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愛する人が存在しないことが一番つらい「キャットフィッシュ」

Huluで、「キャットフィッシュ ~リアルレポート ネット恋愛の落とし穴~」というドキュメンタリー番組が配信されている。これがめちゃくちゃおもしろい。アメリカ・MTVの番組だ。

番組では、ネット恋愛をしている人から「ネットがきっかけで恋愛関係になったけど、一度も会ったことがないあの人に会いたい」という連絡をもらって、その人のもとに急行し、今の状況を聞きだす。そしてネット恋愛の相手にコンタクトをして、直接会いにいく。そこで見るのは、いつだって驚きの光景である。

ネット恋愛で出会ったきっかけは概ねFacebook。見知らぬ人となんとなく話を初めて、何でも話し合える関係になり、次第に恋に落ちていく。相談者はミシガンとかテキサスとかのド田舎に住んでいて、体型もややぽっちゃり気味。一方、恋の相手はロサンゼルスやニューヨークの大都会で「モデル」をしていたり、「ミュージシャン」をしていたりする。そして、「仕事が忙しくて会えない」と言ったり、「パソコンのビデオが壊れている」と言ってビデオチャットを断る。電話すらしてくれない相手もいる。

アメリカは広大だ。同じ国に住んでいても、飛行機に乗らないと会いに行くことができないので、みな最初から会うことを諦め気味。一度も会ったことがないのに、相手の発言の根拠も考えずに、関係をガンガン進めていく。熱烈な恋のメッセージを交わし、結婚の約束や婚約をしている人も多い。ときにはそれが、性別を偽った相手でも...

第三者から見ると「どう考えても騙されてる」と簡単に思えるケースでも、相談者の表情は深刻だ。相手がその場しのぎにつくウソをきちんと信じて、「そんなはずはない」と言う。相手が美男美女で「モデルをやっている」と言うケースはほぼ100%ウソ。実際に会いに行ってみると、ロサンゼルスでモデルをやっているはずだった相手が、名前も偽名で、写真は他人がFacebookにあげていた写真を盗んで使ったもので、相談者と同じくど田舎に住んでいるぽっちゃり気味の男女だったりする。つらいケースでは、相談者に恨みを持つ誰かが、故意に貶めるために作った架空の人物だったりする。

そうしたウソが発覚したときに、調査を依頼した本人が一番傷つくのは、相手が期待した美男美女でないとか、モデルじゃないとか、そういうことじゃない。自分が愛した人が存在しないという事実を突きつけられることだ。メッセージのやりとりをしていた本人は実在するし、見た目がちょっと(かなり)違うだけ。関係性は維持しようと思えばできる。また、番組では相手がなりすましていた「モデル」と依頼者が連絡が取れるようにしてくれたのだが、それでも関係は進展しなかった。「騙しててごめんなさい。でも、中身はわたしよ?」と言われても、「愛した人が存在しない」ということが何よりもつらい。

誰かを好きになるというのは、そういうことなんだと思う。好きになるには理由がいらないというけれど、「愛する人と同じ中身」を持った「全く違う人」を、同じように愛することはできない。この世にたった一人だけのキャラクターというものが存在して、その「人」に恋をする。それは隣の家の幼馴染でも、テレビの中のアイドルでも、二次元のキャラクターでも全く同じこと。取替がきくものではないのだ。

この番組の製作者・出演者である俳優のニーヴ・シュルマンは、もともと同じようにネット恋愛で騙された経験がある。Facebookで出会ったモデルの美女とネットで熱烈な恋に落ちたのだけど、実際に会いに行ってみたら似ても似つかない、ぽっちゃり気味の主婦だった。そこでニーヴが一風変わっていたのは、怒るのではなく「どうしてこんなことをしたの?」と聞き、相手と友人になったのだ。その一部始終が兄によってドキュメンタリー映画化されて大ヒット。映画のタイトルである「キャットフィッシュ(ナマズ)」がネットのなりすましを表す流行語にまでなった。

だから番組においても、ニーヴは相談者の気持ちが痛いほどわかるので徹底的に相談者に寄りそうし、たとえ騙した相手だったとしても、絶対に責めることはない。みんな寂しくて、自分に自信がなくて、それでもネット上では華やかな世界が繰り広げられていて、あまりに広大な土地でアイデンティティを見失ってしまう。あこがれの自分になるために、軽い気持ちでなりすましをして、浅はかなウソをついて相手を傷つける。悪気はないし、誰かを傷つけるつもりもなかった。ちょっとの出来心が、いつのまにか大ごとになっているというだけだった。

それで、どうして絶対に会ってくれなかった相手が、この番組では実際にあってくれて、しかも顔出しまでしているのかというと...町山さんが語っていたそうなので、ご興味のある方は読んでみてください→こちら


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