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官能

 イチゴ農家では収穫時にトロリーと呼ばれる台車が使われる。座面と荷台と屋根(多くは布が朽ち果てた骨組みだけの状態)から成る車輪付きの人力車だ。
 決して滑らかではないこの車輪を自らの重さと摘んだイチゴを乗せて走らせることは、なかなかの重労働であった。芯の細い私は腰痛に悩まされるようになった。さらに毎朝毎晩の大人数を乗せた運転もそれなりに負担になっているようであった。幸いなことにドライバーとしての役割のおかげで、それほどがむしゃらにイチゴを摘まなくても生活費に困ることはなかったので、畑では無理をせずに過ごすことが多かった。それでも疲労は蓄積していて、肉体的にだけでなく、精神的にも疲弊してきていた。収穫シーズンに入って以来、一ヶ月以上休みがなかったことも関係があったであろう。一般的な収穫者は週に1日程度は休みを申請して取得していたが、ドライバーの私には難しかった。そんなある日、懇意にしていた日本人女性が、一ヶ月ぶりにデイオフを取ると言っていた。
 私は朝晩の送迎だけは行うが、畑仕事は休みたいとリーダーに伝えた。彼はどうせなら送迎も休んでもいいと提案してくれたが、私はその申し出を断った。理由は、単純に稼ぎたいという気持ちもあったが、任されたことを果たしきれないことや、イレギュラーによってトラブルが起きるのが嫌だという気持ちが強かった。特に自らの我儘や言動の影響によって不利益が生じたりリスクが増えることは避けたかった。つまり、毎日の送迎はできるなら慣れた人間が行うべきという指針により、私は送迎だけは行うことにした。
 チームメンバーを畑へ送り届けて、ファームハウスに戻ると、そこには久しぶりの静けさが漂っていた。休日を取ったワーカーがちらほらいたが、暖かい日差しと白灰色の地面の間には建物と洗濯物の影が映し出されているだけであった。
 私は適当に朝食を済まし、久しぶりにゆとりのある時間の中で2杯分のコーヒーを淹れた。それらを持って13番の部屋をノックした。中からはひょろ長い体つきの髪の長い女性が現れた。彼女は私のことをちゃん付けで呼んだ。私はコーヒーカップを手渡し、彼女が礼を言ってそっとそれに口をつけるのを眺めていた。この部屋も私たちの部屋と同様に、二段ベッドと机とロッカーと湿った空気に満たされていた。
 彼女が机にカップを置くと、私はすぐに彼女の腰に手を回して、口づけをした。わずかに引いた彼女の頭を逃さぬように腰を力強く引き寄せ、彼女の上唇を咥え込む。自然と絡み合う舌とお互いの吐息がごく僅かな領域で混ざり合った。この瞬間、この領域に世界の全てがあるように感じた。
 私の固くなったものを彼女は優しく最下部から撫で上げた。私は彼女の臀部を強く掴み上げた。また吐息が混ざり合う。私はそれの先端が湿っていることを感じていた。ズボンを下ろし、彼女の顔をそれの元へ誘う。彼女は焦ることはない。私の下着の上から、顕になったそれの形を確かめるように両の手と舌を使って撫で回した。その時、窓の外に動く人影を感じた。私は半開きになっていたカーテンを閉めようと試みたが、古いカーテンレールがそれを阻んだ。
「なに、気にすることはない」自らにそう言い聞かせて彼女をベッドへ誘った。彼女の湿った部分を私は愛でた。舌の柔らかい部分で彼女の小さな突起を覆い、抑揚と摩擦を与えた。湿度の高まりを感じ、私は自らの最も大きな指を彼女の最深部へと至らせた。暖かく滑らかなその感触を確かめ、私はその指の腹で彼女の内膜を押し上げながら入口へと這わせた。ざらつきを感じ、彼女の腰が少し上がった。私はそこを何度も執拗に押し上げながら彼女の小さな突起を吸い上げた。私は2番目に大きな指も彼女の内部に届け、2本の指で柔らかくなったざらつく面を小気味よく振るわせた。そのリズムに合わせてわずかに大きくなった突起を舐め回した。
「トントン」とドアが鳴る音がした。外から台湾人が私の名前を呼んでるのが聞こえた。ここは私の部屋ではないのだが、彼はなぜか私がここにいることを知っていた。
 私が扉を開けると、そこには金髪の男性台湾人が立っていた。最古参に分類される見知った相手だった。彼はいつも私の体調を気にかけてくれていた。今日も珍しくデイオフを取ったということで心配して見に来てくれたようであった。体調は心配ないことを告げて感謝を述べた。明日からはまた畑に出るつもりだと話すと、あまり無理するなよと労いの言葉をもらった。彼らは計画的にちゃんと休みを取れて居るようだ。よかった。扉を閉める頃になって、私は自分の口の周りが濡れていたことに気がついた。
 そそくさと扉をしめて、私は再び果実の待つベッドへと向かった。熟した果実は毛布に包まれていて、私はその分厚い皮の間に手を滑り込ませ、優しく剥いだ。熱を失い始めた果実に再び情熱を注ぐ。それはもうこれ以上は熟れることができないという表情を見せた。私は果実をベッドから立ち上がらせ、テーブルに手を着かせた。またカーテンの外に人影を感じた。しかし、熟れた果実にはもうそのような些細な視線を知覚する能力は残されていないようだった。私は果実の最も熟れた部位に自らの繊細な部分を当てがった。それはさらに膨らみ、果実の中へ吸い込まれた。それが最深部にピタリと張り付いた。私はその感覚を確かめながら、僅かに腰を揺り動かした。彼女は倒れ込むようにテーブルに胸を押し伏せた。
 それからはもうよく覚えていない。ただ世界が揺れて見えて、暖かく心地の良い湿気と、カーテンから差し込んだ自然光の乱反射が部屋を満たし、私はおそらく幸福と呼ばれるものに包まれていた。

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