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組織のモチベーション(11) 「理想的な組織形態とは?」(最終回)

AKIO IIJIMA


 共同体組織は硬直化して死に至る危険性があり、機能体組織は人の犠牲を伴うブラック組織になる危険性があります。そうなると、理想的な組織とは、どんな形態になるのでしょうか? ヒントは、組織の中の個人のモチベーションにあるのかもしれません。
 個人のモチベーションを考えるにあたって、「モチベーション3.0」(ダニエル・ピンク 著、大前研一 訳)を参考にしました。この本によると、個人のモチベーションには3段階のバージョンが存在します。
 モチベーション1.0は、「生存本能に基づくモチベーション」であり、人は、”生きるために、やるしかない!”という切羽詰まったモチベーションによって動かされるものです。
 モチベーション2.0は、「アメ(報酬)とムチ(罰)に基づくモチベーション」であり、人は、”これを達成すると得をする、達成しないと損をする。”という利害を基にしたモチベーションによって動かされるものです。
 そして、クリエイティビティ(創造性)のある作業を行うためには、モチベーション3.0が必要です。モチベーション3.0は、「内面から湧き出る、やる気に基づくモチベーション」であり、人は、”自分がやりたい、やるべきだと思うからやる。”という自発的なモチベーションによって動かされるものです。
 モチベーション3.0こそが、個人による質の高いパフォーマンスを生み出します。しかし組織全体のことを考えると、いくら個人が自発的なモチベーションを高めても、それが全体で噛み合っていないと、組織としてのパフォーマンスは上がりません。
 理想的な組織とは、「個人のモチベーション」と「組織のモチベーション」がシナジー効果を生み出す、win-winの関係になっている組織です。つまり、個人が自分で考えて、やるべきであると考えて行う行動が、組織全体をあるべき方向性へと後押しするような関係です。
 それは、共生体組織と呼べる組織形態ではないでしょうか? ここからは、私の自論を展開します。
 共生体とは生物学において、種類の異なる細胞が寄り集まって、一つの体(個体)を作り上げていくために、個々の体細胞が相互に認識しあい、情報交換しながら、個にとっての最適と全体最適を両立させていくというものです。
 共生体組織は、共同体組織と同様に、従業員の居心地を追求します。しかし、共同体が追求するのは、”安定・安住”による安心感がもたらす居心地であるのに対し、共生体が追求するのは、”自発・自律”による充足感がもたらす居心地です。まさに従業員のモチベーション3.0をどう高めるかが、組織の価値向上に繋がります。
 共生体組織は、機能体組織と同様に、目的達成を追求します。しかし、機能体が追求するのは、計測可能な具体的な目標という、”規模の成長”である場合が多いのに対し、共生体が追求するのは、世の中にどんな価値を与えるのかといった、概念的なミッション達成を目標とした、”質の成長”になります。そしてミッションが達成されることによって、数字は後からついてくると考えます。

共生体

 意思決定サイクルは、上意下達による中央集権型のPDCAサイクルではなく、個人のやる気を重視した自律分散型のD-OODAサイクル[組織のモチベーション(9)参照]を回すことで、精度を高めていくことになります。
 先が見えない時代に、イノベーティブで創造的なビジネスを展開したいと考えたら、まずは組織を共生体組織にして、個人のモチベーション3.0を高める環境を作ることが重要です。
 これは、マネジメント側に非常に高度なスキルを要求する組織形態だと思います。個人に対し、モチベーション2.0であるアメとムチを使って仕事を強制するのではなく、個人がやりたいこと、やるべきだと感じることを協調しながら行うように促すことで、全体が成長し、結果として収益にも繋がるというマネジメントです。
 こんなの不可能だと思われるかもしれません。しかし、真の働き方改革は、企業が共生体組織になって、やらされる仕事ではなく、やりがいを持てる仕事ができるようになることではないでしょうか?
 では、どうすれば、社員が組織に貢献することにやりがいを感じてもらえるのでしょうか?

団結

 まずは、明確でシンプルな事業方針を提示することが重要です。組織のモチベーション(9)に記しましたように、スターバックスもアマゾンもGoogleも、グローバルに成功している企業は全て、一つの分かりやすい事業指針を持っています。事業指針を一言で言えず、事業指針10か条とか作っている企業は、モチベーション2.0のままで社員を動かしている非創造型企業と言えるでしょう。また、どんな企業にも当てはまるような事業方針(例えば、技術で社会の幸せに貢献するとか。)しか出せない企業では、社員のモチベーションの方向性がぶれてしまいがちです。
 事業の方向性を一つのシンプルな言葉で示し、社員のやる気に任せるというのは、勇気の要るマネジメントかもしれません。しかし、創造型企業の理想的な組織形態である、「共生体組織」になるためには、組織のモチベーション(ミッション)と個人のモチベーション(やる気)の方向性を一致させ、個人の意思決定をD-OODA型にしていけるようなマネジメントを行う必要があるのではないでしょうか?
 私がボードメンバーとして参加している株式会社Queは、このようなマネジメントをサポートするために、企業のミッションの言語化、組織作りのアドバイス、社員の自律した思考を助けるアイデア発想研修等を行っています。

 最後に、おまけとして、ここまで読んでくださった方々に、自分のクリエイティビティ(創造力)は自分で守らなければいけないという話を書きます。

電球を持つ-min

 「モチベーション3.0」という本は、恐ろしい事実を提示しています。
 創造的な仕事に対し、モチベーション2.0による、報酬や罰則が提示された場合、個人のクリエイティビティ(創造力)は減退するという事実です。つまり、成功報酬によって、”良い仕事をしたら給料を上げる。”ということをすると、社員のクリエイティビティ(創造力)は落ちるということです。
 この本の中では、その理由は示されておらず、何度実験しても、明らかにその傾向が見られると書かれています。おそらく、報酬や罰則が提示されることで、「共生体組織」における個人のモチベーションである、”自発性・自律性”に淀みが生じてしまうからかもしれません。
 また、働き方改革によって、創造的な仕事に使う時間を限定してしまうのは、モチベーション3.0を損なってしまう危険性があるかもしれません。モチベーション2.0によって、上意下達的にやらされている仕事の時間と、モチベーション3.0によって、自発的・自律的に、やりたい、もしくはやるべきと思っている仕事の時間は、分けて考える必要があるのではないでしょうか?
 もちろん、自発的・自律的に行う仕事だからと言って、無理をし過ぎて過労死するようなことがあってはいけないと思います。しかし、モチベーション3.0によるクリエイティブな仕事は、夢中になって没頭することが必要な場合もあります。この夢中になれる時間が、労働時間制限によって、例外なく限定されてしまうと、日本の企業からは、クリエイティビティ溢れるアイデアが出てこなくなってきてしまうかもしれません。
 成果報酬と労働時間制限が当たり前となってしまう時代に、個人は、どのように自分のクリエイティビティを守り、やる気に基づくモチベーション3.0を健全に保つ事ができるのでしょうか?
 自分のクリエイティビティは自分で守るしかありません。
 モチベーションシリーズの第2弾として、脳科学の教授と個人のモチベーションについて共同研究を行った成果を書けるといいなあと思っています。noteにまとめるのは、いつになるか分かりませんので、その前に気になる方は、遠慮なくご連絡下さい。

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