本棚から、世界へ。

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『浮世の画家』カズオ・イシグロ ②

物語の終盤に、小野の戦前からの知己・松田は言います。

「きみやおれみたいなのが昔やったことを問題にする人間なんてどこにもいない。みんなおれたちを見て、杖にすがったふたりの年寄りとしか思わんさ」

「気にしているのはおれたちだけだ。過去の人生を振り返り、そこに傷があるのを見て、いまだにくよくよ気に病んでいるのは、世の中できみやおれみたいな人間だけだよ」

と。

あきらめでも開き直りでもなく、また

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『浮世の画家』カズオ・イシグロ ①

『浮世の画家』は、ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロが、1986年に英国で発表した長編小説です。(英題は『An Artist of the Floating World』。)

舞台は戦後の日本。太平洋戦争が終わり、あらゆる価値観が変わってゆく時代に、それに翻弄される或る老画家を描いた作品です。

戦中、画家・小野は日本人への「戦意高揚」的な作風で名を成しました。やがて敗戦を迎え、焼け野原の町

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『刺青』 谷崎潤一郎

1910(明治43年)発表。

谷崎潤一郎の「処女作」とされる『刺青』は、女性美への賞嘆と、それを取り巻く絢爛な世界像を見事に描いた短編小説です。

短い作品ながら、その後の谷崎文学に通底する性的倒錯のモチーフと、谷崎特有の鮮やかな文体による描写が凝縮されており、大変読み応えがあります。

清吉によって女郎蜘蛛を背中に宿される女は、まるで谷崎自身のフェティシズムをそのまま宿されるかのようです。

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