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外国語を学ぶ人が絶対にやるべきこと〜語学は質より量である

はじめに:「どうすれば外国語ができるようになりますか?」

こんにちは。翻訳家の平野暁人と申します。12時開店なのに15時には売り切れる仁義なきタルト屋さんで激戦を勝ち抜き入手した季節のフルーツタルトを頬張りながらこのテクストを書いています。もぐもぐ。

今日は前回(勝手に)掲げた公約に則り、さらっと読める軽やかなエッセイを書いてみようと思います。ということで今回のテーマはずばり、語学学習です。もぐ。

通訳や翻訳を生業にしていると、よく「どうすれば外国語ができるようになりますか」という質問を受けます。書店の外国語コーナーには最強の学習法を謳う学習書があふれていますが、選択肢が多すぎて逆にわからない。ほんと、語学産業は「決定版!」「革命!」みたいな惹句の本が延々と量産され続ける業界の代表格だと思います。あ、あとダイエット界。あれはもはや魔界。禁断の金脈。

全ての外国語学習者に告ぐ

さて、それではさっそく、外国語を学ぶすべてのみなさん必見、必須の学習法をお教えしましょう。

それは!

なにかというと!!

たくさん勉強することです!!!

……あっ!

いま、ちょっと怒りました?「は?」って思いましたね? 違うんです。落ち着いて聞いて下さい。外国語学習を始めたばかりの人が確実に、効果的に力を伸ばすためには、まずはとにかく「量」を、しかも猛烈な量をこなすことが肝腎なんです。

そう、ほとんどの外国語初学者にとって大切なのは、実は「質より量」なのです!

「質の高い学習法」とはなにか

「質より量? 逆じゃない? 質の高い学習法で効率よく伸ばすのが教科を問わず鉄則でしょ?」 と思った人もいるかもしれません。それは確かにその通りです。

でも、そもそもすべての初学者に共通の「質の高い学習法」ってなんでしょう。 文法ドリルを繰り返しやる? 単語を詰め込めるだけ詰め込んで語彙を増やす? 修行僧のようにテクストを音読し続ける?

いま上に挙げた方法は、すべて正解で、すべて不正解です。なぜなら、何が効果的かは学習者一人ひとりにとって違うからです。文法知識を確実に積み重ねて進めたほうがいい人もいれば、とりあえず単語量が増えると達成感とモチベーションが高まる人もいるし、たくさん音に触れたほうが頭に入りやすい人もいる。つまり、「質の高い学習法=学習者ひとりひとりの適性に合致した学習法」なのです。

あ、また当たり前のこと言った……。

自分の適性を知るには

ここまで読んで「え、でもそれならなおさら、自分の適性に合った学習法をみつけだして、量より質で勉強するべきでは?」と困惑しているそこのあなた。そうです、それもその通りです。ただ問題はですねーーー

どんな方法が自分に合っているかは(ほとんどの場合)そう簡単にはわからない

ということなんです。

もちろん例外もあります。たとえば身近(家族や親しい友人など)に外国語学習の専門家がいれば、カウンセリングをお願いし、自分の性質に合わせてカスタマイズされた学習法を速やかに判別することができる可能性は高いでしょう。

あるいは、学校や塾でたまたま優れた指導者に恵まれ、最短距離で自分の適性を知ることができる人もいるかもしれません。

ただ、とりわけ学校のように大人数の学習者を同時に、公平に指導する環境では最大公約数にとって無難な方法を優先的に採用しますから、きめ細かい個別指導を受けて適性を自覚し、力を伸ばせる人は決して多くないのが現実だと思います。

量で質を担保するという発想

ここまで読んで「適性を知るのが難しいのはわかった。でもそれなら何もそんなに量をこなさなくても、なるべく色々な学習法をバランスよく試してみればよいだけでは?」と思った人も多いのではないでしょうか。き、きっと多いはずです(やや弱気)。

