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フロアプライスコンプレックスという病

NFTプロジェクト、とりわけコレクタブルを運営する人たちにとって、フロアプライスが高いor上がっているのが優良プロジェクトで、低いor下がっているのは失敗プロジェクトである。というのが一つの暗黙の了解になっていると思います。正直、私も最初はそう思っていました。

私がこのnoteで言いたいのは、「そういった序列に大した意味はない」ということです。

前提として
・フロアプライスを指標にしている特定のプロジェクトを批判したいわけではありません。
・フロアプライスを高めることが適切になるビジネスモデルも存在すると考えています。

あくまで、全てのプロジェクトがフロアプライスという指標で一元的にランク付けされ、それによって運営やコミュニティが一喜一憂し、消耗している現状に対して一石を投じるのが目的です。すなわち「フロアプライスコンプレックス」を解消したいという想いがあります。

なぜフロアプライス?

フロアプライスとは、販売に出されているNFTの中で最も出品価格が低いもののことを言います。

なぜこの指標は、こんなにも重要視されているのでしょうか?

Twitterで意見を集め、出てきたものを要約するとこのようになりました。

・高級品に見えて自慢になる
・ホルダーが含み益を評価できる
・運営の二次流通収益が増える
・とにかく目立てる

どれももっともな意見にも思えます。しかし、プロジェクトの多様性であったり、現実の商品との比較のなかで議論を深めると、様々な疑問が残ります。

高級ブランドになれる?

ステータスを示すために高級なものを身につける。というのは世の中的に広く行われています。NFTにおいても同様に、高級なPFPはブランド化しています。

まず言いたいのは、そもそも全てのブランドが高級化する必要は全く無い、ということです。それぞれのコンセプトに応じた適切な価格帯があります。安いことがウリのブランドだってもちろんあります。何より、価格よりも世界観やコミュニティの方がよほど重要です。

次に、高級感を二次流通市場に頼るのはブランド側にとっても大変危険な試みです。世の中のブランドはほとんど全て、一次流通の価格設定によってブランド力を作り出しています。スーパーカーのフロアプライスを気にする人がいるでしょうか?いませんよね。

二次流通価格は本質的に運営にコントロール出来るものではありません。ここに依拠したブランド構築は、この小さいNFT市場においてはちょっとした事故で崩壊する危険と常に隣り合わせです。

ビルゲイツが気まぐれで、あなたのコレクションを二次流通で全て買い上げ、全て0.001ETHでリストすることを想像してください。これだけで崩壊する可能性があるのです。

含み益を評価できる?

まず前提として、

・ホルダー側の、自分のトークンの価値は上がって当然だ
・運営側の、ホルダーに含み益をもたらさなくてはいけない

といった考えに対して、ゼロペースで冷静になりましょう。

全てプロジェクトが、投資を求めるためにNFTを発行する必要はありません。

服やおもちゃのように「投資」ではなく「買い物」してもらうためにNFTを売ったり、クラファンとして「寄付」を募るために売ったりしても良いはずです。

そのような投資よりも消費要素の強いプロジェクトに対して、フロアプライスの話題ばかり持ち上げるのが正しい姿だとは思えません。(ここはホルダー側というより運営側のコミュニケーションが重要にはなるとは思います)

いや、このプロジェクトは投資を集めるためにNFTを扱っている。という場合にはどうでしょうか。

その場合も、フロアプライスより適切な指標があると思います(個別のNFTのオファー額など)。そもそも、売り板で評価するならFTで良いのでは?と思います。それぞれのトークンに個別性を出せるNFTの良さを自分で消す必要はありません。

また、流動性なきフロアプライスに資産性を見出すのは一般論としておすすめできません。

二次流通収益が増える?

これも大前提に立ち返るのですが、そもそもコレクタブル、とりわけ二次流通で莫大な収益を上げるのはこれから難しいというところから始めたいと思います。

その前に取り上げたい面白い事実として、楽天の上場直前の年間売上はたったの6億円程度(創業3年目)です。

ホリエモンさんによる当時の解説を参考にすると、それでも「当時の日本のネットサービスとして異常なほど売上があり、日本中が驚いた」と言っています。

新しい領域でのビジネスとは、そういうものなのです。特に黎明期において、コミュニティやクリエイティブをマネタイズすることは更に至難の業です。

2ちゃんねるの創業秘話も見てみましょう。

2ちゃんが勝ち残った理由を、「あらゆる掲示板サービスが収益化が全然出来なくて撤退していく中で、2ちゃんも儲かってなかったが、趣味のように2人で作っていたので運営を続けられた」と語っています。

なので、そもそも「収益が上がらないこと」に課題感を覚えなくて良いのではないでしょうか。

Web3はポンジができるので、Web2の黎明期より派手な金額が飛び交い、「自分も稼がなくてはいけない」という強迫に駆られてしまいますが、実際市場への参加人数は事業がスケール可能なボリュームではありません。

