02|花冷え

赤いチェックのスカートはとても気に入っていた。実際、この制服が着たいという理由で入学した子は少なくなかったし、制服を着たままちょっと遠出したときには「どこの制服ですか!?」と突然呼び止められたこともある。絶対そこにしよ!と笑顔で言われると、なぜか自分が誉められたようで嬉しかった。中学の頃はセーラー服だったので、ブレザーというところも気に入っているポイントだった。

高校に入り、新しい友達がたくさんできた。小中と代わり映えのないメンバーの中で出来上がったヒエラルキーに心底うんざりしていた私は、だから、高校に入って友達ができて、バイトをはじめて、休みの日にはもらったお給料で友達と遠出して、世界が広がっていくのを感じた。“ここじゃない世界“の存在に気づいた。それは、若干16歳の私にとって革命だった。大富豪で同じ数字のカードを4枚揃えたわけでも、同じ柄のカードが4枚連番だったわけでもないのに、簡単に世界はひっくり返った。高校に入学しただけで。

はじめて高校に行ったときの桜のことを、今でも覚えている。前日まで大雨だったのに、入学前説明会のその日は信じられないくらいの快晴だった。校舎は山を切り崩した高台にあり、その前にゆるやかな長い坂がまっすぐ続いていた。両脇に隙間なく植えられた桜の木の幹は太く、枝はまるでトンネルのようにしだれ、そのすべてに満開の花をつけていた。花のトンネルの隙間から見える青い空は、桜のピンク色をよりいっそう引き立てていた。

満開の桜を見る度に、赤いチェックのスカートを履いた自分が、期待と不安とをちょうど半分ずつ持ってゆっくり坂を上がっていったのを思い出す。

昼からのラジオは好きな番組だった。週3回の帯のその番組はいつもフリーテーマで、リスナーたちは今日の出来事や仕事や家族の悩み、対人関係の悩みなどをまるで親しい人に語りかけるようにメールしていた。パーソナリティーはいつも真摯にこたえていて、まるで友達と、はたまたお母さんと話しているような優しくてあっけらかんとした喋りに親しみが持てた。顔もみたことのない人たちと、それぞれの場所ににいながら井戸端会議をしているような感覚は、音だけで伝えるラジオならではだと思う。

電話を取りながら、「今日誕生日!?やだ、おめでとう~!!」という声とクラッカーのSEが背後から聞こえた。当たり前だけど、私以外にも今日ひとつ歳を取った人が日本のどこかにいる。大抵部長宛てにかかってくるそれは、いつもしつこいマンションの営業だった。この会社からかかってくる限り、部長は永遠に外出中だ。

電話を切り終わって、あれ?私も今日メールすれば読まれるんじゃない?とふと思ってあわてて携帯を開く。知らないたぶん誰かの最新曲が流れ出して時計を見ると、番組が終わる5分前だった。おそらくこの曲が終わると次の番組とのクロストークをして、エンディングトークをして終了だ。読まれるタイミングあるか?いや、今しか送るタイミングないだろう。え、でもなに書けばいいんだろう。やばい、曲終わりそう。

「お送りしたのは、今注目のバンド〇〇の最新曲で□□でした。さて、もうひとりこの方、akiさんも本日お誕生日とのことです!おめでとうございます~!!」

「本日誕生日を迎え、26歳になりました!やだ、若い~!!20歳もちがうじゃん、お母さんでもおかしくないね?私!え~と、本日大好きな桜が見頃を迎えているとのことなので、帰りに近くの公園に寄って帰ります!雨降らないで!そうだよね~!せっかく桜が満開なのに今日はほんとに寒くて生憎の天気ですよね…このスタジオから見える景色も今にも雨が降ってきちゃいそうなんですが、せっかくだから満開の桜楽しんできてくださいね!私も祈っとくね!!」

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桜、なんだかずっと好きなんです。
自分でも方向性が見えていないこの物語がどこへ転がっていくか、楽しみながら書いています。

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