実は、この発想は多くの人が陥りがちな罠です。

いえ、環境さえ許せばさまざまな学習法を試すに越したことはない、という考え自体は間違ってはいないのですが、それだけでたちまち適性が判明する(=学力の伸びが明らかに加速する)のはごく一部の「卓越したセンスの持ち主」だけ。よく「外国語学習は音楽の練習と似ている」といわれますが、外国語学習には音楽と同じように生来の「センス」に左右される部分が確かにあるのでして、たいていの学習者はちょっとやそっと試したくらいでは結果は出ない(=自分で実感できるほどできるようにならない)のです。

ほら、よくいるでしょう。「できる〇〇語」「これならわかる〇〇語」「ゼロからスタート〇〇語」などなど、気づくと書棚がいろんなタイプの入門書の見本市みたいになってしまっている人。もしかしたら、これを読んでくださっている方のなかにも……? せっかく選択肢がたくさんあっても、ひとつひとつを徹底的に試してみないのでは成果も出ようがありません

それに、みんながみんなあれこれ試せるほど豊かな選択肢に恵まれているわけでもありません。ネイティヴからじかに習ってみたくても都市部に住んでいなければ難しい場合もあるでしょうし、いろいろな本や配信教材を購入して勉強してみたくても経済的に厳しいという人もいるでしょう。同居人がいる、壁が薄いなどの理由で好きな時間に思い切り音読することができない人もいるかもしれません(前段で「環境さえ許せば」と書いたのはそういう意味です)。

というわけで、外国語を始めたばかりの人にまず必要なのは、どんな学習方法でもよいので、あまり悩まずになにかひとつ選んで、とりあえず徹底的に量をこなすこと、つまり「質より量」なのです。

ちなみに、どれくらいが「徹底的な量」にあたるのか、それ自体にも個人差があるので一概にはいえないのですが、ものすごく乱暴な言い方をすると(こんなに勉強したら逆に頭がおかしくなるのでは)という不安が脳裏をかすめるくらいの量を(こんなに続けていたら外国語が上達する日を迎える前にお迎えがくるのでは)という危機感を抱くくらいの期間にわたって続けるといいです。

……あっ。

いま、またすごく怒っている人がいる気配を感じました。が、きっと気のせいなので続けます(めずらしく強気)。

別にこれは1日10時間やれ、とかそういう意味ではないんです。そもそもみなさん仕事やら学校やら子育てやら大事なことが他にもたくさんあるわけですから、あくまでも「いまの自分にとっての現実的な限界」に挑むことが重要です。そして、胸を張って「限界と闘った!」といえるほどの量をこなしたうえで(どうも成長が実感できない……)と思ったら、そのとき初めて、別の学習法を模索するのがいいと思います。

とはいえ、それだけやって伸びない人というのは実際にはあまり考えられません。たとえどんなに自分に向いていない学習方法を選んでしまったとしても、圧倒的な「量」の力は向き不向きを超えて一定の成果を保証してくれます。ですからその成果と自信を携えて、より自分と相性のよい学習方法を探しに出かければよいのです。こと語学学習の初期段階に関しては、どんな勉強の仕方をしても無駄になることはありえないと断言するので、安心してください。

量をこなさずにプロになった人はいない

というわけで、ここまで読んでくださった方はもうおわかりですね。そうです。なんだかんだと書き連ねてきましたが、要するに「最初のうちは教材とか方法論とか学校選びとかで悩まなくても、まじめにたくさん勉強すれば大丈夫」です。

あっ。

また1行で済んだ……。

でも、これは単なる逆張りでも開き直りでもありません。先ほど語学学習を音楽にたとえましたが、たとえ天性の才能に恵まれていようとも、日々の物理的な基礎練習を、それもある程度以上の「量」でこなさなければ、結局は才能をうんぬんする以前の問題なのは何事も同じですよね(モーツァルトのような歴史に名だたる天才は別かもしれませんが、そういう人は人類史上のバグみたいなものなのでカウントしなくていいです)。

