子作りかいし

 さて子作りです。

 子づくりしましょ♪ アニメ(すもももももも)のオープニングの曲で、そんな歌がありました。衝撃的な歌詞とノリのよい曲でした。子作りといえばこの曲になっている私ですが、曲のようなテンションにはなれませんでした。

 それは、避妊しないことに抵抗があったからです。そんなことをしたら妊娠してしまうじゃないですか。してはいけないこと、ルール違反だということが頭から離れなかったのです。

 結論から言ってしまうと、子供を授かるというのは、大好きな相手のすべてが欲しく、強烈に愛おしくなった時なのだと思います。あくまでも正論ですが。

 子作りのセックスはいつもとは違います。思い出すのは、結婚を許された翌年の初詣。つーさんは神社でお守りを選んでいました。そして迷った挙句、「まだ妊娠してないから安産祈願ではないし、作業安全かな?」そう巫女さんの前で堂々と言っていました。安全にセックスするってなんでしょうね。子作りのセックスは作業になっているとも言えましたが。

 定期的にしなくてはいけない、義務のあるセックス。セックスというものに、背徳というスパイスがなく、欲望のまま本能のままが抜けてしまいました。子作りとなると、みんなに祝福されているかのようで、秘め事ではないかのようでした。

 それはまるで、お日様がさんさんと輝く青空の下、ベッドの四隅には天使がラッパを吹いているような環境です。そこでやりますよと言われましても。そんな上品過ぎるセックスには、おを付けておセックスとお呼びすべきです。私はおセックス化した状態が腑に落ちず、背徳感を求めてアキバに逃げ込みたくなっていました。

 実はこのおセックス問題、女性側にはよくあることなのだそうです。作業化してしまい、前向きになれなくなることが。

 それにこのおセックスの延長にあるものは、強烈な痛みを伴う出産なのですから。死んでもおかしくない命がけのものが。不安になり、ますますおセックスが嫌になりました。

 もしつーさんが出産してくれるのであれば、天使に手を振る余裕もあったことでしょう。いまや男性の妊娠も可能になったとはネットニュースで読みましたが、まだ世の中的に広まっていません。ですから、選択肢はありません。

 そもそもですが、ヒトがヒトを産むということがわからなくなってきました。この現代、3Dプリンターで車や義肢も作れるというのに、なぜまだヒトは相変わらずお腹の中でヒトを作らないといけないのでしょうか。倫理的問題であるのはわかります。けれどすべてを母親のお腹の中で約十月十日いないといけないというのはどうかと思います。お腹以外はダメですかね。

 私のお腹で人工的にヒトを育てる。人口的というのはやはりおセックスの不自然さにたどり着くのですが、ヒトがヒトを作るのですから。ヒトを作る、ヒトを超えてしまう存在、もはや神です。

 私とつーさんの遺伝子で、ヒトを作るということはわかっています。でもどんなヒトが出てくるかわかりません。それは、やってはいけないガチャガチャのように思えて仕方ありませんでした。


 また別な不安もありました。


 子作りを視野に入れ始めた頃に、書店で雑誌アンアンの表紙に妊娠力という文字を見つけ、少し恥ずかしさもありましたがレジへ持って行きました。書店を出て買った雑誌のことをつーさんに話すと、「大丈夫だよ、すぐ妊娠するよ」と言われました。私は泣きそうになりました。つーさんは私にはまだ子供が出来ると信じて疑ってないことに。私はつーさんとの歳の差に負い目を感じ、プレッシャーになりました。そして当時つーさんは会社員、私はフリーターという社会人としての格差も辛くなってしまいました。

 サプリメントで葉酸を飲み始めたのはこの頃でした。


 それから二、三か月が過ぎた頃、また生理の予感がありました。胸が張り少量の出血があったのです。今回もやはり生理がきたと当たり前のようにナプキンを敷いて準備をしていました。それなのにつーさんは歯磨きをしていた私の体のラインで、妊娠しているんじゃないかと言ったのです。いま思い返せば、つーさんの第六感はこの頃から開花されたようにも思えます。いまなら聞き流さずに受け止めていたかもしれませんが、その時はありえないと。

 けれどその少し前に、ご飯を炊いてお風呂に入り、出てきた時にその炊ける匂いがなんとも嫌だったことがあったのです。きっとつわりはこんなものなのかもしれないとのんきに考えていました。もしかしたらこれが想像妊娠かもなんて。それは一度きりで、生理予定日の前でつわりなどまだ先だと思っていました。

 しかしナプキンを敷いても無駄になる日が続き、最近通いだしたスポーツジムも妊娠していたらハードなトレーニングは良くないと、とりあえず検査だけはしてみることにしました。

 私は生まれて初めて妊娠検査薬を使ってみました。予想では、おしっこをかけ待つ数分間、どうなのかな、出来たのかな? ドキドキしながら顎の下に組んだ手を当てて、つーさんと結果を見る、そういうものだと思っていました。

 それが、トイレでおしっこをかけた瞬間、すでに陽性の方の線が薄っすら入り、えっ! と思った時にははっきりと見えていました。せめてトイレを出てから結果を知りたかったです。これから産まれてくる我が子はそんなにも早く気付いて欲しかったのでしょうか。

 この結果は、もう戻れないのだと、覚悟をするしかないと思いました。

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