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Begeisterung 熱意があれば言葉はいらない

ペーターとのウィーン旅行が決まったところで、はじめて詳細を説明した。

そもそも詳細が先のような気もするのだが。

ベルリンからバイエルンに向かう途中に本来行くはずであったウィーン。

たまたま日本のテレビにウィーンの老舗レストランのカナッペが出ていて、それを見た母親からの Befehl(べフェール:命令)だったのだ。

ベルリンから出る時は

“ま、行かなくってもいっか!”

程度に思っていたのだが、ペーターのお陰で実現した。ひとりで行くよりも、楽しいし何よりも、頼もしく感じた。

頼もしいと言えばオーストリアもドイツ語を話すがウィーンにはウィーンの方言がある。

私がペーターの宿にお世話になっていたころ、ウィーン出身のヨット乗りが長期宿泊していて、その方言の癖の強さに、違った意味で『バイエルンを凌いでいる』と思ったほどだ。

そもそも同じ単語でも違った意味であったり、話していることはドイツ語だけど何言ってるんだ???だったり、少し話して慣れなければ想像もできないこともある。

ペーターが一緒だという事で、一気に安心したのだった。


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引き続き“秘密の中庭”で、ビールがすすむ。

『そういえばよくGrimasse ziehen(グリマッセ ツィーエン)したね!』

※しかめっ面と訳にあるが、にらめっこ


修行時代、ハードな仕事とストレスから宿に帰ってきて、男2人でにらめっこをしてストレス発散をしていた。


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なんて事は無いのだが、ある時、『変顔』をしてみたら、意外にもペーターがのってきた。

『出来るおとこ』だと認識した私はそれから度々仕掛けることになる。

良い歳をした男二人がこんなことをして人知れず遊んでいたのだ。

『あんたたち、なにやってるの~!?』

あるときレナーテに見つかって、すこしのテレと苦笑いでしばしペーターと目が合った。

次の瞬間、我々よりもハチャメチャな変顔をレナーテが披露して見せた!

3人揃って、何やってるんだ苦笑

それ以来、時折3人でグリマッセ ツィーエンするのだ。

『変顔』を初めてしたとき、これってドイツ語で何て言うの(表現するの)???と聞いた。

ドイツにしばらく住んで言葉に慣れてくると疑問に思った事は改めて辞書で引かないことが多くなる。こうして相手に聞いたりして、だいたいこんなことかと理解するのだ。

今回も、この記事を書きながら、改めてグリマッセ ツィーエンと調べてみた。日本語訳は『しかめっ面』。

にらめっこ、と認識していた私にとっては違和感があったのだが辞書ではこのとおり。母国語では良くあることだが多くの事柄を意味も考えないで話せるため、一種の遊びの『にらめっこ』という単語をそのまま何も考えず使っていて、実際は『睨む』から来ているのだとすれば、しかめっ面もたいして変わらないか。と妙に納得させられた。


言葉が完璧にきれいに話せるようになる必要はない。それが出来ればそれも良いのだが、話せない事に対してコンプレックスを抱くのも違うと思うのだ。

話せればたくさんの友達が出来る、と海外にいると錯覚してしまうのだが、日本で考えれば、それが錯覚だと容易に理解できるはずだ。口下手でも、誠実な良い人間だなと思う事もあれば、口は達者だがどうにも信用できないな、とか。


プリーンに着いて、ペーターとしこたま呑んだ次の日の早朝。

通いなれたいつもの道を歩き、修行先のKunz(クンツ)の『職人の入り口』(以前お話した、裏方で働く職人たちが行き来するドア)に立って、そんなことを考えていた。

言葉ではない私の熱意と仕事に対する姿勢を受け止め認めてくれた場所。

扉の向こうには私の親方がいる。







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