「弟子にならない?」と、その占い師はあたしに言った。
幼いときから超能力者になりたかったあたしは、占いももちろん大好き。どの雑誌の占いが当たる、当たらないと調べるのは当たり前で、いろいろとジンクスを信じたりして。
中学2年生の時にはタロットカードを買って、長くは続かなかったけれど、日々カードを読み込んで、ときどきクラスメイトを占ってあげたりもしていた。
ちょっと神秘的なことに興味があった子どもとでも言うのかしら。
それは大人になっても変わらなく、その国の宗教的儀式や占いとかに、相変わらず弱い。できるものなら受けてみたい、とも思う、占いとか。
1999年2月、あたしはブラジルにいた。
リオのカーニバルを観るべく、リオにいた。
カーニバルを見終わった後、ブラジルの一番最初の首都、サルバドール・ダ・バイーアへ旅立った(地図では、サルバドルと表記されている。ちなみにバイーア州の州都がサルバドール)。
どうしてバイーアに行ったのか、21年経った今ではぜんぜん理由を覚えていないんだけれど、多分『リオのカーニバルよりもバイーアのカーニバルの方が面白い、ブラジルに来てまでバイーアに行かないのは、もったいない』みたいなこと言われたんじゃないのかな、うん。そして黒人文化が根付いている、とも聞いたはず。
あたしはこの頃になると黒人文化により興味持っていたし、この旅のきっかけとなったキューバしかり、ブラジルしかり、黒人地区に住んだり黒人とお付き合いしているほうがなぜか「しっくり」していた。
バイーアにはアフリカから連れてこられた来た奴隷が一番最初に着いた港があって、黒人が多い地区。もっと多いところが、バイーアよりもさらに北に行ったレシフェだったけど、そこには時間の関係で行かず。
とにかく、ふらふらっと惹かれるまま、リオからバスに乗ってバイーアまで行ったのだ。
行くまでまったく知らなかったけれど、バイーア周辺には独自の黒人文化があって、それがアフリカからきた宗教とも繋がっている。
もともとは、アフリカのヨルバ国、今で言うナイジェリア周辺の文化が奴隷船とともに運ばれてきたという。昔、ちょっと本を読んだけど、絡まり具合が複雑であまり覚えていない。
記憶のみで書いていくと、確か新天地で故郷の宗教を信仰することはできず、キリスト教に無理やり改宗させられるのだが、表向きはマリア様やキリストを崇めながら、その向こうには自分たちの宗教をしっかり信仰している。それがゆっくりと変化していった。
奴隷たちはブラジルだけでなく、カリブの島々にも行ったようで、そこで独自に発展していったのか、以下のように呼ばれている。
ブラジルの場合は『カンドンブレ』
キューバが『サンテリア』
ハイチが『ヴードゥー』
そう、日本で黒魔術だの悪魔の宗教だのと呼ばれている『ヴードゥー』は、元々はヨルバ国の宗教。
確かそんな話だった。
宗教なので神様がいる。それもいろいろな神様がいるようだ。そして面白いことに、あたしのような日本人にもヨルバ教の神様がいるらしく、じゃあ、一体誰なんだろう? という事で占い師に会いに行った。
さて、ではどうやってその占い師さんを探したのか。
中南米を旅行してわかったのが、アジアやヨーロッパでは無い『日本人専用宿』というのがあって、旅行している日本人が多く泊まっている。そこで情報交換や旅のお供を見つけたりする。本の交換などもよくしていた。
バイーアにも日本人専用宿ではないけれど、オーナーはブラジル人だけど、日本人が多く泊まっている宿があって、縁あってそこに泊まれることになった。
バイーアには思ったよりもたくさんの日本人がいて、中には長期に滞在している人達も多かった。その中の一人のKちゃんと仲良くなって、Kちゃんオススメの占い師に会いに行くことになった。
彼らの神様のことを『オリシャ』を呼んでいて、つまりは「オリシャ占い」をしに行って。言ってみれば、あきつのオリシャって誰やねん、を調べよう、というわけです。
占ってもらった結果、あたしのオリシャはオシュン(Oxum)
川の女神。富と出産、女性の美を司る。色っぽいセクシーな女神。オグンとオショッシ、シャンゴの妻。扮装はイエマンジャと似ているが、オシュンはスカーフを身につけている。ウンバンダでは、この女神に憑かれた人は渦巻状に回転しながら踊り、身体の前で手を振り、時に泣き出したりする。オシュンが泣くのは凶事の前兆とされる。色は金あるいは黄。2月2日(ヒオでは12月8日)土曜日の神。シンボルは黄色のアベベ(扇、もしくは鏡)、川の石、金。キリスト聖人は聖カタリナ、そして無原罪の御宿りを表す。供物は黄色い花、オモロオクン(フェジョン豆と海老を蜂蜜で煮たもの)、山羊、鳩、鶏。真言はオーラ・イエイエオー。
(ウィキペディアより)
ボロボロになってしまいましたが、自分のオリシャがオシュンと知って、お土産物屋で買ったオシュンのお人形です。それ以外にもビーズのネックレスとか、オシュンに関するものを買いましたね、単純。そういえば、オシュンの踊りとかも習ったなあ……。
自分がセクシーかどうかは横に置いておいて、それ以降、黄色を自分の色にしていたようにも思いますな。
さてこの占い師さん、あたしの占いが終わった後も何か言っていて。
ポルトガル語が簡単な挨拶や数字しかわからないあたしは、通訳としてきてくれたKちゃんが話を聞いていて、何やら驚いた顔をしている。
何を言っているの? と訊いたら
「この占い師さん、弟子を探していて、やらないかって訊いているよ。才能あるから。だって」
はあ!?
マジですか?!
えーっと、それはとっても興味深くありがたいお申し出ではありますが、何よりもポルトガル語がわからない。いやいや、英語すらダメ。とにかく語学が全くダメだったからお断りしましたが、占い師さん、気が変わったらいつでもおいで、と言ってくれたようです。
さあ、これを信じるか信じないか。
だって占い師さん、男性だったし、ブラジルって周りを見ていればとにかく「恋愛」大好きだから、ただのナンパっちゃーナンパでしょう〜って勘ぐれるし。
的なことをKちゃんに伝えたら「今までいろんな人を連れて行ったけれど、弟子にならないって言ったの、初めてだよ。今までなかったよ」と。と言うことは噓でもなんでもなかったということなんでしょう。
もしもあのままバイーアに残っていたら、どうなっていたのか。
そのままバイーアに住み着いていたのかな。
サッカーブラジル代表もブラジル国旗もご飯も空気も音楽もビーチも好きだったから、それはそれでアリだったかもしれない。2020年の今だって、どこかでブラジルに、バイーアに帰りたいって気持ちもあるし。ただブラジル経済や政策がかなり気になりますがね……。
バイーア州出身のブラジル人が誇るブラジルの至宝カエターノ・ヴェローゾがバイーアのことを歌っています。
ブラジルのことを思うと、この曲を聴きたくなる。
そう言えばあたしがバイーアに滞在していたとき、ちょうどブラジル建国450年だか460年だかで、カエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルがやってきてライブを無料でしてくれたことがあったね。もちろんすごい人で、どこもかしこも、押しくらまんじゅう状態。ましてや皆彼らの曲を知っているから大合唱状態。本人の素敵な歌声は、大衆の声にかき消されたのも今では良き思い出。
2006年生まれのアメリカ人とのハーフの男の子のいるシングルマザーです。日々限界突破でNY生活中。息子の反抗期が終わって新しいことを息子と考えています。