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先出) '95 till Infinity 085

90年代西オーストラリア州パースを舞台とする3人の少年の物語、" '95 till Infinity " 第5章・"Buried in the Closet"の先出有料マガジン内の記事です。

マガジンをご購入頂ければ読めますが、第4章の全エピソードの無料投稿が終わり、第5章の無料投稿が始まる段階で、無料開放されます。

↓ 以下、"'95 till Infinity 085"です。


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【 第5章: Buried in the Closet 006 】

ベルベットのソファーの上で俺は夢を見る。

俺の鼻先にはカイロが立っている。目の前に立つカイロは俺の記憶の中のカイロとは全く違うし、現在のカイロとも大分違うだろう。

目の前に立つのは、俺が創り出した今のカイロ。

俺が知っている一番ひどかったときのカイロよりももっとガリガリで、10年分のドラッグの混ぜ物で編まれた皮膚は掻きむしった吹き出物がかさぶたになり、その窪みには薄い朱色の泥水が溜まっている。

いつも自分なりのスタンダードを持って洋服を着こなしていたカイロの姿はもうそこにはない。

目の前のカイロが着ているのはターゲットのタグが透けて見えそうなよれよれのスウェットパンツ、吸い込まれた脂汗とすり込まれた垢にグレーに染められた白のTシャツ。腹のあたりにはゲロの跡だって見える。

目の前に立つカイロは何も言わない。
カイロはただそこに立っている。

目の前に立つ俺に何も言わず、ただ感情の消え去った空虚な目で俺を眺めている。いや、違う。本当はカイロは俺なんか見ていない。

カイロが見ているのは30cm前に立つ俺ではなく、もちろん俺の後ろに立つローンが20年残る郊外型2ベッドルームの家でも、刈り揃えられたバックヤードの芝でもない。

カイロは俺の全てを見透かして、俺が誰にも見せたことのないクローゼットの奥の秘密をまっすぐに見ている。俺が何年も前の新月の夜に、土砂降りの中、人目を忍んで埋めたものを。

そして、俺も、カイロを目の前にして何も言えず、ただそこに立っている。

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