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広告主が広告不正を防ぐ完全マニュアル(後編)

前編の記事はコチラから。

余談ですが今後、読者の方への貢献の幅を広げるべくインタビュー記事も書いていこうかと思います。テーマはマーケティングに関する内容全般ですが、「自分の名刺(=利害)は横に置いておいて、一人の人間としてトークテーマについてどう思うか」という制約条件を設けた記事にしようかなぁと思います。名刺や肩書を背負わない架空のあなたにインタビューしたいなというアイデアです。

さて、本題に入りますが、前編・後編を読了頂いた皆さんは広告不正の勘所をご理解いただけるかと思います。

・広告不正はQ&A

広告不正には必ず答え=すべきアクションがあるという立場を私はとっております。なので、みんな同じ答え=アクションに行き着くことが出来ると考えております。ここまで概念的な話が多かったので、具体的に私が出くわした事例を共有します。なお、固有名詞や数値データは一切開示せず、割合での議論にとどめます。それは私にも利害関係があるためです。予めご了承ください。ただ、割合でも充分に何が起きたか理解できる内容になっております。

・広告不正の具体的例とその解決方法

まず、状況としては以下のような状況でした。

①代理店手数料の未規定
②各媒体の仕入れ金額の未開示
③配信媒体がノーインセ媒体に偏っている(広告不正の疑い)
④広告効果測定SDKの脆弱性
等の状態が続くアプリが存在した。

①について取引手数料を明記した広告掲載基本契約を締結しました。②についても仕入れ金額を月末に開示してもらう手続きをふみました。③と④については後述のような対応を行いました。

広告効果測定SDKについてClickのトラッカーとViewのトラッカーを分けて発行ができなかった。そのため、媒体によってはViewしかしていないのにClickを成果として送信してくる媒体が多く存在しました。その結果、その成果の多くが自然流入を吸っている可能性がありました。

それ以外にもクリックインジェクション、SDKスプーフィング、インストールハイジャック等の広告不正検知や排除に脆弱なSDKを搭載していたので、水際での不正ブロックができませんでした。ですので、とりあえず配信先を目視確認できないような怪しい媒体を全停止するように指示しました。怪しいの定義は配信面の非開示、ViewとClickの入稿URLがわけられない等です。これらを実行した結果が以下です。

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n月を基準=100%とした場合のn+1月の変動幅を%で記載。

n月にはWEB広告出稿金額の6割がノーインセ媒体に出稿しておりましたが、n+1月に全停止しました。予算をTwitterやUACなどの配信先にアロケーションしつつ、本質的なクリエイティブ・ビッティング・ターゲティングのPDCAを回した結果、WEB広告出稿費を維持しながら、Organicのインストールが急増しました。結果的にWEB広告とOrganic合算でのCV数は増加。 WEB広告とOrganic合算CPIはほぼ半減しました。

①~④を対処後、前向きなマーケティング活動を行える土台が出来た。この間約半年。アプリとしては半年間グロースの機会を失ったと言っても過言ではないと今、振り返ると思います。そういった意味でアプリを誠実に開発してくれた開発メンバーには非常に申し訳ないことをしたなと感じております。

ただし、このプロセスはあくまで私が経験したn=1であり非常に具体的です。具体的ゆえに汎用性が無いので、私が①~④の課題に向き合った時の思考プロセスをビジネスモデルの観点で可視化したいと思います。

・課題に向き合った際の思考プロセス

①代理店手数料の未規定
②各媒体の仕入れ金額の未開示

については以下が代理店・媒体社のビジネスモデルですので、能動的に開示しない力学が働くため、広告主側がケアする必要があった。つまり、広告主に落ち度があったので、開示請求を求めた。

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③配信媒体がノーインセ媒体に偏っている(広告不正の疑い)

について、そもそも目視確認できないような怪しい媒体で「CPI=200円で取れてます。好調です。ただ、配信がどこにされてるか分からないです。」と言われて、それを信じる方も信じる方でまずい。そう言われたとしても、囲っているネットワークがどこなのか?とか聞きまくる。とか、大凡囲っているネットワークはどこもあまり変わらないのであれば、色々なWEBサイトに複数端末でアクセスしてみて広告ターゲティングされるまで回遊するとか。来た報告が真実なのか探求するスタンスが求められます。わからないことが悪ではなく、わからないものをわからないままにするのが悪です。わからないのであれば業界の有識者に相談してみる。とか、徹底的に調べきる必要があります。

