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自治体DX推進手順書

自治体DX推進手順書がでた。色々解説記事も出ているみたい。といって、この記事では解説を書く気はさらさらない。ここで取り上げる全体手順書はほんの44ページで引用も多いから読むところはもっと少ない。難解な文章もない。解説記事読むくらいなら原文を読み込んでいただきたい。
ここでは、自治体DX推進手順書作成に関わったものとして、自分なりの思いを書いている。だから公式見解でもなんでもない。とにかく僕はこう思って頑張りましたということ。

自主的なDXと法定のDXという考え方

手順書の内容について見る前に、自治体DXを取り巻く状況について確認したい。
自治体DXを考える上で二つの視点が必要になる。ここではそれを
・法定DX
・自主的DX
と呼ぶことにする。
法定DXとは法律によってその実施が義務付けられたDXのことを指す。自治体システム標準化とガバメントクラウドへの移行、行政手続きのオンライン化がそれに当たる。
一方で、自主的DXとは各自治体が独自の視点で、自らのために主体的に行うDXのことを指す。従来からのDXとは後者の自主的DXのことと言える。

では、従来からの自主的DXに加え、なぜいま法定DXが出てきたのか。法定ゆえにむしろ法定DXの優先度が高くなっているのはなぜか。

法定DXが生まれたきっかけは「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」からと言ってよいだろう。
この報告書では2040年にむけた人口減少を危機的と捉え、多くの自治体で人工が2割、3割と減少するなか、現在の半分の職員数で自治体業務を維持する必要が出てくると予測している。そして、半分の職員数でも破壊的技術(AIやRPAのこと)を使いこなして行政サービスを維持する「スマート自治体」へ転換しなければならないとしている。自治体業務の標準化などはこのための下準備の位置づけだ。
でまあ、色々あって法定義務とまでなった。そのへんは別記事に書いている。

では、法定のDXだけやっていればよいのか、自主的なDXは優先度が低いのかというと全くそんなことはない。忘れてはいけないことはターゲットが2040だといことだ。デジタル社会への変革であるいわゆる第四次産業革命はとうに完成しており、おそらく次のフェーズに入っている時代だ。この時代に従来の常識感の行政をひきづり、標準化や手続きの電子化だけ出来上がった行政サービスが残っていたとして、それで行政が生きのびた言えるのか?持続可能な行政になっていると言えるか?当然そんなことはない。その次代の行政は自主的DXに見られる、本来のデジタル改革をなしたものになっていて初めて持続可能と言えるだろう。

DXとはデジタル社会に対応するための意識改革だ。常識の変容とも言える。そして自治体DXという意識改革には、行政の生き残りのために法定のDXが不可欠だという意識と、デジタル社会に対応した行政サービスに変革しなければならないという意識、二つの意識改革が含まれる。
この二つの意識の並走こそがこの自治体DX推進手順書の本質といえる。

全体構成

見ての通り、全体の構成は
・自治体DX全体手順書【第1.0版】
・自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書【第1.0版】
・自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書【第1.0版】
・自治体DX推進手順書参考事例集【第1.0版】
からなっている。
それぞれに版が振られいていることから、個々に独立してバージョンアップしていくことが想定される。各文章の位置づけからして当然の運用だろう。
全体としての考え方や、自主的DXを行うための「全体手順書」と「参考事例集」、法定DXを行うための「システムの標準化・共通化に係る手順書」と「行政手続きのオンライン化に係る手順書」という対応になる。
法定部分については確実な実施を求めるため、具体詳細な手順を示すという立て付けになっている。法定義務が増減すればこの辺の構成は変わっていくのだろう。

「2. DX の認識共有・機運醸成(ステップ0)」

利用者目線で、業務の効率化・改善等を行うとともに、行政サービスに係る 住民の利便性の向上につなげていくことが求められる。

と書かれている。
全体手順書が主に自主的DXをターゲットとしていると見れば致し方ないところ。だが、あくまで今回の自治体DXは自治体の生き残りをかけたDXであり、従来のように”住民の利便性向上のため頑張りましょう”みたいなゆるい話ではないことは心に止めたい。
すると、「サービスデザイン思考」とか出てくるのも若干違和感であるが、生き残り戦略とはいえデジタル社会に対応すべくしっかりDXを検討しなければならない、常識の変化に対応しなければならないということを念頭におけば、ここを軽く読み飛ばしていい話ではないということがわかってくる。デザイン思考って相当本気でやらないと効果でない。

ここで重要なことは、

首長や幹部職員から一般職員まで、「DX と はどういうものか」「なぜ今 DX に取り組む必要があるか」など基礎的な共通理解を 初めに形成することが不可欠である。

DXとは意識改革である。人口減少社会を生き残るという意識改革、デジタル社会という新たな常識に対応するための意識改革である。
意識改革というのは一部の人間だけが実施しても意味がない。常識を変えるには”みんなの”意識を変えなければならない。

「3. 全体方針の決定(ステップ1)」

全体方針は計画ではない。
DXの世界観からして計画は常に見直されるもの。変化するもの。ここで示す全体方針はもう少し安定したものである必要がある。だから「ビジョン」。
まずは明確なビジョンを持ち、それを共有しなければならないということ。
工程のほうはそれほど本質ではない。ある程度目標時期のマイルストーンはあったほうが意識共有しやすいよね、国の計画との整合性もあるしねくらいに考えてよいのではないか。

