さよならのサイン。別れ際の。
土曜日であるが仕事である。以前からい願いされていた原稿を書くために立川にやってきた。仕事は結局終わらなかったが、帰り際、午後六時ごろの立川駅には、これから「別れる」ところの女子大生たちがたくさんいた。
ああ、そうか。
「卒業」ということに思いを馳せた。
足早にあるく人たちの流れに、ふと、二人の女子大生に目を止めた。
一人はふわふわした髪型を金色に染めた、鮮やかで派手で、楽しそうな背の小さな子だった。黒ボタンのブラウスの上に青いチョッキみたいなのを着て、かぼちゃパンツに柄のあるタイツをはいている。
もう一人の子はセミロングの黒髪にピンク色のセーター、それにハーフコートを着た長目のプリーツスカートという出で立ちだ。二人はとても対照的で、一見しても違うパズルのピースみたいなでこぼこさを感じさせた。
僕が横を素通りする際に、二人は突然大声で笑った。
何か女性同士の時にしかあげない、嬌声といってもいいような派手な声だった。その声はまわりのおじさんにとって何か許しがたい不愉快さを与えたみたいで、露骨な舌打ちをしてくたびれたスーツを着た男性が早足で改札をくぐった。
その嬌声をあげて、二人はさっと別れた。プリーツスカートの子は片手の定期券入れをさっとかざして改札を軽やかにくぐってみせ、派手目な子は早足で歩く彼女の横を、バディフライトから離脱する飛行機みたいに、改札前でさっと離れていった。
ふわりとした金髪を揺るがせて、彼女が回転した。そのタイミングでセミロングの女の子が胸に一瞬手をやってから、別れ際の彼女へと腕をつきだした。それに応えるように、金髪も手を振った。二人は軽やかで、新鮮で、光がわっと差し込んだかのような涼しさを通した。
別れ際の小さな挨拶が、ふたりにとってかけがえのないサインだったことを知ったのは、それから改札を降りて、向かいの東京へとむかう中央線を待つその子を線路越しに見かけたからだ。
セミロングの髪を後ろで束ねて、彼女は泣いていたようだった。目頭をハンカチで押さえたまま、静かに到着した電車に乗り込んでいった。あの一瞬で、これほど重たいサインを交わすことができるんだ。
僕はそう思って、ただ二人の幸せを祈った。きっとこれからもSNSやメールで出会うことがある二人だからこそのコンビネーション。続いていく未来と絆の途中にあった、一瞬の「さよなら」がこんなに重たいなんてしらなかった。
僕はそんなサインを手に入れることができなかったけど。
でも、特別な二人に、幸あれ。
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