④広告効果測定SDKの脆弱性

脆弱性の話をする前にビジネスモデルの話をします。今はもう無くなって来ましたが、アプリマーケティング黎明期には広告代理店は広告効果測定SDKの導入とプロモーション支援をあわせて行っておりました。黎明期にこのビジネス始めたの今思うと素晴らしいなと思いました。以下のビジネスモデルなので、3変数しかコントロールできません。

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売上とは言い方を変えると広告成果の数です。つまり、広告成果を定義するツールが「それは成果だ」と言えば成果だし「それは成果ではない」と言えばそれは成果ではないのです。つまり、サッカーで言うとサッカー選手とレフェリー両方を代理店が行っていたというわけです。(グヘヘヘ)

アプリマーケティング黎明期にSDKの成果認証のロジックに精通しているマーケターはほぼ皆無だったのではないでしょうか?そうすると、何が起こり得るか容易に想像ができると思います。

これも良い悪いという短絡的な話ではなくビジネスモデルの話です。代理店は黎明期に自社のビジネスモデルとシナジーのあるツール導入をフックとした広告発注モデルを素早く実行したことは素晴らしかったと思います。そしてソシャゲ市場が長らく成長市場だったことも相まって広告不正は見過ごされてきたのだと思います。現在は市場が成熟期となりアプリの栄枯盛衰がはっきり分かれる局面であることから、このような広告不正がクローズアップされるのだと思います。

ですので、餅は餅屋ではないですが、広告効果測定SDKは広告効果測定SDK屋さんに頼みましょう。まずはそこからです。なぜなら、彼らは日進月歩で開発される広告不正技術に日々対応するアップデートを行っているため、ツールスペックは明らかにこちらのほうが優れています。さらに忘れてはならない視点はビジネスモデル的にもサッカーで言うサッカー選手とレフェリーの役務を分断できるからです。つまり、サッカーで言うところの八百長試合を防ぐことが利害関係の観点からできます。

・広告不正を仕組みで防ぐ方法

ここまではどうやって広告不正に向き合ったかを事例と思考プロセスを交えて紹介しました。とはいえ、今お話したことの大半が個人のマーケターとしての技量とビジネスモデルを俯瞰してみよう。というメタな話でしたのでマーケターのクオリティに依存せず広告不正を起こさない枠組みの提案をできればと思います。

結論から申し上げますと、広告不正はマーケターに対する評価制度とワンパッケージで防ぐことが出来るというのが持論です。

まず大前提、インハウスであれ代理店を使う場合であれ多かれ少なかれ広告不正は起きます。広告不正の技術は日進月歩で進化し、それを追随する形でツールの不正防止技術はアップデートされます。ですので、広告不正技術の進歩に対して、ツールの広告不正機能アップデートは後手になる。これは仕方がないことです。その上で、マーケターに対する評価制度を適切に導入すれば、広告不正は防げます。それは、この問いに定量的に答えることです。

「あなたはどれだけの営業利益(または売上)に貢献しましたか?」

つまり、事業PLに結びつくKPIとマーケターの評価をリンクさせるということです。最悪な例は以下です。

上半期の評価として見るポイントは、広告経由でCPI何円で何CV取れたか?それが前年同期比でどう変化しかた?などです。これは最悪。本当に最悪。僕がそんな目標設定している会社のCMOなら申し訳なさすぎて会社を即日辞めるレベルです。

リリース初期は広告不正を起こさないような媒体への配信で獲得が充分にできるかもしれないです。しかし、いずれインストール数が減り、CPIが高騰する局面が来ます。そうなった時、もしあまり努力もすることなく低いCPIで大量のCVが獲得できる媒体があったらどうだろうか。悪夢しか見えないですね。

そうではなく、事業PLに結びつくKPIとマーケターの評価をリンクさせるという観点を加えた目標のもたせ方を説明します。シチュエーションとして、売上の最大化がKPIだとします。その場合、全体の売上から既存DAUの売上と自然流入からの売上を控除すると広告流入の売上が算出できます。それが売上貢献にどの程度寄与したか?を論点とする評価方法です。

また、別のシチュエーションとして安定運用局面であれば、全体の売上から既存DAUからの売上と自然流入からの売上を控除すると広告流入の売上が算出できる。それが、利益にどれだけ貢献したか?もっと言うと、自分やチームの人月を控除したPJTあたりの営業利益にどの程度貢献したか?を評価指標にするという方法です。この評価方法だと、営業利益が増える或いは減衰を食い止める以外のことは評価してもらえません。まして、広告でオーガニックを吸うなんてことをした日には減給になりますw

