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「都会から嫁いできた自然を舐めている妻を演じた朝」

 自業自得の話です。 

 今朝、Twitterで呟いたようなことを考えながら、いつもの道とは違う田んぼの方角に歩きました。

 ここのところわたしはうつくしい白い蓮を毎日眺めて、そして、若干飽きていたのでありました。でも終わる前にというか、明日からはまた、蓮を見に行きます。実はそちらは、整備された歩くための遊歩道的な道なのです。

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こんな美しい蓮に飽きるなんて贅沢ですな。

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田んぼはわたしには原風景。あれこれ考えながら川を越えて村に入りました。

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水田の頃よく車で来ていた大好きな場所を歩いてふと、わたしは次の田んぼにはしごする近道を見つめていました。

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「待て。熊が怖くないのか」

わたしは本気で熊が怖いです。なのでここを通れば五分で行ける田んぼに、二十分かけて回り道をして行こうと思っていたそのとき、向こうから軽トラがやってきました。

「今軽トラが通ったということは、獣がいたとてどっか行ったのではないだろうか……」

怖いですね。不意に怖さが消えました。軽トラバイアスですね。「バイアス」は「網戸」って勝手に翻訳してます。「軽トラ網戸」になるともう意味は何もないですね。

ふらっと近道に入ったら、バックミラーで不審な女を見ていてくれた軽トラがバックで戻ってきました。

「だーめだよ! 歩いて入っちゃ!! 熊が出るんだから!」

「すみませんありがとうございます!」

命を助けられ、わたしは遠回りして目的の田んぼに辿り着きました。道も開けていて、ここなら熊に襲われることもあるまいと田んぼのあぜ道を伸び伸び歩いていました。

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よく見て。奥には森。

今度は年配のご夫婦の軽トラがすっとんできました。

「ちょっと! 何してんの!! 熊! 熊出るから!!」

「ここもですか!?」

ご夫婦はノーマスクで(農作業中マスクしないです。特に今は)、わたしの方がリスク持ちなものでタオルで口元を隠して軽トラからディスタンス。

「熊だけじゃないから。猪も鹿も襲ってくるから。こっちからは見えないけど、向こうは今だって見てるんだから!」

そんなことは考えたことがなかった。

「そうだよー。だから俺たちはこうやって、花火や爆竹持ち歩いてるんだよ」

運転席のお父さんが、陽気にスターターピストルをバンバン鳴らしてくれました。お母さんにわたしは叱られ、お父さんはそんな奥様が愉快そうでした。

「どっからきたの!」

わたし、何処にいてもこれを訊かれます。都会でも訊かれます。何処にいてもよそ者オーラを漂わせるので、この一年半特に困ってます。

「あの、そこに住んでます。その辺に」

「住んでるの!? 旦那さんいったい何やってんの!」

「え? (存在しない)夫ですか?」

わたしは存在しない夫の職業を訊かれたのだと誤解しました。

「奥さんにちゃんとこの辺のこと教えねえで。なあにやってんだか!」

存在の耐えられない軽さ、存在感ゼロの夫の責任を問われ、答えに窮しました。存在しない夫には、能動性も受動性もないけれど責任がある。

それが中道というものなのかもしれないと思考が遠くに飛びました。だって存在しないのだから。

「夫は……忙しく、しておりまして」

いないと、言えませんでした。何故なら十五年以上ここに住んでるし。半世紀生きてるし。そうすると自然を舐めている責任は全てわたしにあるものの今更そんなことは言えないので、都会から嫁いできた自然を舐めている妻を全力で演じました。とんだ三文芝居です。

「朝も一人なもので、こうして散歩を」

「自然はきれいかもしれないけど、見えないところに恐ろしいことがたくさん潜んでるんだよ!」

至言が出てしまった。

「これからは人の道を歩きます……」

至言が出ると、歩道の意味も変わってくる。

「そうしっせ!」

ご夫婦に頭を下げて、人の道に戻りました。

明日からはまた、遊歩道を歩きます。

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反省多き毎日です。

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