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宇多田ヒカル

宇多田ヒカルのライブに行ってきた。
HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024
初日7月13日(土)の公演に当選した。当たらないだろうと思って応募した。もちろん当たってほしいと心底思っていたけど、神も仏もあまり信じたことがない。今年から初詣も辞めたクチなので今さら神頼みもできない。自分の運を信じるしかなかった。(運には神も仏も関与していないよね?)

来たる3月12日。当落メールが送られてくる日。
朝からソワソワしながらメールを待っていた。というのは嘘で、当たらないだろうと思っていたので当落発表当日のことをすっかり忘れていた。(もういろいろこの時点でダメそう)

それなのに、、、当選のメールが来たのだ。来たのだ!!!

な  ん  で  っ  ! ?

当選メールを見て一番最初の言葉が”なんでっ!?”だった。本当に失礼すぎる。とても反省している。反省はしているが、どう考えても”なんでっ!?”すぎる。そしてあまりにも幸運な出来事すぎて、喜びを爆発させつつ静かに恐怖を感じていたのも事実。「人生最高の日」が来ちゃったことへの恐怖。いや待て、でも人生最高の日は当選メールを受け取った日ではなく、ライブ当日の7月13日のはず。まだ大丈夫。人生のピーク、もうちょい先。

当選メールを何度も確認して少し冷静さを取り戻したところで2名で応募していたことに気付く。当たらないと思いつつも、もしも、もしも当たったら、、、と考えたとき、1人で見に行ける自信がなかった。もう少し正確に言えば、夢のような現実を1人で受け止めて無事に帰ってこれる自信がなかった。もし1人で行ったら私は浮かれポンチのまま 福岡で「光」になって帰らぬ人となるかもしれなかった。だから少しでも冷静でいるために誰かが必要で、その誰かは絶対に私と同じ温度で宇多田ヒカルのことを愛している人がいいなと思った。そして結構すぐに候補者が浮かんで結構すぐに決まった。同行者とはこれまでも何度も宇多田ヒカルについて話したことがあって、好きなMVを見せてもらったこともあったし大事な時のテーマソングが宇多田ヒカルの「Give Me A Reason」だったりと、とても信頼できた。話を聞いていていつも わかる、と思った。
同行者も無事に決まり、これで私の運も半分は戻ってきたことになる。同行者の運を半分拝借。運の節約に成功。(その後 チケットのアップグレード抽選には無事落選し、やはり運の節約とかはないのかもしれないし こういう考えが落選の原因かもしれない)

そしてあっという間に7月13日を迎えて、いざ福岡へ。
福岡までは新幹線で向かった。乗り物の中で一番好きなのが新幹線。飲食自由だし座席は飛行機より広いし、面倒な荷物の検査もないからあれやこれやと中身や重さなんかを気にしなくていいところがいい。
移動中はもっぱら読書に没頭した。今回の旅のお供はAマッソ加納こと加納愛子の『イルカも泳ぐわい。』を選んだ。とても面白くて夢中になっているうちに気づいたら博多駅に到着していた。あと3時間くらい乗っていたいと思わせてくれる新幹線。やっぱり一番好きな乗り物で間違いないよ。ちなみに同行者もこれを機に本を読み始めたいというので私が愛してやまない又吉直樹の『東京百景』を貸した。又吉直樹の本を貸して、自分が読むのはAマッソ加納の本。そんなつもりなかったけど”芸人の書く本を読む人”になっている。否定はしないが訂正はしたい。芸人縛りで読書やってない。

さて、博多駅に降り立つともうすごい人だった。全員宇多田ヒカルを追いかけてきているのかもしれないと思った。(ライブ行く前あるある心境)
早速ホテルに荷物を置きに行くべく歩いていると、人通りの多い横断歩道を渡り切ったところで同行者が ”今の小峠だった”と言った。え!!!マジ!?全然気づかなかった〜と嘆いている私に、”すれ違った時に見えたホクロの位置で小峠に間違いなかったわ!”と言った。 

    え?、、、    刑事(デカ)やん。

その確証の持ち方はもうデカやん。こうなってくると小峠を見れなかったことよりも小峠のホクロの位置をなぜ把握しているのかが気になった。なんでも、自分も同じ位置にホクロがあるから、らしい。その後小峠の画像検索をして確認したけど確かに同じような位置にホクロがあった。私は顎にホクロがあるが自分以外に同じような位置にホクロがある人を1人も把握していない。そもそもいないのかもしれないがありがちな場所ではあるので気づいていないだけのような気もする。もっと人のホクロに注目して生きていこうと思った一件だった。(まじどうでもいい話)

そんなこんなでホテルに荷物を置いたらちょうどお昼だったのでランチへ。天ぷらと中華で悩んでとりあえずホテル近くの中華屋を覗いてみることに。私の福岡グルメといえば結構前から上書きされることなくずっと餃子の李である。まず中華が好きってこともあるし、李はマジでうまいし、店の雰囲気も好き。ちゃんと机が真っ赤でお皿がザ・中華で大人数用の円卓にはちゃんと回転するテーブルがついていて店内の飾りが中国っぽいのがとても良い。餃子と麻婆豆腐と小籠包と空芯菜の炒め物とエビチャーハンを食べた。頼みすぎたと思ったけどあまりの美味しさにしっかり完食。朝からずっと宇多田ヒカルの生歌を聴けるという話題で興奮しっぱなしだったけど、李の時間だけはライブのことを忘れるくらい「君(李)に夢中」だった。
この辺で気づき始めた人もいるかもしれないけど、この日記の中にさりげなく宇多田ヒカルの曲のタイトルを散りばめようと試みていた。
「人生最高の日」「光」「Give Me A Reason」「君に夢中」
君(李)に夢中、とか言い出したところで早くも限界を感じたので試み辞めます。(なんなら「光」になって〜のくだりも結構無理ある)

