マルセイバターサンドと元レースクイーン
先日、苫小牧に行った時の話はここに書いた。
新千歳空港で帰りの飛行機の搭乗を待っていた僕は、会社の人に渡すお土産を探していた。
部長の渡さんと、森田さんに買っていこうかととも思ったが、もう会社辞めるんだからいまさらいいか!と思いやめる。
次に浮かんできたのは、黒部さん(仮名)だ。
黒部さんは僕が働いていた会社(東京テレビサービス(仮名))の人間ではない。NHKの関連会社のG社でデスク業務をしている方だ。彼女は番組に関わる経費の承認・非承認をしたり、ロケの弁当を手配したりという縁の下の力持ち的存在である。
黒部さんは年齢50代くらい?で、上背がありスタイルがいい。昔はレースクイーンをやっていたと誰かから聞いたことがある。その当時は多くの男たちをブイブイ言わせていたのかもしれない(今でもいわせているかもしれない、、)
ルックスはスナックのママにいそうな感じだ。
声は酒焼けした低い声で、声がとても大きい。
どのくらい声が大きいかというと、黒部さんから電話がかかってくると
「もしもし〜 黒部ですー」
とビリビリと大音量で鼓膜が破れそうになるので、僕はいつも受話器を耳から少し離して会話していたぐらい声が大きい。
そんな黒部さんは、ロケのお弁当ひとつとっても僕が食物アレルギーなの知っていて、収録のときは
「ササちゃん、今日のおかずは全部食べられるでしょ!」
といつも気にかけてくれていた。それでもやはり一つ二つは僕の食べられないおかずが入っていることもあり、
「ありがとうございます、でもこのカマボコは卵が入ってるかもしれないので食べられません、、(笑)」
とか生意気なことを言っていた。
そう言うと黒部さんはいつも、
「じゃあ、それは除けて食べなさい!もお、ササちゃんの食べられるお弁当考えるの大変なんだからー」
といつもダミ声で言っていた。僕のような末端のADのことまで気を遣ってくれる黒部さんの気持ちがとても嬉しかったのだ。
僕は、新千歳空港のショップで六花亭のマルセイバターサンドクッキーを購入し、東京に戻ってきてからお別れの挨拶を言いに行った。
「今日はお別れの挨拶を言いにきました。実は僕、この会社を辞めることになったんです。」
と言うと、
「あらー、辞めるって聞いたけどホントなの?どこに行っちゃうの?」
とどうやら辞めることは知っていたらしい。この業界は噂が広まるのがとても早いのだ。どのくらい早いかと言うと、例えば部長の渡さんに
「実はこの度、北海道に行くことになりまして、、」と伝えたときは、1時間後にはその話が会社中に知れ渡っていたほどだ。
それはさておき、
「北海道の苫小牧です」
と答えると
「北海道!?」
と驚いていたが、その声にこっちもビックリである。そしてお土産を渡すと
「あらぁー悪いわねえー、こんな高級なの貰っちゃってー」
「とんでもないです。黒部さんはいつもロケ弁のことを気遣ってくれていたので感謝しているんです。」
「ホントよぉー、ササちゃんのお弁当考えるの大変だったんだったんだからぁー、
それでもササちゃんが食べられないおかずが入ってたりしてね、そういう時はね、、、」と
隣にいる別のデスクさんも巻き込んで話し始めた。隣のデスクのお姉さんは若干迷惑そうな顔をほんの一瞬浮かべたが、終始ニコニコ笑って聴いていた。
お弁当のくだりがひとしきり終わると、
「まあとにかく頑張んなさいよ!
この会社で耐えられたんだから、向こうでもきっと大丈夫よ。1年はこっちに帰ってくるんじゃないわよー」なんて、励ましくれた。
黒部さんのような人たちに僕は今まで支えられてやってこれたんだと改めて感謝し、涙が出そうになった。
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