光る目の占い師~くつろぎファンタジータイム
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光る目の占い師~くつろぎファンタジータイム

亜空間ファンタジー

光る目の占い師色調調整3

光る目の占い師〜くつろぎファンタジータイム

弥剣 龍 著  制作 亜空間ファンタジー

 小夜子は朝起きて、おや、と思った。
 食卓に見たことのない水色の雨傘が置いてある。
 誰かが夜中に入ってきたのだろうか––––––
 几帳面な小夜子はそんなところに傘を置きっぱなしにしたりはしない。一人暮らしのマンション住まい。戸締りにはいつも気をつけていた。
 まさかと思って玄関の施錠や窓の鍵を確かめたが、しっかり閉まっていて開けられた形跡はなかった。
 だとすると自分しかいない。
 しかし、見覚えのない傘は小夜子のものではない。
 私誰かに傘を借りたっけ––––––
 記憶を辿ったが、何も思い出せない。記憶がなくなるほど飲んだ覚えもない。
 おかしいなあ––––––
 私自分でやったことを忘れてしまっているのかしら––––––
 傘を手に取ってみると、長くて重みがあった。ばさっという音がして開き、大きくてこんもりした形。小柄な小夜子には不釣り合いで、風が吹くと傘ごとメアリー・ポピンズみたいに飛ばされそうだった。
 骨太でしっかりした一昔前の造りなので、かなり古いものだ。太くて真っ直ぐな握りのところに穴が開いていて、紐で小さな丸い鏡がぶら下がっている。
 不思議だわね––––––
 ひょっとするとマンションの管理人さんが合鍵を持っていて、間違って誰かほかの人の傘を置いていったかな––––––
 管理人室に持って行こうかと思ったが、この時間だとまだ管理人さんも来ていない。
 気味悪く思いながら、それ以上考えてもすぐには何もできそうになかった。
 小夜子は仕方なく不審な傘を玄関の傘立てに立てた。
 早く支度して出ないと遅刻してしまう。おかげで朝食の時間がなくなった。
 今日もオフィスの下のスタバ頼みか––––––
 手早く身づくろいをし、玄関の鍵が閉まったことを確認して家を出た。

