先出) '95 till Infinity 075

90年代西オーストラリア州パースを舞台とする3人の少年の物語第4章・"The World is Yours"の先出有料マガジン内の記事です。

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↓ 以下、"'95 till Infinity 075"です。


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【 第4章: The World is Yours 007 】


波打ち際で足を取られるように他の客につられて俺も出口へと向かう。

通りへの狭いドアの前で起こるささやかな渋滞、耳元では酔っ払いたちが次の目的地を口々に怒鳴りあっている。

俺はどこへ行けばいいのだろう。

自分が行くところ、行きたいところ、行かなければいけないところを考えて、俺の足は通りに踏み下りた瞬間に止まってしまう。

後ろからガンガンと当たり続ける酔っ払いの波、みんな謝ることすら思いつかないほど酔っ払ってやがる。俺は考えをまとめようと深呼吸をする。

吸い込んだ空気にはっきりと感じる煙草の煙。

それはとてつもなくリアルで、考えをまとめる時に、自分を落ち着かせる時にかつてそうしたように俺は深く吸い込み、1テンポ置き、細い煙をゆっくりと吐き出す。アルコールで歪んだ視界に見える淡い白いライン。

俺はすぐに頭を振ってその幻想を打ち消そうとするが、右手はいつの間にか軽く握られていてご丁寧にも人差し指と中指の間には煙草一本分のスペースまで空いている。

煙草を止めようとしていた時期はともかく、禁煙に成功してからは煙草を吸いたいと思ったことなんか一度もない。あんなに体に悪いもの、煙草を完全に止めた今は煙草を吸っている奴を見かける度に高校の保健体育の授業で見せられた肺癌で死んだスモーカーの肺が頭に浮かぶ。

煙草を止めるのは本当に大変だった。

最初の数日は煙草のことしか考えられなかった。

それでも、止めるしかなかった。生まれてくる子どもの為に彼女が同じように煙草を止めようとしている横で自分だけが煙草を吸う訳にはいかない。

煙草を止めた今は自分が煙草を止めて本当に良かったと思っている。あんな体に悪いもの。肺を痛めつけるだけ痛めつけて、いいことなんか一つもない。税金はクソみたいに上がって1箱10ドルもして、外で吸おうものならノンスモーカーからは性病持ちのような目で見られる。

税金を上げた政府を批判する気は俺には全くない。肺癌に喉頭癌に咽頭癌、呼吸器疾患に循環器疾患。スモーカーが自分が吸いたいが為に吸った煙草でなった病気に俺たちの税金で払った金が医療費となって消えていく。

俺は政府がタバコ税を上げたのは大正解だと思う。

そして、俺は自分が煙草を止めたのは本当に良いことだと思う。子どもができた、できないは関係なしに自分の人生のどこかで煙草は止めていたとも思う。 

それなのに、それなのに、今煙草を止めようともがき苦しんだ時よりもさらに猛烈に煙草を欲している。

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