ここで、「沢山稼がねば」というモチベーションになってしまうと、無理な買い煽り、見せかけのフロアプライス向上施策などに繋がり、、最終的には多くの人が傷つくかと思います。

むしろ、今すぐ稼がないといけない理由を減らす。

・チーム人月を少なめにする
・趣味や副業だと割り切る
・クラファンや借入や株式など別の方法で調達する

などを行い、ヘルシーに長期で運営を続けられた方が、数年後には素晴らしいプロジェクトとして評価される可能性が高いと思います。

なので、二次流通収益へのこだわりを捨てて

・一次流通で連続的にマネタイズ
・NFT外でのマネタイズ
・そもそもマネタイズしなくて良いようにする

方が得策だと考えられます。

そもそもあのメルカリですら、10%も手数料を取らないと成り立たないのです。それくらい二次流通収益というのは期待できないものです。たった数千〜数万くらいの枚数のNFTの二次流通で稼ぐモデルに期待しない方が良いのでは無いのでしょうか。BAYCのようなモデルを夢見ている人もいるのかもしれませんが、あれは特定のタイミングだけで起こるアクシデントのようなものです。

とにかく目立てる?

正直これは紛れもない事実です。一番背に腹変えられない部分だと思います。私が自分でやっているVeryLongAnimalsというプロジェクトでも、フロアが高いから目立てているという側面は大きいです。

なので目立てること自体に特に反論はありませんが、ひとたびフロアプライスで目立つことに成功できたプロジェクトが、そのままフロアに頼り切った展開をこの先も続けるのは難しいでしょう。

このブロックチェーンの冬に、NFTのフロアプライスは、多少の揺れはあっても永遠に伸び続けることはありません。断言できます。

伸びない指標を追いかけると関係者が不幸になってしまいます。

また、フロアプライスは色んなやり方でハックできるので、フロアが高いことで目立てる期間もそろそろ終わりそうな予感がしています。

詳しくはこちらも↓

フロアプライスが重要視されている時系列的背景

フロアプライスが重視されるようになった背景についても、簡単にさらいます。

そもそも、NFTブームはブロックチェーン業界のトレンドがICO→(しばらく空白)→DeFi→NFTと移り変わる中で起きたものです。

ですので、元々ブロックチェーンに注目しているコミュニティは全体的に金融的なカルチャーが強く、そこにNFTを通じてエンターテイメント業界やクリエイターが合流した経緯となっています。

NFTのプロジェクトについても、有名ものの多くは投資商品としての魅力を強く兼ね備えており、それがDeFiから流れる金融リテラシーの高い(特にクリプトリッチな)層とフィットして今の市場があります。

そして高フロアのブルーチップPFPブームがOpenSea経済圏を中心に巻き起こり、OpenSeaもまたランキングなどで恣意的にそういったPFPを持ち上げる価値観を形成していき、今に至ります。

時系列で考えると、フロアプライス偏重のここ1〜2年のブームがかなりの局所最適ではないかということが分かりますね。

今後どうなると良いのか?

お金の話よりも「楽しい」あるいは「便利」を追求する時期に入ると考えています。

そのような消費的な需要があって初めて投資的な市場も成り立つはずで、その方がよっぽど健全です。

といっても、しばらくの間「便利」なものはかなり作るのが難しいと思われます。しばらくはなんか楽しいなーくらいのものが主流になるかと。

iPhoneが出たばかりの時におもちゃみたいなアプリばかりだったのと同じですね。

ここはけんすうさんのツイートが深かったのでシェアしておきます。

個人的には、"今の段階でのNFT"は「所有を感じられる」という認知がおもしろい、くらいのところで提供するのがいいと思っています。

言い換えると、今のNFT程度の利用率では、ユーザーに利便性を提供したり、何かの課題を解決する段階にはないんですね。

まだNFTをやっている人が少ない状態なので、もう提供できるのは「なんとなくの楽しさ」くらいだと思ったほうがいいのではないかなと。

最後に

〇〇年くらいかけてこういうことをやります!というプロジェクトがあって、2週間以内くらいで売り抜けたい人が沢山集まって、ミント後1日でフロアが下がって失敗扱いをされる。そして再起が難しくなる。

プロジェクト側はそれを恐れて、フロアを何とかするための工夫をする。

運営もコミュニティもフロアの話ばかりになって、殺風景になる。

その繰り返しのフロアプライスコンプレックスを抜けて、新しい体験を生み出すことに集中する方が1人でも増えると幸いです。

なお、VeryLongAnimalsではフロアに囚われやすくなるジェネラティブには拘らず、コツコツ一点物のコレクションで活動を続けてきました。長く続くプロジェクトにしたかったからです。今度新しいコレクションも(突然)出るので、ぜひ応援よろしくお願いします📣

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