実際、私も語学の専門家の端くれとして活動するなかでさまざまな言語の通訳、翻訳家さんと出会ってきましたが、優秀な方ほど、とにかくものすごい量を勉強なさっています

もうすこし正確にいうと、人生の一時期において(いま思うと、よくあんなに勉強して死ななかったな……)というくらい外国語学習に没入した時期が必ずあるということ、それは多くの場合、初級から中級の時期だということです。そうやってまずは量の力で基礎体力を培ってから、自分の将来的な目的(研究、ビジネス、趣味、恋愛などなど)に応じて学習方法を厳密にカスタマイズしてゆくわけですね。

プロがプロになれるとは限らない

逆にいうと、プロでも量をこなさなければプロにはなれません。っていきなり何の話だ。いま説明しますね。

外国語を生業にしている人の中にはですね、自分の専門言語に加えて新たに第2の言語を学んでみる人がたくさんいます。そもそもひとつの言語のプロになるくらい語学が好きなわけですから、当然ですよね。

ところが、2つめの言語の習得が思うように進む人は意外なほど多くありません。すでに外国語のプロなのだから語学習得の要領は誰よりも心得ているはずなのに、です。理由はかんたん。優秀で売れている人は忙しいから。つまり、「量」をやるだけの時間を捻出することが難しいからです。そう、プロであっても、まずは徹底的な量をこなさなければ始まらないのは同じことなのです。誰だって、新しい言語を始めるときには再び初学者となるのですから。

おわりに:楽して結果は出ないけど……

すくなくとも語学学習においては、教材や方法論の質が問題になってくるのはある程度以上のレベルになってから。にもかかわらず、巷では相も変わらず「より良い外国語学習法」をめぐるビジネスが花盛りです。なぜでしょうか。

厳しいことを言うようですが、それはたぶん「できれば楽して結果を出したい」と考えてしまう人がそれだけ多いからだと思います。そう、ダイエットと同じように。「できるだけ楽をしたい」「他人より得をしたい」という人情がある限り、「簡単」で「目から鱗」で「革命的」で「この1冊でOK!」な学習書は量産され続けるのでしょう。そう、ダイエット本と同じように。

でも、外国語学習を通じて異文化に触れ、いずれはより広い世界を、遠い人々やその文化、社会をもっともっと知りたいと望んでいる真摯なみなさんは、どうかそうしたビジネスに惑わされることなく、日々の地道な鍛錬に専心してください。楽して結果は出ないけど、結果が出れば楽しいですから!

学問に王道なし。

語学産業とダイエット産業の意外な共通点を指摘しつつ、これでもかというほどのベタな格言をもって、結局4500字に至ってしまった本稿を終わります。最後までふつうのことを、しかも相変わらず説教くさい口調で書いてしまったのにここまでお読みくださり本当にどうもありがとうございました。

さーて、できるだけ楽して他人より「スキ」がもらえる方法でも考えよーっと。

平野暁人

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翻訳家・通訳(日仏伊)/主に舞台芸術の翻訳、通訳を生業としています。さまざまな「言葉の使いかた」を観察し分析することで見えてくる、人間の意識や社会の変化についてつらつらと考えるのが好き。訳書に『隣人ヒトラー』(岩波書店)、『「ひとりではいられない」症候群』(講談社)など。

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コメント2件

平野さん
はじめまして。

共感しながら、あっという間に読み終えました。外国語と翻訳が好きでずっと学習してきた日々に勇気をもらいました〜!

ありがとうございます!
とものりさん

はじめまして。コメントどうもありがとうございます。
自分が大切に思っていることを丁寧に書こうとするとどうしても長くなってしまうのですが、
そのぶんテンポのある読みやすい文章を心がけているので、ご感想とても嬉しいです。
これからもお互い地道に勉強を続けていきましょう^^
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