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[秋帽子文庫]蔵書より_物語を運ぶイキモノたち

今日は雨。傘を差して歩いていたら、コンビニの駐車場脇に、かわいいキツネたちの像があるのを発見しました。
元々は、近くの公園に隣接する遊歩道上に設置されていたものが、移設されたようです。遊歩道のタイルには二匹のキツネの物語が描かれています。どうやら、地元(田無市、向台町)の伝承に基づく作品らしいです。都心への通勤を止め、文庫を開設してまだ二週間弱。これからもいろいろと発見がありそうです。秋帽子です。

さて、銅像やタイルのようなブツ、つまりオブジェによって物語を伝える作品については、当文庫にも逸品があります。
馴鹿(Jun-Roku)さんの『ともし火パトロール隊 と 脳立栗鼠記憶・記録図書館』です。文字とイラストが名刺大の24枚のカードに印刷され、小箱に収められています。
元々は、個展会場や雑貨店などで展示・販売された、木と金属によるオブジェ作品のシリーズがあり、本カードはその派生作品という位置づけになります。
単なるオマケや販促グッズと言うには、あまりに完成度が高く、これだけでも十分、見た人を幸せにさせてくれます。このため、書籍に類する「印刷された作品」として、当文庫で所蔵することにしました。

物語の前半部分は、人の胸の内でポッと灯る「ともし火」を維持管理している、リスのパトロール隊を描いています。心の中で生まれるささやかな思いを、暖かく光輝くランプに仕立てて、胸の内にともします。
後半は、大切な「ともし火」を永久保存する脳内図書館のお話です。パトロール隊が回収した記憶は、クルミの殻にくるまれて、大切に保管庫にしまわれます。ドングリのレコードに記憶を吹き込む録音係の作業台では、コーヒーを淹れる電気ポットが湯気を立てているようです(当文庫の業務風景にもそっくりです!)。
パトロール隊と図書館員の制服の違い(ドングリベレーがかわいい!)や、作業場に置かれたおやつがランプの熱でちょっと溶けている様子など、木と金属のオブジェに込められた豊かなディティール(妄想ともいう)が、見事に小さな紙の上に描き出され、何度でも味わえる楽しい絵本のようになっています。
さらに、名刺大のカードという媒体が、「胸の内」や「脳内」で働く小さなリスたちの世界とうまくマッチしていて、小品ながら、設計上も完成度の高い作品です。枠は小さいですが、文章はみっちり書きこまれていますので、その一端をご紹介しましょう。

---以下、引用---
「や!あのともし火は消えそうだ!」
双眼鏡を覗き、
消えそうなランプを見つけて
得意げに立ち上がる
パトロール隊員の尾っぽ。
高いところはハシゴを使い、
届かなければマジックハンドで。
作りたてのピカピカのランプに交換です。
---引用終わり---

どうです?働き者の小動物が生き生きと躍動する感じが、一枚のカードの上で見事に描き出されていますよね。

作者の馴鹿さんは、木と金属を組み合わせ、様々なイキモノを造形する作家です。オブジェの他、イヤリングなどのアクセサリーも制作されています。
過去に恵比寿で開かれた個展では、「パトロール隊」や「図書館」のリスたちにつき、ご本人から、直接解説をうかがいました。名前と異なり、トナカイのように大きな角が生えているわけではなく、「自分の作品たちが可愛くて仕方がない」「作品に込められたたくさんのアイディア(妄想ともいう)を語りだしたら止まらない」という姿が印象的でした。
ちなみに、私のお気に入りは、ビーバーの帽子屋さんのオブジェです。個展で展示品を拝見したのみで、残念ながら販売はされていなかったのですが、秋帽子文庫のマスコットとして、是非ともお迎えしたい大傑作(これもストーリー説明がついていました)。イベント開催が正常化し、オーダーメイドが再開された暁にはいずれ…と機会をうかがっているところです。

2020年5月19日
秋帽子

〔所蔵品情報〕美術工芸、カード、イベント限定
作者:馴鹿(Jun-Roku)
ISBN番号なし
2018年

30周年で六角形に!?深まる秘密が謎を呼びます。秋帽子です。A hexagon for the 30th anniversary! A deepening secret calls for a mystery. Thank you for your kindness.