 小夜子は外資系の証券会社で金融取引のドキュメンテーションの仕事をしている。グローバル企業だが、日本は出先で人員も限られているので、一人であらゆる種類の取引をこなす。細かい所に神経を使う気疲れのする仕事ながら、収入は日系企業のサラリーマンが羨むレベル。一人の生活には十分過ぎるほどゆとりがあった。
 オフィスは都心の一等地。大きなビルの上層階を占めるフロアは、内装が綺麗で見晴らしもよく、非の打ち所の無い職場環境だった。
 ただそれでも小夜子は、今の自分の仕事に疑問を感じていた。
 私ずっとこれでいいのだろうか––––––
 外資系のドライな職場。ほとんど全ての社員が中途採用で、より良い待遇を求めて流れてきた人々。入れ替わりも激しく、人と人のつながりは希薄で、心を許せるような友達は一人もいない。誰もが自分のボーナスと昇給のことしか考えていない金目当ての世界。実入りはいいけれど、仕事の性質は百パーセント実務的作業で、金銭以外に仕事から得られるプラスアルファが感じられない。細かな契約上のトラブルも最後は小夜子の責任になる。
 男性陣は英語もできてそれぞれ得意の専門分野を持つ金の取れる男達。でも外人のボスに頭が上がらず、見ていて嫌になるほどイエスマンの集団だ。小夜子が魅力を感じるような人種ではなかった。
 小夜子は小さい時から夢の多い子供だった。本を読むのが大好きで、特にファンタンジーの世界に憧れて、自分もいつか別世界に行ってみたいと思っていた。しかし、そんな小夜子の願いをかなえる人生は、現実にはありそうになかった。
 自分のしたいことがよくわからないまま、有名私立大学の法学部に合格したのが間違いだった、と自分では思っている。就職率が高く、自分には向きそうもない大手金融機関に取り敢えず入社してしまった。能力的には銀行で重宝され、生活に何の不自由もなかったが、自分が望んでいた人生とは大きくかけ離れてしまった。
 別な世界が見える仕事に就きたい––––––
 その第一歩が外資系企業への転職だった。しかし、期待した新しい職場でも金融機関は金融機関、英語が増えた以外、人生にさしたる変化はなかった。今の仕事にはまりこんで何年も経ち、ここに留まる限り、抜け出すことは難しかった。
 フラストレーションが溜まってきたときに、ありがたいのは昔からの友達だ。学生時代からの友達には時々会って、楽しくはしゃいでうさを晴らす。友達の悩み事や相談に付き合わされることもある。小夜子は、いつも聞き役だった。誰もが小夜子が一番恵まれていると思っていた。羨望の目で見られていて、小夜子が不満を言ったりすると、贅沢な悩みだと一蹴されるのが落ちである。
 自分自身の相談事や悩みを打ち明けたい時の小夜子の秘密の切り札は、職場の同僚や友人ではなく、偶然出逢った女性の占い師だった。占い師に相談にのってもらって運勢を見てもらい、それによって自分の方針を決めるのだ。占いに頼っているのは迷信深いからではなく、占い師の中には本当に運勢が見える霊感者がいるからだ。
 占いにも色々あるし、占い師の力量も千差万別である。小夜子は何年も前から様々な占い––––––四柱推命、ホロスコープ、姓名判断、手相占い、人相占い、水晶占い、タロット、風水、陰陽師、霊視等、また占い手法だけでなく結婚、恋愛、金運、仕事、人生などの分野別––––––を試し、相当な金額を注ぎこんでいた。
 中には詐欺同然のものもあったが、時には当たることもあった。いい占い師を探して、あっちへ行ったりこっちへ行ったり試行錯誤の連続で、総じていえば、当たり障りのない予言とお喋りにたくさん無駄金を使わされた。
 でも今は、迷うことなくこの人、と決めている占い師がいた––––––二年前のクリスマスパーティーのあと、その勢いで飛び込んだ店で出逢ったエキゾチックな雰囲気の妙齢の女性。歓楽街に肩を並べるペンシルビルの三階にある個人の店。人気があって予約は必須なのだが、その時はたまたま一コマ空いていて、見てもらうことができた。
 四柱推命が基本だが、西洋占星術の知識もあり、何よりも教科書的な占いではなくて、本物の霊感を持っている。生年月日等基礎的な情報だけで、小夜子の仕事や悩み事を次々と言い当てた。本当に「見える」占い師に出逢ったのはそれが初めてだった。
 遂に見つけた––––––
 その時は興奮せずにいられなかった。今までの投資が実を結んだのだ。当たる占いがあると信じてきた自分が、とうとう正当化されたと思った。
 それ以来、何か困ったことや変わったことがあると、その占い師に打ち明けて、運勢を占ってもらう。それによって進むべき方向感が得られ、自分の心構えやムードを前向きに変えられる。行くたびに救われたような気持になるので、かなりやみつきになっていた。
 30分で3千円。中身の濃さからして高いとは思わなかった。

 その日の仕事を終えて小夜子が帰宅した時、玄関の鍵はしっかり掛かっていた。喉が渇いていたので、靴を玄関に脱ぎ捨てて、まず冷蔵庫にむかう。
 と、食卓の上にまたあの傘がのっていた。
 えっ、私確かに玄関の傘立てに立てたわよね––––––
 しかも、傘は寸分違わず食卓の同じ場所に同じ向きで置かれていた。まるで傘が自分で傘立てから抜け出してきて、目に止まるところで小夜子の帰りを待っていたかのようだった。
 また念のため家中の窓を調べて回ったが鍵は閉まっていた。
 もし管理人さんだったら二度も同じことをするはずがないし、メモぐらいは置いていってくれるはずだ。誰かの嫌がらせなら傘なんかじゃなくて、もっと他の気持ち悪いもの、刃物とか猫の死骸とかを使うに違いない。
 これは気のせいじゃなくて、超常現象だわ––––––
 この不思議な傘の出現は、管理人さんに相談したり、警察に届けたりするような性質の話ではない、と小夜子は思った。

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