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「パクリ断罪の石」を投げ返される日を恐れる

随分昔に見たトーク番組で、とある著名な作曲家さんが「この映画音楽のメインパートが完成したとき、奥さんとか周りの人に、ねえこの音楽聞いたことない? って聞かせまくった」「自分が他人の曲を無意識にパクっていないか、いつも気にしている」とおっしゃっていました。

考えてみれば、どんなに仕事のできる作曲家であっても「世界中の音楽をすべて記憶しており、そのいずれも自分は絶対にパクってない」と言い切れる人なんて存在しないでしょう。世界で活躍する作曲家さんですら、いや世界を知るほどの方であるからこそ「誰かの音楽を故意か故意でないかに関わらずパクってないか」と考えが及ぶのかも知れません。

映画「レッドクリフ」の作曲家さんだったと思いますが、かなり前なので私の記憶違いでしたらすみません。番組名は「心ゆさぶれ!先輩ROCK_YOU」でした


もし私(ゼルダやったことない)だったら、同じ過ちをしていた

ここ数日で話題にのぼっているゲーム「ファイナルソード」。

使用されている音楽が「ゼルダ」のパクリではないか、と問題になり、配信が停止されたものです。当然のように諸方面から「これはアウト」「バレないとでも思ったの?」と責められております。

しかしこの問題、個人開発者である私にとっては全く他人事ではありません。

まさにこれ

小さい頃から私はゲームが好きでしたが、なぜか任天堂さんのメジャーなゲームとは縁が薄く、ゼルダどころかカービィもMOTHERもやったことがありません。なのでもし、「購入した音楽素材がそれらのゲームをパクったものだった」としても、気付かずに使っていたことでしょう。

カタギの人らが責めるのはしょうがない

私の知人が制作に関わっているゲーム「ことだま日記」は、ゆるふわなキャラクター「ことだまっち」を育成するゲームアプリです。

たくさんついているレビューはその多くが好意的なものですが「ゲーム中で使われているメインBGMが有名なYoutuberの歌をパクったものではないか」と指摘するコメントが稀にありました。

運営側の皆さんは真摯に対応していて頭が下がりました

指摘してきたユーザーは「フリー音源」の存在をご存知なかったのでしょう。効果音を聞いただけで「これはあのサイトで配られているやつだな」と分かってしまうのは開発者だけのあるあるであって、一般の方にまで「知らないの?」と押し付けるのは乱暴です。ただこっちは正しく使ってんのにわざわざ指摘されたら「知っとるがな」と腹は立ちますけどもね。あと書き方もあるやろ。「同じ音楽ですよね」ならともかく「パクリ許すな」みたいな決めつけで書いとる人もいて、自分が知らないだけなのになんで偉そうなのか理解できません。

一方で、ゲーム開発に関わる人の発言ならどうでしょうか。

自分ならどうする? 走る寿司とうんこ

こちらもいっとき話題になりました、「寿司が走るゲームをうんこ走るゲームとしてパクられた」問題。寿司を作るゲームの作者Kさん本人がtwitterで話題に触れたこともあってか擁護ツイートもたくさん集まり、結局うんこ走るゲームは公開停止となりました。

Kさんは怒り心頭の様子で、twitterでうんこ走るゲームの制作側をかなり厳しい口調で責めていました。

私も開発者なので、もし同じ立場(寿司側またはうんこ側)だったらどうするのが正解だっただろう? と考えてしまいます。Kさんのように怒るかもしれないけど、twitterとかで発信したらフォロワーが減るかも知れない(セコイ)、かといって反論しないのはいかがなものか? あるいはうんこ側だったら? 弁護士さんとか雇わないといけないのだろうか。

2023年8月年追記

関係者からの情報提供により、本項目で取り上げていた「フリーゲームの高速回転寿司は、寿司が走るやつの元ネタだったのでは?」という憶測に関して「ネタがかぶっていたことをお互いに了承済みで、正式な許可と手順を踏まれていた」とわかりましたので、当該箇所を削除いたしました。誤解を招く表現でご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。


人が判断する限りグレイゾーンは避けられない

ここまで記事を読んでくださったならお気づきだと思いますが、「自分が知らなかっただけで同じものを作ってしまっていた」「フリー素材の制作元がパクリだった」「自分はパクったつもりはないが、大衆からみたらパクリである」可能性はゼロではありません。

私は10年ほど前にフリーランスになりました。これからは1人で仕事をするのだし、とコンテンツ業界における著作権について学べる無料セミナーに参加したことがあります。

特に印象に残っているのが、ロゴデザインや写真の構図など過去の判例が示され「どれが有罪でどれが無罪になったか」比較するもの。画像や図解で素人にも分かりやすい内容だったのですが、中には「なんでこれがアウトでこれがセーフなの?」という判例もありました。考えてみれば悪質かどうかを判断するのも裁判官や検事とはいえ人間です。プロの現場でさえそうなのだから、素人が軽々しく断罪できるものではないと感じました。

ミスしたことがない者だけが石を投げなさい

私は今まで何本か、個人開発ゲームに関わったり、自分で作ったり売ったりしてきました。独力で賄えないものはフリー素材を使ったり、有料素材を買ったりしています。どの範囲ならOKか利用規約をその都度読んで、これなら大丈夫、と使ってきたつもりですが、じゃあ100%大丈夫かと言い切れるかというと、そんなことはありません。配布されている方の都合で利用規約が変わることもありますし、私が一切読み落としていないと言い切れないからです。

私にはプログラムに強い同僚がいて、普段から穏やかできつい物言いをしない人なんですが、「もし自分は一切バグを出さない、というプログラマがいたら、そいつは偽物です」と言い切ったことがあり、どの業界でどんな仕事でも人である限り当てはまるいい言葉だなと、時々思い出します。

問題が少ないに越したことはありませんが、なくすことは不可能であると知り、いつか来るかも知れない「石を投げ返される日」を恐れ、特にものを作る人間であれば、声高な断罪を慎むのが良いかも知れません。


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