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女と男 なぜわかりあえないのか

話題の新書、橘玲氏の『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)を読みました。同氏は『言ってはいけない』『2億円と専業主婦』などするどい論考で知られますが、本書もだれもが興味を持つ本源的なテーマに真正面から斬り込んだ作品だといえるでしょう。

「性の基本は女である」。この言葉からはじまる本書。受精卵を放っておいても女の子が誕生するが、たとえY染色体を持っていても男性ホルモンによって分化が起こらないと、男の子は誕生しない。ヒトのオスはメスに多様性を与える役割しかない「寄生虫」に過ぎないというのは、ある意味明快に両性の本質をついているかもしれません。

わずか30年くらい前まで、素人はともかく第一線の研究者の間でさえ、「女は小さな男」という誤った見方がされ、ほとんど観察対象とはされていなかった。偏った「男性中心主義」に反発する女性研究者によってさまざまな実験研究が重ねられ、ようやく「女は男のコピーではない」という科学的事実が証明されてきたといいます。



女と男をめぐっては、現在では「男女は同じでなければならない」という平等主義の考え方を中心に、実際には個体差の方がはるかに大きいから、性別だけで特徴を決めつけることはできないという相対主義的な考え方、男らしさ・女らしさは文化的・社会的につくられたとする「社会構築主義」の考え方などがあります。

これらの考え方は実際には学問的にも実社会的にも相当に複雑に入り交ざっているため、シンプルにひとつの考え方だけを採用することは難しいと思われますが、女と男をめぐる人生観や恋愛観、社会における選択行動などの「すれちがい」をリアルに読み解く中で、自然に世の中の傾向性を浮き彫りにしているところが、本書の大きな特徴だといえるでしょう。

もともと『週刊文春』への連載だったことからかなりポップな表現でサブカルチャー的に表現された要素が目立ちますが、現在の世相に横たわるタブーに挑むというスタンスが鮮明にされることで、どの項からでも好奇心に引っ張られて思わずのめり込んでしまう作品になっていると思います。



著者の結論。「男と女は生物学的にちがっているが、平等の権利を持っている」。さまざまな事象や論説を総合的にとらえる中で、どのベクトルにも過剰に肩入れしないスタンスが端的に表れた言葉として、とても説得的だと感じます。「平等の権利」の実現に向けて多様化の意味を再構築し、それぞれの立場で実践していくのが今の時代なのかもしれません。

男であること、女であることに誇りを持っている人はもちろん、性別(ジェンダー)をめぐる疑問や悩みに直面している人や、すでに多様性の表現として新たなスタイルで人生を送っている人にも、ぜひ一読してほしい本だと思います。切れ味に定評のある橘氏の言葉によって、何かの羅針盤をつかむことができることでしょう。



学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。