このように

「あなたはどれだけの営業利益(または売上)に貢献しましたか?」

という人事評価制度を導入することである程度の広告不正は防げるのではないでしょうか。

・広告不正を個人で防ぐ方法

- 適切な広告効果測定SDKを入れる。
- 代理店経由で取引する場合は企業ではなく個人を指名して発注する。
- 仕入れと手数料を明確化する

等、当たり前のようにやる必要がありますが、もっと当たり前にやるべきこととして1人のユーザーとしてデイリーレポート上の数値変化を現実世界のユーザーの行動変化で説明できる訓練をし続けることです。

それで広告不正を防ぐことはできます。どういうことか。例えば、何か新しい広告媒体に配信開始するときに、媒体社から「配信はされているのですが、目視確認ができない媒体なんです。。。」って言われてどのような印象でしょうか?気持ち悪くないですか?

TVCMのタイム枠はテレビをつけたら必ず露出してます。山手線のラッピング広告は山手線を目視確認したら必ず見ることができます。一方、WEB広告になると途端に見れないものが現れますw

主張としては、様々なネットワークに配信されているので、露出する場合もあれば露出しない場合もあるんです。という業界あるあるを振りかざすパターン。

いやいや、そんなん信用ならんわ。という心の声に素直になる必要があると思います。もし、あなたが社長ならどこに出ているか(本当に出ているか)わからない広告媒体に出稿しますか?少なくとも「露出先を教えて下さい。自分で目視確認できるまで確認し続けるので」くらいの気概がないと広告費使っちゃ駄目でしょ。

誰かが「その業界の常識です。」という思考停止ワードを振りかざしてきた時は注意しましょう。大体、既得権益があります。それ以外にも、ViewとClickのアトリビューションウィンドウの定義を「営業さんに言われたので◯◯で設定してました」とかも要注意。他人を信用しすぎw

もっと、自分の知識やロジックを信じましょう。自分を信じるための自己研鑽を惜しんじゃ駄目でしょ。

誰よりも自社のゲーム及び競合ゲームをプレイしたのであれば、自信をもって「このアプリはイベントの周期性から自然休眠復帰率の周期も◯◯日であることが想定されるので、リターゲティング広告の△△日以内ユーザーへの配信だと既存ユーザーの自然休眠復帰を食うことが想定される。」と言えるのではと思います。

上記はアトリビューションの定義の話なので、広告不正の話と切り分ける必要がありますが、このような仮説思考があれば、大抵の広告不正は防げます。

長くなりましたが、誰よりもそのプロダクトについて考え、行動していれば自然と上記はできるのではと思います。1人のユーザーとしてレポート上での数値の変化を現実世界のユーザーの行動変化で説明できる訓練をしつづける。自分の知識を信じるための自己研鑽を惜しまない。

・求められるマーケターの姿勢

今までの話を踏まえて、マーケターに求められる姿勢が何なのかを明らかにできればと思います。求められるマーケターの姿勢は事業の売上や利益に責任を持ち、あらゆる手を尽くすことだと考えます。

その手段として、WEB広告やTVCMなどのアロケーションや最適化を行うプロモーションがあったり、アプリのUI / UXフローに口出しをして指示を出すことが求められるのだと考えます。言うは易く行うは難しということは重々承知しておりますが、これが求められるマーケターの姿勢だと思います。

・まとめ

話も長くなってきたので、そろそろ終わりにしようと思います。色々書きましたが、私が実現したいことは先人たちの失敗から学び、同じ過ちを侵さずに、本質的なマーケティング活動に皆さんの時間が使われることで、世界の発展に貢献したいということです。

今回は私がしゃべる必然性のある広告不正というテーマを取りあげました。広告不正の技術的な話をかなーり端折ったので詳しく聞きたい方は是非、ご相談ください。

また、広告不正の真実は広告主しか語れない本当の理由も何度も言ったビジネスモデルが原因です。つまり、利害関係の観点から広告主しか真実を語れないのです。なので、ここまでの学びを抽象化すると、

質問内容を吟味することも大切ですが、その質問を誰にぶつけると有効な回答が返ってくるか?を取り巻く利害関係者を俯瞰しながら選択するスキルが重要だということです。

このような俯瞰した視点で状況を認知して、自社にとって最も最適な解を選択し続けるスキルが大切だと思います。つまり、メタ認知スキルって超大事ってことです。

ちょっとマーケティングより抽象度高くなりそうですが、メタ認知スキルについても、どこかで書ければと思います。


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