんないけどとにかくバズらせよう、と、色々な施策を走らせました。

・女子大生アンバサダーチームを組成し、学内で口コミで広げる
・奇抜な格好でセンター街を闊歩し、twitterで拡散を狙う
・アプリのキャラクターの着ぐるみを手作りし、各種イベントにゲリラ参加
・慶應のイベサーの大規模クラブイベントで投稿キャンペーン

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↑高円寺のお祭りになぜか手作り着ぐるみ(の頭)を持参し、手作りスライム教室を開いたときのもの。今思うと謎すぎてすごい。

上記はほんの一部。本当に色々なことを試したものの、いまいち、というか全然バズらない...。そんな時、ようやく一件のブログ記事がバズりました。

「このアプリを合コンで使うとおもしろい!」という内容です。

この記事をきっかけに、アプリ内でもユーザーさんが自発的に合コンを企画したり(私もユーザーのふりをして参加しましたが、匿名アプリなのに30人ぐらい集まっていて感動しました)、有名ブロガーさんとコラボして合コンレポートを書いてもらったり、果ては雑誌やテレビ局から合コンの取材オファーが来たり。

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気がついたら私はアプリのマーケターではなく、敏腕合コン企画屋になってました(テレビをみた前職同僚から、何やってるの?と連絡が来ました)。

バズった後の、アプリ内の風紀健全化の壁

合コンアプリとしてメディアに取り上げられてから、匿名コミュニケーションという性質も相まって、アプリ内の風紀が乱れ始めました。

初期ユーザーは「新しいものに敏感なIT界隈の人たち」。やっていいこといけないこと、の線引きが上手で、ギリギリのスリル感をもってアプリ内のコミュニケーションを楽しんでくれていた、いわゆるネットリテラシーの高い層。しかし、プロモーションの結果ユーザー数が増えるにつれ、線引きが徐々になくなり、生々しい異性間交遊目的で利用しようとするユーザーが現れはじめました。

当時のカスタマーサポートチームは、膨大なトラフィックがある数々のサービスを扱ってきた、プロ集団です。アプリ内の取り締まりを強化するだけなら簡単なのに、このアプリのコアバリューである「匿名だからこその、スリルのあるコミュニケーション」を大切にしようと私たちに寄り添ってくれました。

具体的には、毎週のCS会議で具体的な投稿内容を取り上げては「これはNGか、許容か」を話し合い、ルールをアップデートしていくという、めちゃくちゃ手間のかかることに付き合ってくれました。

「太ももを撫でたい、という表現はどうか。これはギリギリOK。では、舐めたいならどうか...」みたいなことを、大真面目に毎週話し合っていました。本当に、感謝しかない。。

もちろん、エンジニアもめちゃくちゃスキルフルなメンバーだったので、仕組みの面からも様々な改善をしてくれました。とはいえ、風紀荒めな学校の生活指導の先生と生徒の関係と一緒で、どこまでいってもいたちごっこ。アプリ内風紀問題は、サービスをクローズするまでずっと向き合った課題でした。

力技で、ユーザーと密にコミュニケーションをとり続けた

お問い合わせ窓口はもちろんありましたが、「よりスピーディでカジュアルに、ユーザーとコミュニケーションを取ろう!」と、アプリ内に「#サービス改善」というハッシュタグを作成しました。そのハッシュタグがついた投稿に、ひとつひとつ、自分の手でぽちぽち、コメントで返信するのが私の日課でした。

私も他のユーザー同様、ランダムに割り振られたアイコンでコメントします。

ユーザーさん「ミュートしたはずのユーザーの投稿が出てきて困ってる」
「運営です。この度はご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。おそらくミュートされたユーザーさんとはうんちゃらかんちゃら...」

バグは逐次エンジニアに確認しながら、こんな感じで返信していきます。

「運営さん丁寧にありがとう!」とお礼を言ってもらえることもあれば、「本当に運営なの?なりすましだろ!」みたいに怒られてしまうこともありました。

運営とユーザーが普通にコメントでやりとりするフラットな関係が好きだったので、しばらくは一般アカウントのままやっていましたが、そのうちに運営のフリをする一般ユーザーも出てきてしまったので、後に運営用のアイコンを表示するよう変更しました。

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↑要望をスルーしてヒヤリングしている...今思うと自由...。そして答えてくれる優しい主。

当時まだ珍しかったYouTuberプロモーションで、CPA50円以内でユーザーが爆増→古参VS新規戦争が勃発

事業部長の「YouTuberプロモ、相性いいんじゃない?」の一言で、当時はまだ黎明期だった、YouTuberプロモーションを試してみることにしました。

結果は、数値の上では大成功。動画を公開したその日一日で、ユーザー数は数倍に跳ね上がる結果に。CPAでいうと、50円はゆうに切っていました。驚異的です。

一方で、YouTuberのファンの若年層ユーザーが大量に流入したことで、アプリ内の生態系が大きく崩れてしまいました。

「最近ユーザーの質が落ちて楽しくなくなった」
「昔はもっと大人の世界観だったのになぁ」
「話の通じない子どもが増えた」

古参VS新規の対立が明確化しました。アカウントの概念がないこのアプリ内では、対立は数の勝負になってしまいます。結果的に、サービス初期からサービスの文化を作ってくれた多くの古参ユーザーの離脱を招く結果になりました。

