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君が夢に出てくるたびに思うのは

あまりにも平坦な毎日が続くので自分が葦になったような気がしている。光合成をして栄養を得て風にそよぎ寿命が尽きて死ぬ。自分も18時に終業してパソコンを閉じたら冷蔵庫のハイボールを取り出し飲んで意識をなくしまた朝になって始業する。終業しても映像も見ないし音楽も聞かないし文章も読まない。葦は寿命が尽きたら死ぬ。葦は家賃がいらないが人間は家賃を払わなくてはならない。

でも自分が何かを産み出したいとも思わない。葦は交配するだろうが私は交配しないしこのまま個として死んでいく。そういう意味でいうと葦以下なんだろう。

今日、ドラッグストアに行ってトイレットペーパーとシャンプーとリンスの詰替を買った。トイレットペーパーは428円もした。高くない?めちゃくちゃ高くなっているのだがまあ安定して供給してもらえるのなら安いものだろう。帰り道、「ああ村上春樹の小説に出てくる主人公ってこんな感じだったな」と思う。何一つかわらないルーティンの上を歩いている毎日。

コロナの影響で、鮮やかな夢を見る人が増えたというニュースをBBCで見た。ストレスのせいらしい。私も見た。大正ロマンな街で、羽飾りのついたピスタチオグリーンのスーツに身を包み、パーティをする夢。

夢には君が出てくる。もう数年連絡を取っていない君が出てくる。先日の夢で私は君とパリ旅行に行くようだった。君はすごくパリ旅行を楽しみにしているが、私といえばトランクに全く荷物が入り切らないので飛行機を逃したけれど次の便に間に合うはずだと焦っていた。

次の日の夢では、君と私は一緒にレストランを経営していた。私も君もすごく一生懸命働いていた。

君が夢に出てくるたびに思うのは、

もう私と君は夢のなかでしか会えない

んだなということだ。

LINEをしたらいつでも会えるだろう。

「元気?」

「元気だよ、ひさしぶりじゃん」

みたいな会話が繰り広げられて、結局また楽しい時間を過ごすんだろう。

でももう、君とは夢の中でしか会えない、永遠に

これは仕方のないことで、そう決められているんだからしょうがない。決めたのは私だけれど、そのルールを破るつもりはない。いくら君に会いたくて仕方がなくっても。

夢の中では、君はわたしに笑いかけてくる。

正直に言うと、君がいなくなってから、私の世界は色を失ってしまった。美味しいものを食べても、「美味しいな」と思うだけだ。君がそばにいると、まるで天国にいるような心地だった。美味しいものを食べて、幸福感を感じるようなことはなかった。

すべてのものは君がいたから美しかった

わたしは君を失ってから、それを認めざるを得ない。君がいなくなってから関係が近くなった人に関して、わたしは「この人私のこと好きなの?本当に好きなの?いや全然好きじゃないでしょう」と気にばかりしていた。

君といるときはそんなこと考えもしなかった。君がいるだけでよかったから。君が私を好きだろうが、嫌いだろうが、憎んでいようがどうだろうが、私は君が存在しているだけで幸せだった。君が此の世に存在しているということだけ、それだけで幸せだった。

めちゃくちゃに喧嘩をしたこともあった。その時も、君のことが好きで好きでたまらなかった。それで勝手に腹が立つことがあまりにもいっぱいありすぎて、自分の中で処理できなかった。君以外に対して、もう怒ることは何もない。ただ平坦な毎日が続いている。

君のいたときは緑が輝いて見えたし、君がこの世界中のどこかにいるということだけで世界がきらきらしてみえた。君はいま私のそばにいないけど、どこかにいるというだけで充分だった。

君を失ってから、あるいは私から立ち去ってから、何を食べても何の味もしないし、景色はただそこにあるだけだった。正確にいうと、ナポリタンを食べればナポリタンの味がするし、木があれば「木があるな」と思う、その状態に戻っただけで、本当に何も味がしないし何も見えないというわけではないけれど。

君がいなくなってから、サイボーグに共感を持つようになった。上から来る司令をこなす、そして今日は終了です、ありがとうございました。そこに感情はなにもない。

君がいると、感情が乱れて仕方がなかった。制御しようとしても、何も制御できなかった。君がいるというだけで、全てのパラーメタがおかしくなり、そしてまた君が戻ってくるというだけで全てのパラメータは上昇加減で元気になるのだった。

その理論でいうと、わたしはきみの存在を感じることで、また人間的な感情が戻ってくるのだろう。

連絡をすれば会えるかもしれない、その誘惑はたまに襲ってくる。でも私はそのたびに悪魔に打ち勝つ。

わたしと君は会ってはいけないのだ、永遠に

君はもうとっくに私のことを忘れているだろう。でも私の中には、永遠に消えない傷として残っている。本当に、死ぬまで消えない傷として。

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