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秘するが酒

今日は起床時からすこぶる体調がよかった。一体なぜだろうか、と考えてみると、思い当たるのは、やはり就寝前のことである。

日本酒である。もちろん寝酒はよくないと科学的に言われていることは百も承知しているけれども、なぜこんなにもおいしいのだろうか、特に、妻が眠りについたあと、ひとり静かにいただく日本酒というものは・・。

こんなことを妻に言おうものなら、小言の一つでも言われるに違いないし、その気持ちも理解できる。しかし、やはりおいしいのである。そして、心落ち着くのである。

3年前から突如として日本酒に目覚めた私からしてみれば、秋田のお酒はもちろんのこと、だいたい自分の好みというものもわかってくる。いや、好みに合わないタイプといったほうが良いかもしれない。辛すぎるとダメだとか、甘すぎてもよくないとか、アルコール感が強すぎても・・など。

むしろ、私はそれ以外であれば、割と全方位的に好きである。ずっしりと米の味が乗ったお酒から、軽やかでフルーティーなお酒。あるいは、どこまでも伸びてゆくような酸味に心地よくなったり、清涼感に喉を潤したり。香りにしても、スッキリとしたりんご系から、まったりとしたバナナ系まで、なんでも楽しめるのだ。

昨夜、口にしたのは、初めて購入したAKABU NEW BORN 山田錦。

岩手県のお酒というと、少しキリッとしたタイプのお酒を個人的には思い浮かべるものだが、このAKABUは違った。購入して少し経ってから開栓したからだろうか、生酒特有の若さというより、味がしっかり乗った円熟味を感じながらも、爽やかさも兼ね備えていて、一言でいうと文句のないお酒である。これを飲んで、マズイという人はいないだろう。誰にでも自信を持って薦められる類のお酒だ。

今日も疲れたなぁ。ため息をつくと、無名の吐息は酒に吸い込まれていく。口に運び、喉を通過していくと、体を優しく包み込んでいく。もう一口、もう一口。こめかみの辺りに、心地よい血流が駆け上がっていき、目を閉じる。ああ、おいしいなぁ。言葉にならない吐息。今度のため息は、安らかだ。それも、かなり。

ひとりの時間を、豊かにしてくれるのだろう。夫婦であっても、ひとりの時間を持つことは、少なくとも私にとっては大切に感じられる。その充足感が、起床時の快調に繋がったのか。

無論、このようなことは心に秘しておくべきだろう。夜、一人で酒を飲んで寝たら体調が良くなったなどと、夫が愉快に語る様を聞かされる妻の心情を想像すると、心のどこかがちくりと痛む気もするのだ。

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