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初めての鬼②/#毎週ショートショートnote

文乃は鬼になったことがない。
文乃が村長の娘だからだ。
彼女の母親は村長の妻ではない事も皆しっていた。

今日の鬼役は転入生の伸司だ。
彼は美しい文乃にひとめで心を奪われた。
文乃は鬼にするなとの取り決めを鼻で笑った。
女の気を惹くには意地悪をすればええんや。

「もういいよー」

伸司が境内から離れる。
隠れたつもりで見えている他の者は無視し、文乃を探す。
いた。かなり遠くの石碑の陰に蹲っている。

「みーつけた」
頭を触ると瘤にあたった。

「あっごめん。怪我してんのか。痛かった?」
文乃が顔を上げる。うすく笑いながら

「大丈夫、痛くないわ。…私、鬼になるの初めてや」
「そうらしいな。一回やってみるのも悪くないで」

伸司は文乃の顔をまじまじと見た。
文乃の目は緑がかった灰色をしていた。
こんなきれいな目をした子は見た事がない。

「この瘤な…生まれつきあんねん」
伸司をじいっと見詰めながら言う。

「触ってもええで」

伸司は震える手で瘤に触れた。
突然目の前が暗くなった。


(410文字)

たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。