中華を食べ終えて、そこからまた近くのコーヒー屋へ歩いて移動。COFFEE COUNTYでしばしコーヒーブレイク。美味しいコーヒーを飲みながら何もせずにボーッとすることが旅で一番好きな時間。いつもとは違う場所でコーヒー片手に会話をしたり本を読んだりできればそれだけで十分楽しい旅行になる。”旅行好きだけど旅行下手”が なおらないのは、たぶんどこに行っても同じような過ごし方をするからかもしれない。
中華から至福のコーヒータイムを終えていよいよ会場に移動するべく店を出ようとした途端、狂ったように大雨。お店の方がとても優しくて、もう少し中で待たれた方が〜 と言ってくれたので再び着席。居心地の良い店内から眺める雨はとても美しかった。ずっと見ていられた。ずっと見ていたかった。このまま少しだけ時がとまってくれてもいいんだよ、と思っていた。

小雨になったところで時間も迫ってきていたので小走りで大通りまで出てタクシーに乗った。行き先を伝えるとタクシーの運転手さんが山笠でかなり渋滞していると教えてくれた。はは〜ん、今日はあの有名な山笠祭りだったのか。どうりでこの混みようなのね、と納得。まあ混んでいようがなんであろうが会場に行かないという選択肢はないので、渋滞でなかなか進まないタクシーの後部座席からのんびり雨を眺めながらこれから起こる、あと1時間ほどで迎える人生のピークについて思いを馳せた。

通常よりとても長い時間をかけて会場に到着。すごい人、人、人!!!事前にXで確認していた通りの人人人!!!事前にXで確認していた通りの宇多田ヒカルファンと稲葉浩志ファンとのコラボレーションごった返し状況!!!宇多田ヒカルのライブとB'zの稲葉浩志のライブと山笠を同日開催できる福岡の包容力すごすぎ問題!!!
とか諸々のことはさておき、開演時間ギリギリだったので綾鷹や伊藤忠商事からのお祝い花を確認して(急いでいる時にいらないワンシーン挟みがち)ササッとトイレを済ませて、広い会場ゆえ当然のように席探しに右往左往したのち無事に着席。
着席したあたりで心臓バクバク。会場全体を包んでいるいよいよ感。みんなも静かに興奮していることが空気を通して伝わってくる。これはもう、間違いなく 人生最高の日 じゃん。

過呼吸にならないために呼吸をするときは主に吐く方を意識。高校の部活で学んだ 唯一覚えていること。
宇多田ヒカルがステージにゆっくり歩いてきたとき、一生懸命息を吐いていた私。隣りで鳥肌立ちすぎてほぼ鶏だった同行者。
会場中から歓声が上がるなか聞こえてきた「time will tell」の前奏と宇多田ヒカルの歌声。
感動して立っているのがやっとだった。世界がスローモーションだった。いちばん聴きたいと思っていた曲が1曲目だった。こんな夢みたいなことが現実に起こるんだ と思ったら生きているって尊いなと思った。この瞬間の記憶が失われなければ これから先けっこうなツラい出来事があっても(そんなことはなければいいなと思っているけど)自分の足で踏ん張れるかもしれないという希望さえ感じた。大袈裟でもなんでもなく、そう思った。

斜め前にいた観客が4曲目の「In My Room」のイントロが流れ始めた瞬間、抱き合った。とても若い人たちに見えたけど1999年発売の1stアルバム『First Love』に入っている1曲。リアルタイムで聴いている世代ではなさそうだったけど、確かに宇多田ヒカルの音楽には”昔の曲” ”今の曲” という概念が存在しない。何かのインタビューで”新曲(音楽)を聞くこと”に関する質問に宇多田ヒカル自身が「その人が聞いたその時が その人にとっての新曲であって、だから音楽を聞くときにその曲がいつリリースされたものなのかは気にしたことがない」(というようなニュアンスだったはず)と答えていた。宇多田ヒカルの音楽が”古く”ならない理由が少しだけわかった気がした。そして会場で抱き合った姿を見て、「In My Room」は彼女たちにとって”新曲”なんだなと思った。(とても印象的なシーンだったのでその後Spotifyで『イントロで抱き合う』というタイトルのセトリプレイリストを作った)

これまで生きてきてこんなあっという間に過ぎた2時間は初めてだった。宇多田ヒカルのパフォーマンス以外にも、バンドメンバーが楽しそうに音に乗っている姿や映像演出など どこをとっても素晴らしくて終始目が忙しかった。アンコールの「Automatic」と「Electricity」を含む全23曲を歌い終えた宇多田ヒカルはステージから消えていった。会場の明かりがつくと同時に夢から覚めたような寂しさがあった。でも、とても心地良い寂しさだった。

楽しいだけとかって
たぶんもうなくて
楽しいたびにすこしせつない

『肌に流れる透明な気持ち』伊藤 紺

追伸。
ライブ後は、タクシーで来た道をのんびり歩いて帰った。余韻に浸りながら山笠の熱気がまだ少し漂っている街を散歩した。途中、焼き鳥屋で飲んだ。串にネジネジ巻きで焼かれた鶏皮とささみのしぎ焼きの美味しさに唸りながら伊藤紺さんの短歌を思い出してちょっとだけ泣きそうになった。焼き鳥屋を出たらまた雨が降ってきた。同行者が宇多田ヒカルと雨はよく似合うと言っていた。宇多田ヒカルは雨の歌がけっこうあるし、雨をネガティブに歌わない、と。わかる、すごくわかる。


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