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ヨーロッパサッカークラブ経営100日の全記録

2月7日にACA Football Partners(以下、ACAFP)がKMSKデインズのオーナーになってから100日が過ぎました。所謂、企業買収におけるPMI(Post Merger Integration)の1つの目安となる100日間が過ぎ、クラブとしても2021-22シーズンが終了し、来期に向けた準備を着々と進めている所です。

5月19日にベルギーリーグ初の日本人監督である白石尚久さんの監督就任の発表をさせていただきました。我々の目指すフットボールをピッチ上で体現するのに最も適した人だと考えて人選した結果、多くの反響をいただくことができました。

5月が終わり、6月から新チームがスタートするという区切りと、ACAFPのPMI100日間の区切りが重なったのは偶然ですが、今までの振り返りをするにはちょうど良い時期だと考えます。

私個人としては、2月から取締役兼CSO、並びに暫定CEOとしてクラブ経営の舵取りを担ってまいりました。前回のnoteで書いていますが、本格的な買収交渉開始からノンストップで駆け抜けた8か月は、今までの私が経験したどの仕事とも質・量ともに段違いの未知の世界へ足を踏み入れた感覚で、人生のなかで最も濃度の高い時間を過ごしたと断言できます。

もっとも、濃度が高すぎて2月に一度、ベッドに倒れ込んで体が動かなくなる状態まで体力的に追い詰められたりもしました。SNSやnoteを更新する暇もないくらい、家に帰ったらそのままベッドに倒れ込むような日々を送ってきましたが、どんな困難に直面しても真正面から受け止めて、這ってでも前に進み続けてきました。

ここで起こった出来事をしっかりとお伝えすることも、我々のプロジェクトの使命であるとも考えておりますので、この100日間のリアルをお伝えしたいと思います。

今までの足跡

ここまでの足跡

2月:

  • 正式なオーナーとなる

  • 地元のスポンサーへのお披露目パーティ

  • 記者会見

  • 新スポーツダイレクター アドリアン・エスパラガ氏の就任

  • Digital Entertainment Asset社様とのパートナーシップ締結

3月:

  • インタビュー動画公開

  • 新スカウトチーム発足

4月:

  • DEA社とDeinze市との共同会見

  • 2021-22シーズンを4位で終了

  • HC、テクニカルスタッフとの契約満了を発表

5月:

  • 新アカデミーダイレクター ウォルター・アーツ氏の就任

  • 新CEO セルジ・ビーレンス氏の就任

  • 白石尚久氏の監督就任・新体制の発表

  • サポーターズクラブとのMTG

怒涛の幕開け

新オーナーとなった際の滑り出しで、記者会見、並びに地元スポンサー様方へのご挨拶は盛況の中で実施できました。我々は“グローカル”を合言葉に、地元の方々への貢献を第一に考えたクラブ経営を目指しています。
その第一歩目となる記者会見と地元スポンサー様へのご挨拶の場では、ACAFP・CEOの小野寛幸からACAFPの紹介と今後の事業構想についての説明を実施し、地元メディアでも大きく取り上げいただけました。

PMIの取組についてはツイートを参照ください。

PMIの最初に重要なことは、とにかく現場に物理的に行って、既存社員と椅子を並べて仕事し、全員と面談し、組織図を作成し、全員の連絡先を把握することです。誰かを間に挟んでしかコミュニケーションが取れない状態は、情報の不均衡や情報操作を生んでしまいます。自分たちの言葉をそのままの形で直接全員に一斉に届けられる体制をいち早く構築すること。最初の2週間はここに全精力を傾けました。

その一方で、もう一つ重要なのが会計システムと銀行システムを押さえる事です。会計システムの承認権限と銀行の支払い権限をいち早くこちら側に変更することと、現状の財務状況をいかに早く把握し、キャッシュフローを把握できるようにするかが肝要です。

それと同時に、新SDの発表と、スカウトチームの結成、選手評価の開始など、サッカー事業側の調査を進めつつ、DEA社との戦略的パートーナシップの締結など、グローバルでの事業戦略も同時並行で進めていきます。ポジティブな変化をなるべく定期的に発信できるように、新しい動きを加えていきました。


ACAFPはこういった業務を遂行するプロフェッショナルが集まった集団です。CEOである小野を筆頭に投資と事業構築を進め、フットボールのリストラクチャリングを白石が推進、飯塚がクラブ経営サイドを掌握するというチームプレーにより、素早く確実にクラブ経営の実態をつかみ、内部の調査を進めていきました。

見えてきた内部状況

3月に入ると、グローバルのコミュニケーションのプロフェッショナルとして金子侑が参加し、クラブ・事業の発信能力の補強も進みました。まず、我々がどういった考え方を持っているのか、個別のインタビュー記事を掲載しました。

一方で、2か月が経ってきたところで、クラブ内部の力関係や力学も把握できるようになり、シーズン終了後の我々の経営方針についての議論を深めていった時期にもなります。

混乱を乗り越える

シーズン終了近くになってくると、現在のチームやスタッフたちが来シーズンどうなるのか?という不安が伝播するようにクラブ内に広がって行きました。

見るからに落ち込んで元気がなくなるスタッフも出始める中で、改めて一人一人と面談を実施し、不安に思っている事を丁寧にヒアリングしていきました。先々の不安を抱えているスタッフに対し、プレシーズンの予定をシーズン終了と共に直接メッセージとして連絡し、5月に我々の経営方針を説明する事を確約することで、クラブ内に広がった不安感を落ち着ける事ができました。

