
'95 till Infinity 143
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【 第8章 - ②: Story of His Life 011 】
刑務所の中で自分の居場所を見つけるのは簡単だった。
ホームレスの世界の方がよほど曲者揃いだと思う。
自分みたいにタフでもハードでもない仲間を見つけてさ、身を寄せ合って刑務所の端っこの方で俺は生きてた。他の奴らみたいにジムで体を鍛えたり、みんなでわいわいバスケをやることもなく、自分の分をわきまえて目立たないようにね。
結局はさ、サファリパークと一緒なんだよ。
そこにはライオンがいるし、チーターもいる。自分じゃ何もできないくせに人の後をくっついてっておこぼれに預かろうってハイエナだっている。
俺みたいな草食動物はさ、そんな肉食動物に狙われないように関わり合いにならないように遠巻きに見とくしかないんだよ。
臆病なガゼルみたいに、群れを作って生きていくんだよ。
刑務所生活自体は別にきつくともなんともなかったよ。
ヘロインから完全に抜け出すまでは本当はつらかったけどさ、後は楽なもんだった。淡々と毎日を過ごしてさ、変な話だけど、あの頃がジャンキーになってからの俺の生活で一番平穏な時期だったね。
更正施設としての刑務所の役割ってのを俺は信じないんだけど、少なくとも俺にとってあの時期塀の中にいるってのはいいことだったと思う。
別にリハビリでもよかったんだろうけど、あの頃の俺が自発的にリハビリ施設に入る訳はないしさ。
消灯時間になって電気が消えんじゃん。そうすっと、眠りに落ちるまでの時間いろいろ考えるんだよね。
自分のそれまでの人生。
迷惑をかけた人たち。
過去を振り返ってはこうすればもっとうまくできたんじゃないか、なんであの時こうできなかったんだってことを考えるんだ。
エマのことも考えたよ、なんであの時ヘロインを与えたんだって。
もちろん、今さら俺が何をどう思ったって何も変わらないことはわかってたさ。けど、灯りが消えて騒々しかった舎房が静かになるとさ、どうしても考えちゃうんだよ。
俺を苦しめてたエマや親父さんの声はさ、中に入ってからは不思議と聞こえなくなった。ひょっとしたら、あの声は自分自身の声だったのかもしれないね、刑務所に入ってそれまでのことを頭の中で声に出して考えるようになると二人の声は自然に聞こえなくなったから。
そうやって考えさせられることによって更正させるってのが司法が期待する刑務所の役割だとしたら、俺の場合は成功したのかもしれないね。
けど、俺が自分のやったことを純粋な意味で反省したかっていうと、それには自信がないよ。俺は同じことは2度としたくはないと思ってたし、今でもそう思ってる。
けど、結局のところ、タイムマシーンで過去に戻って全く同じ状態でまた絶対に同じことをしないかって言われると、それは自信がない。
今だって、俺には本当に自信がないよ。
…第八章ー② 完。
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