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メロンコリーそして終りのない悲しみ

10月になってもだらだらと続いていた残暑が突然終焉。「あっそういえばもう秋じゃん!!」と地球も気がついたのかもしれない。先週26度だった気温は一気に13度に。半分である。50度の気温が突然25度になったら大事だ。ということで一気に秋めく世界についていくことができず弱冠取り残されている。

好きだった香水やさんがあった。フランスの歴史あるメゾンで格調高いデザインと品質で世界中で人気がある。わたしはそのブランドのどの香りも好きだったけど、なかでもローズとカシスの香りの香水が大好きで、爽やかで甘い香りは嗅ぐたびに夢心地に誘われた。

その香水やさんはわたしの家からちょっと離れたところにお店があって、そんなに頻繁に行くことはできなかったんだけど、お店の人がとにかくものすごく親切だった。そのブランドのことを本当に愛していて、ちょっと聞くだけで、ド素人のわたしにも詳しくわかりやすく教えてくれるし、世界が広がっていくようで、そのお店ごとブランドを大好きになった。

それがこの前、六本木で次の予定まで10分時間が空いたのでちょっと覗いてみようかしらと思って入ったお店で何気なく嗅いだ他ブランドの香水に、わたしは完全に脳を撃ち抜かれた気持ちになった。その、大好きだったローズとカシスの香水がさらに複雑になってモダンになったような香りだったのだ。その他ブランドというのはストックホルム生まれの新世代で、アーティスティックなアプローチで話題になっているらしい。その香りを嗅いだが最後、わたしはあっさりとフランスの老舗を捨ててストックホルム生まれの新世代に乗り換えた。そしてフランスの老舗には「古い」というイメージが生まれてしまうのを止めることができなかった。

フランスの老舗はがんばっているし、素晴らしいブランドだと思うし、今でも大好きだし、とくに直してほしいところも見当たらない。他にはない世界観を打ち出しているし、新しい試みもたくさんやっている。非の打ち所がない。それでもどうしても、一度離れた心を戻すことができない。

ブランドというのは酷なものだ。いちど成功したとしても、勝手な大衆は勝手に集まってきたと思えば突然そっぽを向く。嵐の海の荒波に揉まれるなかで、その大きな船体をメンテナンスしながら、優雅な顔で航海し続けなければならない。彼らに非はないし、わたしにも非はない。それが消費社会の持つ悲しい業というものなんだろう。いつか彼らが「ブランドを一新するなんとかキャンペーン」とか「画期的な新製品」とかを出したときにわたしの心が戻るのか、とか考えるとなんだかやりきれない気持ちになってくる。

秋になって寒くなってくると、理由もなく寂しい気持ちになる。今日わたしはそのフランスのブランドのオイルを間違って床にぶちまけてしまい、半分になったボトルを見て、なんだかものすごく寂しい気持ちになった。思春期になっておばあちゃんが編んでくれたセーターを嫌がるような、そういうたぐいの寂しさである。

画像はバーガーキングが出した肉の香りの香水。


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