グローバルでは、DEA社様のクラブへの訪問が実現し、DEA社様ならびにデインズ市による共同記者会見を実施しました。これはACAFPのCEOである小野のネットワークと事業構想から実現したものであり、我々の目指す“フットボール3.0”を構築する最初にして大きな一歩となります。

一方で、2021-22シーズンの振り替えりをビジネスサイドでは行い、現状の財務状況と着地見込み、過年度の観客動員、SNSの状況、スタジアム運営の反省点を全体で議論しました。ACAFPのValueに掲げる透明性のある経営の実践の第一歩となりました。

ACAFPのMVV

100日間の集大成

5月の最も大きなハイライトはやはり、ベルギーリーグ初の日本人監督となる白石尚久氏の監督就任発表となります。

この発表に至るまで、情報管理と関係各所への事前説明など、かなり労力がかかりました。日本向けにはオンラインにて会見を実施し、主要サッカーメディアや大手メディア含め20メディアほど参加いただくことができました。

日本での反響は大きく、Goal.com様のTwitterでは「いいね!1687件、引用リツイート52件、リツイート262件」と大きな反応を得ることができました。Yahooニュース様でも8記事が取り上げられ、コメント欄含めポジティブな内容が大半を占めました。ここからわかるように、日本サッカーにおける欧州主要リーグでの日本人監督というのは待ち望まれていたものであり、期待の大きさを感じます。より一層、ここで結果を勝ち取る事への活力が沸き起こってきました。

Yahooニュースで取り上げられた記事の一部

一方で、地元ベルギーの反応は予想通り様々な感情が入り乱れました。Facebookのポストは直近で最もエンゲージメントが高いものとなりましたが、その反応の中には新オーナーとクラブの決定に対して懐疑的であるというメッセージや皮肉も含まれるものでした。

Facebook post

クラブ経営者として向合わなければならないのは“説明責任”を果たす事です。「国際経験」「最先端のサッカー知識」「ACAFPの哲学をピッチ上で実現する力」のもっともある人物が白石尚久氏である、という理由から今回の監督を選出いたしました。その背景を地元メディアを通じてしっかりと説明し、内部スタッフやクラブのステークホルダーの方々には、クラブの進むべき5年計画と来期の事業戦略について丁寧に説明しています。
その一つとして実施したのが、サポーターズクラブとのMTGです。


今までのクラブの歴史96年の中で、サポーターズクラブの代表とクラブ経営者が公式に会合を持ったのは初であるとお話をいただきました。今後も定期的な情報交換の場を設定することで合意できたことは大きな第一歩です。「最初はどんなことでもチャンスを与えるべき」とサポーター代表の方々からの言葉もいただき、我々のやるべきことは結果で示す事と改めて決意が固くなりました。
1つ嬉しかったことは、この会合に同席した地元クラブスタッフの一人が、私に代わってクラブの変化や透明性・ガバナンスの効いた経営手法、クラブの将来計画について自分の言葉でサポーターに働きかけてくれたことでした。ちょっと泣きそうになりました。

ACAFPが目指すもの

我々が現在構築しようとしている事業は4つあります。

1.マルチクラブオーナーシップ
2.独自のOTTプラットフォームでの独自コンテンツの放映
3.Web3.0による新たなフットボールコミュニティのデジタルエコシステムの構築
4.フットボール分析を進化させるAI開発

ACAFPの4つの戦略

グローバルビジネスの観点では、サッカービジネスをメディアと再定義し、コンテンツの質と量を作るためのマルチクラブオーナーシップを構築します。そこで作られる独自コンテンツを全世界に届けるために、Web3.0とメタバースに繋がるデジタルコミュニティを作ることを計画しています。
そして、サッカービジネスの根幹であるフットボールの質を高めるために、マルチクラブオーナーシップによる選手育成環境の多様化、並びにデータ、ファクトに基づくスカウティングと戦術解析を進化させていきます。

2022-23のKMSKデインズ

新たに監督に就任した白石尚久氏を中心に、ベルギーリーグで戦っていくための基盤を作り上げるシーズンにしたいと考えています。我々のプロジェクトに賛同した優秀なテクニカルスタッフたちが世界中から集まっており、組織を強化しプロフェッショナル化を推進します。

1. U21チームを1stチームと活動できるようにし、ユースとトップチームの連携を強める
2. パフォーマンスアナリシスの部署を新設し、戦術分析を強化
3. ストレングス・コンディショニングの部署を新設し、選手のコンディショニングやケガからのリカバリーを早める科学を実践

KMSKデインズの新たなフットボール事業組織

ACAFPの目指すフットボールを実現し、ベルギーリーグで戦うための選手構成をスポーツダイレクターとスカウティングチームを中心に着々と準備を行っています。

我々のプロジェクトはこれから本当の始まりと戦いを迎えます。ヨーロッパを舞台にサッカービジネスを発展させ、世界と戦います。そこから、日本の皆様にも伝えられるものがあると思っていますし、ここで起こる出来事から日本・アジアサッカーの発展につながるヒントを提供できればと考えています。

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