アクション・リサーチを活用して、実務を学術知見に昇華する方法
この記事は、「YUMEMI Design Advent Calendar 2024」の7日目の記事です🎅
現場で日々行うクライアントワーク。その中には多くの発見や課題が潜んでいますが、それを知識や理論に体系化し、組織全体や他のプロジェクトで活用する機会は少ないかもしれません。しかし、実務から得られる知見は、個人や組織の成長に寄与するだけでなく、学術的な価値を持つ可能性を秘めています。そのプロセスを具体化するための方法が、アクション・リサーチ(Action Research)です。
アクション・リサーチは、現場の問題解決と理論的知見の創出を並行して進める実践的な研究手法です。本記事では、その基本概念、実践方法、そして筆者が取り組んだ事例を交えながら、アクション・リサーチの活用法を解説します。
アクション・リサーチとは
アクション・リサーチは、1940年代に心理学者クルト・レヴィンによって提唱されました。レヴィンの提唱する「計画」「行動」「反省」のサイクルは、現場の課題に取り組みつつ、新たな知識を生み出す手法として広く知られています。その後、このアプローチは教育、ヘルスケア、ビジネスなど多様な分野で取り入れられるようになりました。
特徴的なのは、参加型アプローチと反復的なサイクル構造です。研究者が現場の実務者やステークホルダーと協働し、課題解決と知見創出を同時に追求するこの手法は、特に複雑な問題を抱えるプロジェクトに適しています。
アクション・リサーチの現場での実践方法
1. 問題の特定と目標設定
アクション・リサーチの第一歩は、現場で直面する課題を明確にすることです。具体的には、以下のプロセスを経ます:
ヒアリングと観察:クライアントやステークホルダーのニーズを深掘りします。
課題の整理:複雑な問題を小さなアクションで解決可能な要素に分解します。
目標の設定:課題解決の成功基準を明確化し、測定可能な指標を設けます。
2. 実践を通じたデータ収集
課題を特定したら、解決に向けた行動を計画し、実行に移します。その過程で以下を意識します:
アクションの設計:小さな実験を計画し、現場で実行可能な範囲で試みます。
データの収集と記録:行動の結果を、定性的・定量的データとして記録します。
3. フィードバックと改善のサイクル
実施したアクションの成果を振り返り、新たな学びを得たうえで次の計画を立てます。このサイクルを繰り返すことで、実務の改善と理論的知見の深化が進みます。
実践事例:デザイン・イネーブルメントを通じたアクション・リサーチ
筆者が実践したプロジェクトの一例として、システム開発の事業を行うクライアント企業との協働があります。このプロジェクトでは、デザイン・イネーブルメントを中心に据え、人間中心設計の導入とプロセスの改善を目指しました。
課題:技術中心の業務プロセスにおける、デザインやユーザビリティ観点の検討コンピタンスの欠如。
目標:クライアントが自律的に人間中心設計を活用できるようになること。
このプロジェクトでは、アクション・リサーチを通じて以下の成果を得ました:
ロードマップに基づく座学やワークショップの実施及びプロジェクトでの実践を通じて、既存業務への人間中心設計プロセスの導入。
チームの変革だけでなく、部門全体への活動浸透開始。
得られた知見を学術的なフレームワークとして整理し、Academic Design Management Conference 2024で発表。
アクション・リサーチを活用するためのポイント
課題意識を持つ:日常業務で遭遇する問題を見過ごさず、解決策を探るプロセスに意識を向けることが重要です。
柔軟に計画を調整する:最初から完璧を目指すのではなく、試行錯誤を繰り返す中で学びを深めます。
成果を広く共有する:得られた知見を社内外で発信することで、新たな価値を創出します。
おわりに
アクション・リサーチを通じて得られる学びは、現場の課題解決だけでなく、新たな知識の創出へとつながります。本記事を通じて、日常業務にこの手法を取り入れるヒントを見つけていただけたなら幸いです。
イベント開催のお知らせ
2024年12月13日(金)に大阪にて、今回Academic Design Management Conference 2024にて発表した内容やボトムアップでデザイン活用を組織で推進したり、新規事業開発をしたりといった事例を紹介するイベントを開催します。無料でご参加いただけますので、ぜひご検討のほどよろしくお願いします🤘
👉 現場から組織にデザインを浸透させる:実践例と最新研究から学ぶボトムアップ戦略
開催日:2024年12月13日(金)17:00(16:30から開場)〜
開催場所:大阪うめきた:グラングリーン大阪 北館 JAM BASE 5階
主催:立命館大学デザイン科学研究所DML、株式会社ゆめみ
詳細はイベントページをご覧ください。
参考リンク
中村和彦、アクションリサーチとは何か?、人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要)、7、1-25
https://rci.nanzan-u.ac.jp/ninkan/publish/item/07_02_01.pdf
dmi: design management institute, Academic Design Management Conference 2024, 2024 Conference Proceedings.
https://www.dmi.org/page/ADMC2024Proceedings
株式会社ゆめみ、デザインマネジメント分野の国際カンファレンス「ADMC2024」に、執行役員本村と立命館大学八重樫教授の共著論文が採択、2024年6月25日
https://yumemi.co.jp/24th_dmi_motomura