①住民の利便性の向上や業務効率化
の部分はおもに法定DXのことが書かれている。生き残り戦略の部分。
法定義務として業務システムは標準化される、努力義務だが法定マターとしてガバメントクラウドに移行する、マイナポータル経由の手続き電子化も法定要素。地方自治に対してここまで強権的に義務を課していくのは生き残るため。そこまでして足並み揃えてデジタルによる効率化を目指さないと2040が乗り切れない。2040を乗り切るには今から着手しないと間に合わない。

そうみれば、ここでのBPRは従来のような、先進的な自治体はよりよい業務プロセスを考えて改善を進めてくださいと言った話ではないことがわかる。今回の法定DXが想定するデジタルベースの業務プロセスに改めてください。職員負荷をとにかく低減させてください。システム調達もやめてください……
”住民サービスの向上”といちおう言っているが、住民サービスを持続可能とするにはやるしかないという話。

②EBPM等による行政の効率化・高度化や民間のデジタル・ビジネスなど新たな価 値等の創出
こちらは自主的DXの話。データ戦略はデータ戦略で別途検討されているのでややこしいが、DXというだけあって当然にデータ活用は重要ですということ。
とりあえず自主的DXとして切り分けてしっかり考えていく必要があるだろう。

「4. 推進体制の整備(ステップ2)」

「4.2 組織体制の整備」

組織はいろいろなやり方があるということであって、どうやるかは本質ではない。
ポイントは2つで、
・意識改革の共有と共感・協調した取り組み
・法定DXへのしっかりしたPMO体制
DXの本質は意識改革である。意識改革は全庁的に行われなければ意味がない。そしで、DX推進の組織論はそれを前提として「全体」としての取り組みにしなければならない。
セクショナリズムは以前として必要だが、DXというマインドセットにあって共感・協調を欠いた組織論はありえない。全体として、連携してすすめるというのは大前提の要件となる。
一方で、法定DXはとにかく時間がない。作業量が膨大となる。プロジェクトマネージメントが要になる。しかも複数プロジェクトが並行して走る。ここはしっかりしたPMO(Project Management Office)が必要になる。
自治体単独でPMOを置く余力がない場合は、複数団体での協力や、都道府県単位や全国単位に外部PMOを置くと言った検討をすすめる必要がある。

「4.3 DX推進のための人材育成」

人材育成と人材の意識改革は一体的に捉えられるべきだろう。
ここで言われている「デジタルリテラシー」を単なる技術知識と捉えるべきではない。デジタルツールを使いこなす知識や技術以前の問題として意識改革が必要である。デジタル人材とは、しっかりしたデジタル意識改革ができてる人材、結果として積極的にデジタルツールを活用するようになった人材と見るべきだ。
さらには、そのデジタル人材が組織全体の意識改革を牽引すると考える必要がある。だからこそデジタル人材は特定の部署、たとえば情報政策部門にいればよいということではない。広く、様々な部署に牽引役がいなければならない。

人材育成は一筋縄では行かない。しかし、技術知識や経験の習得には一定の時間がどうしても必要なことに比して、意識改革はうまく行けば短期間で成果が期待できるとも言える。
ようやく「ワークショップ」という単語がちょっとだけ手順書に入った。意識改革を考えれば座学より圧倒的にワークショップだろう。データアカデミーが成果を上げていることからも明白だ。

「4.4 外部人材の活用」

ここではCIO補佐官のことが書かれている。そこは読んでの通り。
上述の、
・意識改革の共有と共感・協調した取り組み
・法定DXへのしっかりしたPMO体制
の観点からすると、後者については切迫する法定DXプロジェクトをしっかりと回すマネージメント力が期待されるだろう。ここはわかりやすい。
重要だけどわかりにくいのが前者の意識改革たるDXのための外部人材じゃないだろうか。
意識改革は中から変えるか外から変えるか。中から変えるにはワークショップなどを通じて内部のデジタル人材を増やす。外から変えるにはDXマインドをもった外部人材を入れることになる。
なにも考えずにただ外から人材を入れたら意識が変わるかといえば、当然そんなことは起こらない。内部の意識改革がまったくないところに、常識感の違う人間をいれてうまくいくわけがない。共感・協調が生まれるはずもない。もしうまく行ったとすれば、その外部人材がとんでもなく素晴らしい人だったというだけ。
外部人材と内部人材で共感・協調を生むのだという目的意識をもって人材登用を考えれば、「外部人材の受け入れ準備チェックリスト」の内容も自明なことになってくるんじゃないかな。

「5. DX の取組みの実行(ステップ3)」

PCDAかOODAかそのへんは本質じゃないだろう。大切なのは計画は見直されるということ。つねに変化する状況に対応しなければならないということ。
KPIは達成目標だみたいな発想でやってはいけないということ。

あとは読んでのとおりかと思います。

追記
法定DXのDXへの取り組みを義務付ける(努力義務含め)法

システム標準化とガバクラは標準化法
https://www.soumu.go.jp/main_content/000750862.pdf

手続きのオンライン化はデジタル手続法
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/digital.html 

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