コミュニケーションアプリは、若者がムーブメントを作るのがセオリーです(近年ではTikTokとか)。これは正しい進化なんだ、と思いつつ、どこかで胸がざわざわしました。このざわざわは、サービスのクローズまで、なんなら今でも続いています。

コミュニケーションアプリのセオリーはそうでも、このアプリの世界は違ったのではないか。古参のユーザーさん達が作り上げてきたカルチャーこそが、このアプリが生き残る希望だったのではないか。そのカルチャーを大事に育てて行けば、唯一無二の存在になれたのではないか...。

この問いは今でもわかりません。

アプリ存続のために足掻くも、「そこそこいいサービスを作ることが目的ではない」の一言に覚悟が決まる

思えばこのアプリでは、人間の様々な相反する感情に向き合ってきました。

・新規ユーザーが増えてアプリが活性化することが嬉しい一方で、なじみの空間が損なわれることへ抵抗したくなる気持ち
・匿名で自由に発言したいが、その空間でのコミュニケーションが心地よくなると自分の人格(アカウント)を認めて欲しくなり、完全匿名は物足りなくなる気持ち
・匿名だからこそ言えることなのに、発言に共感してくれる匿名の誰かとは、リアルに会いたくなる、が、会えば会ったで煩わしくなる気持ち...

今でも答えはわからないけれど、とても面白いテーマだと思っています。

運営側として、24時間投稿に張り付いていて、とても心温まるやりとりも、反吐が出るような汚い罵り合いも見てきました。人間の幅を見た気がします。

このアプリは、確実に、どこかの誰かの避難所になっていました。プロモーションやマーケティングを一切止めてアプリ内改善に取り組んでいた期間も、一定のユーザー数でDAUは下げ止まっていました。

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いいアプリだったと思います。でも、会社のお金で運営している以上、そこそこいいアプリだというだけでは存続は難しいんです。

「プラットフォームになるようなサービスを作るのが部のミッション。そこそこいいサービスでは、続けられない」

リーダーにこう言われた時、ぐうの音も出ませんでした。

プラットフォームにするための、次の一手の仮説が、私にはどうしても出てきませんでした。クローズするしかないと判断しました。悲しく、悔しかった。でも、(こんなこと言うと怒られそうですが)どこかで清々しい気持ちもありました。

サービス終了後の、最後の悪ふざけ。ゲームアプリに生まれ変わった・・・!!??

サービス終了に至るまでの数ヶ月、私は新たな一手を探すため、SQLを叩きまくって、ユーザーの投稿やコメントを見まくって、悶々とプロダクトの未来を考える日々が続きました。プロダクトオーナーの私がただただ悶々としているだけだったので、当然エンジニア(超優秀)は暇になります。

超優秀な彼は、暇な時間にアプリ内に手の凝った隠しコマンドを仕込んだりしていました(iPhoneを右と左に物理的に回転すると隠しキャラが現れる発想は、今でも天才だと思っています。もちろんコナミコマンドでも色々仕込みました)。

その流れで、クローズが決まった後も、何か遊びココロのある仕掛けをしたいよね、と、二人で考えたのが、「クローズ後もゲームができる!」という、意味のわからない、でもちょっとハッピーなフィナーレです。

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↑カジュアルゲームを2種類用意。ゲーム内にユーザーさんへ向けた感謝の隠しメッセージも仕込みました。当たり判定とかも真面目にやりました。

エンジニアさんよると、サービスクローズしてから半年経っても、このゲームを遊びに、MAUで数千ユーザーが訪れてくれていたらしいです。泣ける....

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ちなみに私のiPhoneの画面は、クローズから5年経っても、アプリのキャラ、Rumorくんの追悼です。

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございました。

このpostを書くためにカメラロールを漁っていたら、死ぬほど怒られた時のslackのスクショとかも出てきて、マジでいろんな人に迷惑かけたんだなと心臓がヒュッとしたり、ポンコツな自分に付き合ってくれた上司への感謝が今更溢れてきたり、感情が忙しかったです。とても全部は書ききれないので、この辺で終わりします。

IT未経験で本当に手探りでしたが、遊びココロがあって優秀なエンジニアやデザイナー、分析の鬼の超賢い新卒、そして何よりサービスを愛してくれたユーザーさんのおかげで、たった一年間が、とても密度の濃い時間になりました。今でも最高に悔しいし、最高に愛おしいプロダクトです。

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クローズの瞬間、ずーっとスクショし続けていました。

今は人事キャリアを歩んでいる私ですが、やっぱりいつかはプロダクトサイドでリベンジしたいなとひとりごと。

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新宿のオカダヤで、材料を買い、3度の試作を繰り返したこの頭。クローズ後も捨てられなくてオフィスの片隅にありましたが、総務部に再三怒られて、昨年ようやく捨てました。ぺろぺろ

Twitterやってます!よければフォローしてください!@akuchaaan


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