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'95 till Infinity 083

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【 第5章: Buried in the Closet 004 】

キッチンからはニコールがグラスを洗うかちゃかちゃという音。他にも夕食の食器があったのか、しばらく音が止むことはない。

無言で食器を洗うニコール。
ニコールは何もなかった訳がないことを知っている。
そして、もちろんそれが仕事に関係がないことも知っている。

俺は今まで仕事や仕事によってもたらされた感情を家に持ち込んだことなんか一度もない。

ニコールは俺が嘘をついたことを知っている。
それでも、ニコールは何も言わない。
何も聞かないでいてくれる。

これが他の家だったら、どうだろう?

例えば、これがスティーブの家だったらどうだろう?感情への入り口と行動への出口が不細工に縫い合わされたスティーブの嫁だったら?

思ったことは口に出す、気に入らなけりゃ暴れだす。
そんな相手と毎日何年も過ごして、(建前上は)この先何十年も過ごすんだ。そりゃ、家に帰りたくもなくなる。

それに比べて俺は幸せだ。
いや、それに比べなくても俺は幸せだ。

毎日帰ってくる家にニコールが、スコットがジェシーがいるだけで俺は幸せだ。このささやかな、かけがいのない幸せを俺は大事にしてきたし、それを誰も俺から奪うことはできない。

しばらくして蛇口をきゅっと絞る音が聞こえ、キッチンからニコールが首を出す。「私はまた寝るけど、どうする?」と聞くニコールに俺は首を振って、「もうちょっと起きとくよ。寝れそうにもないし」と答える。

ダイニングテーブルの椅子にかかったタオルで手を拭き、ニコールは俺の横に立つ。ゆっくりと屈み俺をハグして、額にキスし、耳元で「おやすみ」とささやいて、立ち上がる。

見上げるニコールの顔に浮かぶ静かな微笑に俺も微笑む。吸い込まれそうなニコールの目に救済を求めながら、俺は「おやすみ」を言う。


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