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男性育休の義務化について思うこと

男性の育休が義務化されようとしていますので、この件について、経営学者として感じていることを。

希望者だけならともかく、本人が拒否しない限りは強制的に1ヶ月程度の休業期間を与えるという「義務化」には、やはりそれなりに反対意見があるようです。反対の理由の多くは、家庭サイドからは育休だけとってもその後の生活が元通りなら意味がない、休むだけで家事育児をしないのならば却って迷惑、職場サイドからは業務が回らなくなるというものでしょうか。どれもあるあるな感じです。

でも私個人は、この法案には賛成です。

いろいろ無理があるのも事実ですが、私は両立問題の構造的原因は伝統的なジェンダー意識だと思っていまして、それが変わらないと問題が解決しないと思っています。そしてこの法案は、その意識に対してメスを入れる可能性があるからです。

ただ同時に注意しなくてはいけないな、と思っていることがありまして、それはこの法案が「男性の女性化」を推進するものにしてはいけないということです。

日本は、似た過ちを過去にやっています。男女雇用機会均等法、いわゆる均等法は、女性を男性並みに働かせることを前提としていたため、男性化できない女性が離職するという結果になりました。もし今回の男性育休法案が、男性も女性並みの家事育児をすることを目的にしてしまうならば、近い将来、同じ選択を男性に迫り、女性化できない多くの男性が家庭から再び離脱することになるでしょう。それでは男性も女性も幸せにならないなと思います。

男性が育休をとることの価値は何か?というと、それは、職場や家庭の在り方を変えることだと思っています。もう少し具体的に言うと、男性の育休は、職場と家庭の業務可視化と効率化を目的として実施されることを望んでいます。

職場でいえば、その人がしばらく出勤しなくても回る業務の進め方を考えざるを得ません。属人的な業務内容の可視化を進めることで、効率化の素地ができます。10か月も前から不在にすることが分かるのですから、準備期間としては十分といえるでしょう。

家庭においても、女性が一人で家事育児を担うことが前提になっていると、家事が属人的かつブラックボックス化してしまいます。ただでさえ他国に比べて日本は家事の要求品質が高すぎるので、同じことを男性に要求するのはちょっとハードルが高すぎると私は思っています。男性が家事育児に関与することでその属人的なやり方から脱却し、可視化と効率化を進めるきっかけになって欲しいですね。家事はもっと手抜きしても大丈夫だね、というコンセンサスを作ってほしいです。とはいえ新しいやり方を編み出し、慣れるには時間がかかります。ですので男性の育休期間中は、この「家事育児の新しいやり方を編み出し、慣れる」ことを目的とするといいと思いますし、育休後に夫婦で担うことを前提とした効率的なオペレーションにシフトできるならば、チーム育児のスタートラインとしては理想的だとも思います。

最初はそれなりにコンフリクトが起きると思いますし、そういう混乱期(Storming)を経ないとチームになれないのも事実です(解説は「働く女子のキャリア格差」6章にあります)。実際うちの夫が育休をとったときも最初はぶつかりましたが、育児のスタートダッシュが揃ったことの効果は大きく、いまや育児チームとしては最強のメンバーです。そんなやり方は雑すぎる、自分の好みとはちょっと違うな~と思っても、「これは我が家や社会の文化を変えるための第一歩なのだ」という高い視点を持ってみてはいかがでしょう。

いずれにせよ専業主婦世代の男性たちが役職定年になり、育休をとった男性たちが管理職になり、そして育休男子に育てられたこどもが就職する頃には、日本の育児の風景はガラリと変わっているだろうと思います。その契機となってくれる男性育休義務化に私は期待しています。

個人としても、夫と二人で過ごした育児の時間は、夫婦にとって宝物になっています。出産直後の家事育児ブートキャンプ(育休)のおかげで夫は娘の扱いに慣れたようで、今もよく娘の相手をしてくれますし、そんなパパが娘はとっても好きなようです。

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