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空想

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また横断歩道まで戻って

また横断歩道まで戻って

雨にもまけず
風にもまけず
土日でも
夜中でも営業できる丈夫な仲間を持ち
汚れは無く
お客の節度も良くて
いつも黄色く賑わっている

1日にコーヒー牛乳1本と
味噌とたくさんの納豆を食べ
川のほとりの住宅街の
誰でもふらっと入れるところに

壁には立派な富士山を描き
面白そうな本と
部屋に飾りたくなるようなお花を売り
扉は小さな映画館に繋がっている

東に病気の子どもあれば
足湯か手湯に浸けてやり

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喫茶銭湯メモワール

喫茶銭湯メモワール

古事記によると、四国というのは本州よりも先に誕生したとされている。
神話というのは"信じる"とか"信じない"とかではなくて、遠い昔から物語がきちんと受け継がれてきたという真実を、誇らしく感じるためにあるのだと思う。

「伊予の国を愛比売といひ」
明治に入って、日本で唯一古事記から名前をもらったのが愛媛県である。

愛媛県は松山というところで、私は大学の4年間を過ごした。
心地よい風のふく街だった。

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サマーカンバス

サマーカンバス

納涼床がオレンジ色に灯る。鴨川と空の白さは物語の終わりを告げるようで、ぼくらに向かって「青いですねえ」なんて笑っているようにも見える。これから最後のカット。夏というのはこんなにも、一瞬で過ぎ去っていくものであっただろうか。

302のCに移った。
「外が見えた方がいいでしょ」
ルミさんにそう言われて。彼女は今日もワンピースをふりふりさせている。最近入れたインナーカラーが気に入ったみたいで、心なしか

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檻の中から空を塗る、よりも

檻の中から空を塗る、よりも

山鉾巡行は今年も凄まじい盛り上がりを見せた。見物客で京がはち切れるかと思ったほどだ。毎年の群集で四条通そのものが広がっているのではなかろうか。このまま放っておいたらそのうち建物が立って、新たな道が誕生するやもしれぬ。その通りの名は一般募集で決められ、例えば「あんこ通」なんて甘ったるい名前が付いてみなさい。時すでに遅し。古都は甘味処に支配されてしまう。

まあ年中清流を飲んで暮らす私の知ったことでは

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走れアキラ

走れアキラ

アキラは激怒した。必ず、かの疫病なんかに負けず、試合に出場しなければならぬと決意した。アキラには大人の世界というものがわからぬ。外でプレーをするスポーツに、何の危険性があろうか。けれども部活動というものは、大学のルールを守らなくてはならない。当たり前である。

アキラは去った。他にやりたいことも見つかった。私のことを良く思わない人間も少なからずいたであろう。3年生の夏であった。

アキラは4年生に

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