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組織のモチベーション(2)「組織の中で育まれる組織の人格」

 組織は、利己的な個人の集合体でありながら、一つの性質を持ちます。この性質は、生物学で言う体質と気質によって構成され、組織の人格とも言えるものを形成します。

 組織の体質とは、どのような機関で全体の意思決定が行われ、それをどのような体制で、個別の行動に移していくかの組織構造のことを言います。 体質は、フィジカル医学同様、視覚的にとらえやすく、問題がある箇所も限定しやすいので、組織論というとこちらの研究が進んでいます。

 一方、組織の気質とは、組織が持つ志向性のことで、組織が培ってきた歴史や、周りの環境によって生み出されます。 気質はメンタル医学同様、視覚的に捉えにくいため、問題発見が難しく、根本的な治癒も困難です。しかし、生物の行動と同様に、組織の行動は気質によって大きく左右されます。

 組織の気質は、大きくは、“成長志向気質”と“安定志向気質”に分かれます。

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 どんな組織が“成長志向気質”で、どんな組織が“安定志向気質”なのでしょうか? 

 一般的に、民間企業の気質は飽くなき成長志向です。前年よりどのくらい成長できるかを示す、業績前年比を重視した目標を立てます。資本主義経済では、規模の成長が企業発展の証であり、株式会社は株主から、常に規模の成長を期待されています。世界経済が右肩上がりに成長していて、企業が常に成長の余地を持っていた時代は、成長志向であることが理に適っていました。しかし世界経済は、これまでにない行き詰りを見せています。

 世界経済の行き詰まりについて、少し詳細に事情を説明します。近年の世界経済は、先進国を拠点とするグローバル企業が、労働コストの安い新興国や途上国で大量に安い商品を作り、それを先進国で売りさばくことで、新興国や途上国も雇用が増え、賃金が上がることによって新たな市場に発展するというサイクルで成長してきました。そして、それらの新興国や途上国が一定以上発展すると、新たに安い労働力を求めて、別の新しい新興国や途上国で商品を作るようになるのです。しかし、残存している未発展国が少なくなり、このサイクルが回り切らなくなってしまいました。つまり、成長のためのマーケット・フロンティアが地球上から失われつつあります。こうして、世界経済の成長に限界が生じてきたと言われています。まさに生物で言うところの成熟期にさしかかっているのではないでしょうか?

 マーケットが拡大しない中、企業が成長を追求したままでいると、企業に問題が生じます。成長しないのに成長を義務付けられた企業の社員は、不正を起こしたり、うつ病などの精神疾患にかかってしまったりします。そして、社員にプレッシャーをかけ、不幸にするような企業はブラック企業として糾弾されます。

 これが資本主義の限界説です。今まさに、世界中が直面している課題です。

 先ほど、民間企業の気質は、そもそも飽くなき成長志向であると書きました。そうした成長志向の組織が、成長の限界に遭遇した時に、どうすればよいのでしょうか?

 次回、この辺りを歴史に学ぶことから始めたいと思います。


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