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'95 till Infinity #036

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【 第1章: 2nd Summer of Love of Our Own #028


 今となってはタイトルすら思い出せないけれど、当時の俺はあるスケートビデオのサンフランシスコのパートを繰り返し見ていた。

 サンフランシスコ特有の、他の街じゃ誰も滑ろうってしないんじゃないかっていう急な坂を海に向かって滑り下りていくスケーター。

 正面にはそこを流れる太平洋の寒流を感じさせる深い碧の海。その海に沈みかけた印象派の画の中にあるような、赤を黄色をオレンジを呑み込んだ夕日。

 スケボーのビデオでよく見る南カリフォルニアの、これぞカリフォルニアの空という突き抜けるような青空とは対照的なくすんだ空に浮かぶ、控えめな小さめな丸っぽい雲。サックスブルーの空に筋状に差す、夕焼け前のごく短い時間にしか見られない柔らかいオレンジの光。

 初めて見た瞬間に心を奪われ、俺はそれから毎日のように飽きもせず、繰り返し繰り返しそのビデオを見ていた。スケボーに行く前や、一日中スケボーに行って帰ってきた夜中に。うまく寝れず一人居間で1人ぼうっとしている時間に俺はテレビをつけてそのパートを見ていた。

 他のお気に入りのビデオは、特定のパートでのスケーターのトリックやスタイル、その滑りから感じるスケーターのパーソナリティーが好きで見ていたけれど、このサンフランシスコのパートに限っては、そのパート全体を、心をただただ空にして見ていた。

 まるで、誰かが、何かが、開けっ放しのドアからがらんとした空き部屋にそっと入ってくるのを待つように、俺はただ完全に受身の態勢で独りそのビデオを見ていた。

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イベント映像会社、イベント制作会社、外資系映像機器メーカーを経て、現在東南アジア某国在住。酒は飲むからには呑まれる40歳。
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